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新しいクラスメイト

 目を開けると体育館だった。体育の時間らしい。小豆色のジャージを着ていた。どうやら教師はいないようだ。

 体育はどうやら女子と男子で分かれているらしく、体育館にいるのは女子だけだ。サボるグループ。まじめにバレーボールをするグループ。思い思いにみんな過ごしていた。

 私はサボるグループにいて、4人の女の子達と体育館の隅のほうに座っていた。

「今寝てたでしょ。」

 隣にいた子が話しかけてきた。その子こそ、あの「井上彩花」だった。

 確かめなければ! 

「あ、彩花ちゃん?」

「は?」

「井上彩花ちゃんだよね?」

 その場にいた全員がきょとんとした顔をして私を見た。

「どーしたの?彩花ちゃんなんて呼んだ事ないのに。いつもイノッチじゃん」

 あの雑誌の写真よりも、少し幼さの残る井上彩花は笑いながら答えた。

 マジで!

 驚きで声が出なかった。

「寝ぼけてんの?」

 イノッチの隣にいた女の子が楽しそうにケタケタ笑っている。

「あ…、寝てた」

 ごまかそうとして勢い余って口走った。全員笑った。

 本当に?じゃあこの場にいる全員が実在するのかな。

 ジャージには名前が刺繍してあるので、全員の名前を覚えることができた。

 イノッチはもちろん「井上」。イノッチの隣にいるロングのゆる髪の女の子は「加藤」。私の正面にいる髪が一番明るい女の子は「岩城」。その隣にいる女の子が「木村」だ。

 とりあえず、みんなの話に適当に相槌を打つことにした。「岩城」が話し始めた。

「ねー、もうすぐ修学旅行じゃん。超楽しみー」

「ってゆーかなんで長崎なのー?ありえない!」

 イノッチが答えた。

 長崎がありえないってどゆことよ?わけがわからないがとりあえず話を合わせる。

「まじありえない。普通北海道か、沖縄だろ!」

「沖縄行きたかったー。海ー。」

「北海道でラーメン食べたかったのに」

 「木村」が答えてすぐに「加藤」とイノッチが話しに加わった。

 なるほど。海とラーメンか。思考が高校生だなあと、思わず笑ってしまった。長崎の人に謝れ。

「つーかユキちゃんの彼氏どこいくの?」

「岩城」が「加藤」に聞いた。どうやらロングの「加藤」の名前は「ユキちゃん」らしい。

「それが沖縄なんだって!超ずるい。むかつくー」

 ユキちゃんが悔しそうに話した。

「さっちゃんの彼氏はー?」

 ユキちゃんが「木村」に尋ねた。「木村」はさっちゃんか。

「こうちゃんも沖縄ー!しかもうちらと日程かぶってんの!沖縄だったら向こうで会えたのに!」

 さっちゃんも悔しそうに答えた。どうやら二人の彼氏は他校生なのね。

「あーあ。いいねー彼氏がいるやつはー。うちらなんかせつなすぎだし」

 イノッチが私に相槌を求めた。イノッチは彼氏がいないのね。

「ねー」

 イノッチに合わせる。

「誰か気に入ってる人とかいないのー?学校で。修学旅行でくっつけるかもよ」

「岩城」が聞いてきた。

「うーん」

