誕生日前祝い
金曜の学校終わりに、みんなでカラオケに行った。
来週来る、亜美の誕生日パーティーを兼ねて。当日はもちろん直樹と過ごすんだろうと見越して、みんながささやかながら開いてくれたのだ。
「じゃー亜美ー!ちょっと早いがおめでとー!」
マミのマイクを通した一声で、みんなふぅーとかイエイとか奇声を発している。
酒が入っていないのがおかしいくらいテンションが高い。やっぱり若さのせいなのか。
イノッチがこそこそリモコンを操っていた。
そして流れた曲は当然のように「ハッピーバースデイ」だった。全世界ほとんどの人が知っているであろう曲がスピーカーから流れ出し、さっちゃんとユキちゃんとマミとイノッチが歌ってくれた。
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー」
まるで幼稚園児の合唱のように、全員精一杯声を張り上げて歌ってくれた。
「ハッピバースデー、ディア亜美―」
全員が私を指して笑っている。
亜美。みんなが祝ってくれてるよ。私は心の中で思った。
土曜の夜、恵美の誕生日パーティーが行われた。パーティーというには夢同様質素であったが、高校時代の仲間たちが居酒屋で飲み会にかこつけて恵美の誕生日を祝ってくれたのだ。
高校卒業以来、久しぶりに会う友人もいて、恵美は懐かしさがこみ上げた。
「おいおいやっと二十一?」
「俺なんか来月二十二なんだけど」
「やばいね」
「やばいよ」
酒が入って全員テンションが高い。恵美は、夢と現実の違いに一人苦笑した。
「てか本当懐かしいね。もう卒業して三年?」
「お前かわらねー」
全員そう言って笑うけれど、高校の時とはやはり違うと恵美は思った。
「恵美誕生日どうすんの?」
「バカ」
「誕生日はほら」
「あ、ごめん」
「ううん」
恵美の双子の姉、亜美の命日だということは、高校のときの友達ならみんなが知っていた。
高校二年生の誕生日から、恵美は一週間学校に行かなかった。…行けなかった。
「うん、まあ…人生色々男も色々だよな」
「そうよね。いや古くない?それ誰の歌だっけ?」
「島倉千代子よ」
その場の雰囲気をなんとか和まそうと、友人の一人が明るい声で言った。それにみんな続く。恵美も笑顔で返す。
恵美はそんな光景を見ながら、四年前を思い出していた。
憔悴しきっていた恵美を、暖かく迎えてくれた。慰めてくれた。和ませてくれた。
何年も会っていなくても、会えばパズルのピースが合わさるようにしっくりと感じる。
この人たちが、本当の私の友達。
高校三年間の思い出。共有してきた仲間たち。
彩花たちと一緒にいるときの感覚とは違う。雰囲気が違う。
そんなの当たり前だ。私達には私達の過去がある。違う過去を経験してきた。違う人生を歩んできたのだ。
「恵美、おかわり来たよ」
恵美は言われて、よっしゃあ、と言ってビールを飲み干した。




