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そばにいたい

 学校が終わって山内と一緒にカフェで放課後を過ごした。

「今日どうしたん?」

 言われてドキっとした。

「なんかおかしくない?」

 ばれてる…。気持ちが落ちているのがバレないように元気ぶっていたのがかえっておかしかったのかな。こんなんじゃ女優になれないわ。いや別に目指しちゃいないけど。

「あたしはいつでもおかしいよ」

「あ、そっかぁ」

 おかしそうに山内が笑う。笑うとこじゃないし。

 カフェラテを飲んですねてる私を見て、山内が私の頭をポンポンたたいた。 

「うそうそ、なんかあった?」

「…ない」

 笑顔をかみしめながら、山内のほうをチラっと見る。

 こんなことで、もうなにもかもがどうでもよくなってしまう自分に驚く。

 山内に頭をなでられたくらいで、元気になってしまう。

 ますます重症。なんでもないはずがないのに。この瞬間に満足してしまう。山内と一緒にいられるこの瞬間が永遠に続く気がしてしまう。 

「今日はもしや恵美?」

 山内が笑って私に言った。息が止まるかと思った。

 冗談を言っているのはわかってる。でも私にとっては冗談にならないよ。

「そう。恵美」 

 涙が出そうになって、あわてて目をこすった。

 私は亜美じゃないよ。

 山内に名前を呼ばれるたびに、今更それを思い知らされる。本当は幸せな瞬間のはずなのに私にとってはまるで罰だった。

 山内が、好きで好きで苦しい。

「目、ゴミ入った?」

 心配そうに山内が私の顔を覗く。

 まっすぐに私の目を見る。 


 私じゃなくても、いい。

 この人が誰を好きでもいい。亜美を好きでいい。

 それでも、この人が大好きだ。 



 新年開けの大学も始まって少し経ち、現実の世界もまたいつもの日常が戻っていた。

 恵美は久しぶりに会った大学の友達と、学校帰りに新宿でお茶をした。

「恵美就職どうすんの?」

 二年でほとんど単位をとってしまった友人が、大学の話をしていた時に恵美に聞いた。

「う~ん、微妙」

「微妙なんだ」

 友人が笑う。

 彼女は今日も就職活動真っ最中のようで、リクルートスーツに身を包んでいた。四年も近くなれば、スーツで授業を受ける人も少なくは無い。

「卒業したくないなー」

「恵美、卒業できんの?」

「失礼な」

 もうすぐ四年生になる。もう就職先が決まる人はもう決まり始めていた。恵美は適当にはぐらかしながら、別の話に流した。

 まだ、このままでいたかった。大学生というカテゴリーの中におさまっていたかった。

 そして何よりも、あの夢にまどろんでいたい。山内の傍にいたいのだ。

 代わりでもいいから。   


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