 突然聞かれたのでとりあえず考えるふりをしてごまかした。聞かれた瞬間、「彼」の顔が浮かんだ。だけど、実際名前がわかんないし。

「マミはー?」

 イノッチが「岩城」に聞いた。「岩城」は「マミ」か。よし、覚えた。…たぶん。

 さっちゃん、マミ、ユキちゃん。さっちゃん。マミ、ユキちゃん。よしよし。

「やっぱし高橋っちかなー。でもさー、クラス半々で日程違うんでしょ?」

「なんか噂によると奇数クラスと偶数クラスで別行動らしいよ。奇数が先熊本で偶数が長崎だって」

 と、さっちゃん。

「げ。じゃー高橋っちと別行動じゃん。超ショック」

「どんまい」 

 マミが本当にショックな顔をしていて、みんなが笑った。

「ってゆーかさ、山内なんてどう?」

 マミが私に向かって言い出してぎょっとした。山内って誰だ。

「あー、そうだよー。山内といい感じだよね!今」

 ユキちゃんも同意してきた。

「山ちゃんと仲いいもんねー」

 イノッチがニヤニヤしながら肩をつついてきた。

 だから一体、山ちゃんて誰よ。

「いやーどうだろうねー」

 山ちゃんが誰だかわからないのでどうしようもなかった。どうにか話をそらさなければ。

「イノッチはどうなのよー」

「あたし?あたしは…。ってゆーかあたしタッチーに告ろうかと思うんだけどどう思う?」

 イノッチが真っ赤になりながら相談してきた。全員歓声を上げた。

「いけるよ、いける!」

「きゃー、まじで。がんばって!」

「ついにかー」

 ってゆうかタッチーって誰だ…。とりあえずみんなに合わせてきゃーきゃー言っとく。

 そのとき、体育館にジャージを着た体育教師らしき女の先生が入ってきた。

「こらー、あんたたち、さぼんなって言ったでしょ!」

「げ、来た」

 私たちはあわてて立ち上がり、バレーボールを始めた。

 遠くのほうで、ベルのような音が聞こえる…。



 目を覚ますと、目覚ましアラームがこれでもかといわんばかりに鳴っていた。

 また、あの夢を見た。

 昨日の昼に見た夢の続きではなく、あれから少し時間が経っていた。天井を見上げながら、夢の反芻をする。

 恵美はなんだか夢が名残惜しく思いながら、アラームを止める。8時。予定通りだ。

 今日こそドライブ…。

 恵美がリビングへ降りていくと、恵美の父と母である二人が朝ごはんを食べていた。

「あら、早いわね。日曜なのに」

 エプロン姿の新井由紀子が恵美を見て言った。

「おはよう」

 彼女の夫であり、恵美の父親である新井靖男が味噌汁を飲みながら恵美に言った。

「おはよー。ごはん何?」

「出かけるの?」

 味噌汁を温めていた由紀子に聞かれたので恵美は頷いた。

「車使うからねー」

「あ、そう」

 新井家の車は一台。靖男は、完全なる休日ドライバーだ。由紀子はせいぜい買い物に行くときに使うぐらいである。

 部屋で化粧をして仕度を整え、昨日送られてきたお菓子を適当に選んで大荷物で車に乗り込んだ。

 恵美の家は東京都下である。都心までは車でおよそ30分。今日の目的は新宿だけど、ドライブがてらお台場までいこう。そう思いながら、国道の道に出た頃、今日の夢が思い出された。

