バレンタインと誕生日の行方
一月も終わりが近づいていた。となると、話題に上るのはバレンタインのことばかりだった。現実の世界でも、夢の世界でも。
イノッチも、さっちゃんも、ユキちゃんも、マミも、みんなバレンタインの話ばかりだ。
「チョコ買う?」
「作る?」
「何買う?」
「ホワイトデーで何もらう?」
てな感じに。
「亜美はどうするの?」
みんなの話を聞きながらぼーっとしてた私にイノッチが突然話しかけた。
「う~ん。作るかな…」
亜美は毎年作っていたから。きっとこの年も作っただろう。
「そっか~。どうしよ~」
イノッチが雑誌のバレンタイン特集ページを見ながら悩んでいる。
「あげるからにはお返しが重要だよね」
マミが、イノッチの見ている雑誌の「ホワイトデーお返し欲しいもの特集」を熱心に覗く。
「マミあげんの?野口君?」
さっちゃんの問いかけに、マミが気難しい顔をしながら人差し指をあごにつけて、考えるポーズをした。
「誰に脈ありだと思う?」
全員ため息をついて笑った。
「不純な動機だわ」
「お返しが確実に欲しいわけね」
みんなの不評を無視して、突然思い出したかのようにマミが私のほうを向いた。
「そういや亜美の誕生日ホワイトデーだよね?」
全員、あっと言いながら私を見る。思わず苦笑いで返す。
「いいね~。なんか。あたしもそういうイベントの日がよかった。クリスマスとか」
「一緒だとプレゼント一個しかもらえないよ」
「あ、やっぱやだ」
マミの一言に、さっちゃんがつっこんで、マミは一瞬で前言を撤回した。
「亜美がうちらの中で一番若いのかー」
ユキちゃんがしみじみと私を見る。
みんなもうとっくに十七だもんね。とユキちゃんが言った。
「タッチーもまだよ。二月の終わりだもん」
イノッチの言葉に、みんなふーんとかへーとか興味のない声を出した。イノッチがちょっとは関心もってよ。と呟いた。
その時、イノッチの言葉から、自分がまったく気づいていなかったことを思い出した。
「ちょっとまって山内の誕生日いつ?」
私の真剣な声にも、みんなふーんとかへーとか興味なさそうに言った。ちょっとは関心もってよ。
「亜美知らないの?ってかあたしも知らないけどさ」
イノッチだけは関心を持ってくれた。
そして、タッチーに聞いてあげるよと言って、そそくさと席を立った。
その他三人は、再び雑誌に注目している。
廊下でイノッチがタッチーと喋っていて、そしてすぐに私たちのほうに戻ってきた。
「もう終わってるって。十一月だって。三日」
「うそ!マジ?一応付き合ってるじゃん!」
ちなみに付き合いだしたのは、十一月二日からだ。
「へー修学旅行ん時、誕生日だったんだ」
マミとユキちゃんとさっちゃんは、さほど驚いている様子もなく、適当に相槌をうった。自分の計画でいっぱいいっぱいのようだ。
私はというと、一人あせっていた。私につられてイノッチもあせっていた。
「どうすんの?」
「どうしよう」
その時、チャイムが鳴った。マミとさっちゃんとユキちゃんは、順番に私の肩に手を置いていって、自分の席に戻った。
教科書を机の上に出して、さてどうしようかと考えていたら後ろのドアから山内たちのグループが入ってきた。私は窓際の後ろに座る山内をじっと見つめた。というか睨んだ。
私の視線に気づいて、山内は、ん?という顔をした。
私はふんっという顔をして、すぐ前を向いた。
きっと山内は、ん?っていう顔をしただろう。前を向いちゃったから見えなかったけど。
目が覚めてから、恵美は山内の誕生日に贈るものを考えた。
授業中もその事を考えていたせいで、恵美はほとんど微動だにしなかった。手に頬を置いて、肩肘をついたままじっとホワイトボードを見続けるその姿は、はたから見たらまじめな大学生に見えたことだろう。しかしノートは真っ白だった。
何を贈ればいいのだろう?イノッチが知らなかったということは、亜美も知らなかったに違いない。
どうして教えてくれなかったのだろうか、でも山内らしいといえば、山内らしい。
恵美はさっきと同じままの格好で、笑みをこぼした。
「何笑ってんの?」
隣で携帯をずっといじっていた友達が、恵美の思い出し笑いに反応して言った。
「思い出し笑いしただけ」
恵美がニヤリと笑った。
「思い出し笑いする人ってエロイんだよ」
「そうなの?」
「そうみたい。彼氏できた?」
友人はニヤニヤしながら恵美を見た。もう二人とも授業中だという感覚はなかった。カフェで会話を楽しんでいるかのように話しを続ける。
「ううん。あのさ、彼氏に誕生日何あげたことある?」
一応否定をして、恵美は友人に質問した。友人は首を傾げて少し考えた。
「誕生日?バレンタインじゃなくて?」
「うん」
「財布でしょ。ゲームでしょ。…このまえはチャリンコ」
「なんでチャリンコ?」
「だって欲しいってゆうから。でもちっちゃくてかわいいやつだよ。ママチャリじゃないやつ」
「ふ〜ん」
「どっか行く予定?」
「ってかもう終わってんだよね」
恵美の言葉に、友人はきょとんとしてから、じゃあ本人に欲しいもの聞いたほうがいいんじゃん?と言った。
「サプライズの意味もないしね」
友人の言葉に、なるほど、と恵美はうなずいてまた模範大学生の格好をした。