 変な夢…。

 ただの偶然だ。同じような夢を今日も見ただけ。きっともう見る事はない。

 この時点で、恵美の中であの夢はまだただの夢だった。風変わりな夢を二度連続して見ただけのことだ。 

 イノッチのことも、昨日の雑誌が印象的だったからにすぎないのだ。

 そう自分を納得させて、流していた音楽に耳を傾け口ずさむ。 

 すでに甲州街道に出ていた。ちらちらと新宿摩天楼が見える。

 新宿は好きな街だった。たまに使う安めのパーキングに車を駐車して、恵美は南口に歩いていった。

 バイトをしようと思っていたその店は、駅ビルの中にある小さなカフェで、とりあえず入ってお茶を飲むことにした。

 期待通り雰囲気のいい店で、恵美はすぐに気に入った。家に帰ったら電話しようと思った。履歴書も書かなくちゃ。

 むくむくと、働く意欲がわいてきて、あの夢の事は忘れていた。



 その日の夢は、やはり例の夢だった。前の日と似たり寄ったりな夢で、相変わらず私達五人は、高校生のどうでもいい話を話し続けていた。

 まあ、本人たちにとってはどうでもいい話じゃないんだけどね。

 学校が終わって、私はイノッチの修学旅行の買い物につきあうことになっていた。

 内心はらはらしながら、二人で新宿東口からアルタへ向かった。

 だって、ほとんど初めて会った人と買い物に行くようなものだ。

 心配をよそに、イノッチはサクサク買い物を楽しんでいる。

「これ可愛くない?」

 イノッチがトレーナーをひらひらと見せた。

「可愛い」

 私も高校のときそんなの着てたな。若ぇ~。

「じゃー買ってくんね」

「ほい」

 周りを見渡すと店内には高校生の時に流行っていた服がずらりと並び、懐かしさがこみ上げた。

「ごはん行かない?おなかすいた」

 イノッチが、昔みんなが持っていたショップバックをうれしそうに持って、腕を私の腕にからませた。そのとき、高校生の時の記憶が甦った。仲のいい女友達と、腕を組んだり手をつないだりして歩いていた。その感覚を思い出す。

「うん」

 なんだか嬉しかった。新しい友達ができた気分とは、少し違う。

 昔からの親友が、引っ越してまた帰ってきたみたいな感じだろうか。

 よくわかんないけど、イノッチとはなんだかウマが合う。

 ハンバーガーショップに着いて、昔も今もかわらないチーズバーガーのセットを選んで二階に上がった。

「そこ空いてる!」

 二階の窓際の四人席が空いているのを見つけて、イノッチはずんずんと向かう。

 その高校生らしい堂々とした行動に笑えた。

「修学旅行いつからだっけ?」

 私はチーズバーガーに食いつきながらイノッチに聞いた。

「やる気無さすぎ。2日からだよ。11月」

 イノッチがあきれたようにジュースを飲む。

「…今日何日だっけ?」

「…10月28日だよ」

「え?もうじゃん!あたし何も用意してない!」

「…ばか?」

 なんて自然に話をしているんだろう。ふと思って笑えた。さっきまでの緊張が嘘のように、私はイノッチの親友ぶっている。

「あーどうしよ」

「何?」

「タッチーに告るなんて言わなきゃよかったよー」

「なんで?いいじゃん告りなよ」

「人事だと思ってー。絶対マミとかプレッシャーかけてくるよ」

 一瞬、マミの顔を思い出して、吹き出した。すごいプレッシャーかけそうな顔してた。

「笑い事じゃないって。あー!ねえ!山内に告んない?」

 イノッチがおねだりをするような顔で私を見る。

「えー?告んないよ」

 だって山内が誰かもわかりませんから。

「絶対脈ありだよー。一緒に告ろうよ~」

 イノッチはどうにか仲間を探そうとしていて必死です。おもしろいです。

「もーどうしよー。緊張する!」

 そう言いながら、イノッチはハンバーガーをがつがつ食べている。

「どうやって告ろう。どうしよう。なんていおう」

 一人で自問自答しています。真剣なイノッチのために、私もつい真剣に考える。

「普通に呼び出せばいいじゃん。ちょっと来てって」

「あからさま過ぎないかな?告るってバレバレじゃない?」

「じゃあなんか借りて返すとかさー」

「ええ?だって何も借りてない!」

「じゃ、なんか借りなよ」

「でも修学旅行の時に普通返さなくない?」

 もー。あー言えばこう言う。

「ねえ。やっぱりアミも告ろうよ」


 アミ?


「ほら、上手くいったらダブルデートとか!できんじゃん?絶対楽しいし」

 今、何て言った?

「亜美お願い!」

 イノッチが、私のことを亜美って言った?

「どうしたの?」

 あまりにも私が驚いていたのか、イノッチがきょとんとして聞いてきた。

「いや…なんでもない」

 思わず顔を横に振る。手が震えてるのを感じて、思わずテーブルの下に隠す。

「あー、もう!いつ言えばいいんだろう。マジ悩む。てか振られたらどうしよ。二度と会えない。同じクラスだけど」

「ちょっとトイレ」

 私は急いでトイレに向かう。後ろからイノッチの大丈夫?っていう声が聞こえたけど、それに答える暇もなかった。


 トイレで洗面台の鏡を見る。


 鏡の前に、「亜美」がいた。





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