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夢のはじまり

 その日は曇っていて出かける気分にはならなかった。

 

 朝から車で出かけようと思っていたのに、起きると11時を過ぎていた。

 カーテンを開けて外の曇り空にため息をつく。出かける用意をしようと思いながらも、テレビをつけてぼーっとしていたら、12時をまわってしまっていた。

 お腹がすいたので階下の台所へ行き、家に誰もいない事に気づいた。 

 両親が映画を見に行くと言っていた事を思い出し、常備してあるインスタントラーメンを作って食べた。

 だらだらとしているうちに、ついにはスマホでゲームを始めてしまってますます時間は過ぎていった。

 大体私はルーズなんだ。時間にも。なにもかも。


 新井恵美は大学三年生の秋を迎えていた。

就職活動に突入する年であったが、恵美はまるで無関心であった。周囲の焦りの色とは裏腹に、夢もなく、大学でも何を勉強しているのかよくわからない授業で単位だけをとる日々を過ごしていた。

 ただ、バイトを始めようと思っていた。今日出かける予定だったのは、バイトをしようとしているカフェの下見に行くのが目的だったのだ。

 昨日買ったファッション雑誌を広げながらソファーに横たわっているうちに、恵美は出かける事を忘れていた。

 そして、瞼が落ちていた。



 目が覚めると、そこは学校だった。

 チャイムの音が聞こえる。周りには制服を着た学生が楽しそうに騒いでいる。見慣れない教室。見慣れないクラスメイト達。高校生だろうか。


 ここどこ?

 

 その時ドアから先生らしき中年の男が入ってきた。

「おはよー。今日は休みいるかー?」

「鈴木君がいませーん」

「センセー、山崎さん遅刻でーす」

 柔らかい雰囲気を持ったクラスだった。誰もがクラスに溶け込んでいる。

 突然視線を感じて、振り向いた。

 窓際の席の一番後ろ。こちらを見ていたのは、びっくりするほどカッコいい男の子だった。

視線があったと思った瞬間、彼の視線は窓の外に向けられた。私も思わず前を向いた。心臓がうるさく動き出す。

 その時、後ろをこづかれた。

「ねえ、消しゴム貸して」

 後ろを振り向くと、見慣れない女の子が手を出していた。名前も知らない友達。夢のはずなのに、どこまでもリアルな夢だ。

「あ、消しゴムね」

 いつのまにか机に置いてあった筆箱から消しゴムを出して渡した。筆箱を見た瞬間、驚いて目を見張った。

 その筆箱は、高校生のときに使っていたものと同じものだった。

「ありがと」

 女の子が消しゴムを返してきた。その声でふと我に返る。

 HRが終わって教室を出てみた。二年二組。見知らぬ廊下。私の行っていた高校とは違う制服。

 本当に夢なのか。現実と区別がつかない。      

 それでもなんだか居心地がいい夢だ。

 とりあえず教室に戻って席に着いた。

 自分のものではないブレザーの制服に身を包んで、教室を見回した。

 窓際の席の彼はいつの間にか机に身をゆだねて寝ていた。



ピーンポーン。


 インターホンの音に目が覚めた。

 リビングのソファーで眠ってしまっていたらしく、テレビもつけっぱなしだった。恵美は寝ぼけた頭をかきながら、今見た夢を反芻する。

 まだ「彼」の顔は覚えている。忘れられないくらいのイケメンだったなあ。でも、なんだかどっかで見たことあるような…あんないい男一度見たら忘れないって。

 ピーンポーン。

 邪魔してくれたじゃない。憎憎しい気持ちをいつの間にか横になっていた我が家のソファーにおいといて、インターホンの受話器をとった。

「はい」

「お届け物です」

 インターホンを切り、電話の横にある小物入れから印鑑をとって玄関へ向かった。鍵を開けてドアを開ける。ドアの外には配送会社の作業着を着ているおにいさんが笑顔で出迎えてくれた。

「ここにハンコをお願いします」

 差し出された荷物は、三十インチのテレビでも入ってるのかと思うくらいの大きさのダンボールで、恵美は言われたとおり判を押した。押し方が悪かったらしく名前がかすれて読み取れなかったので、苦笑いをしてかすれた名前の隣にもう一回押した。

「ありがとうございました」

 ダンボールを運ぼうとして気合を入れて持ち上げたら、恵美の予想以上に軽く、非力な恵美でも易々と運ぶことができた。届いたダンボールを開けると、ぎっしりお菓子が入っていた。送り主は祖母だった。   

 おばあちゃんは私が一体いくつになったと思ってるんだろう…。秋の新味のポッキーを食べながら恵美は思った。

 ダンボールから色々なお菓子を取り出して吟味してから、キッチンでミルクティーを入れ、寝る前に見ていたファッション雑誌を途中まで見ていたところから再びめくった。

 特に思い入れも無く、ペラペラとページをめくっていると、ふと、なにか心にひっかかる。そのひっかかったページをもう一度開き、今度はじっくり見定めた。

 そのページはいわゆる街頭ファッションチェックなるもので、一般人の女の子がファッションをチェックされているコーナーだった。

 恵美はそのページの右端にいる女の子を見て息をのんだ。

 まさか。そんなまさか。

 そのページでファッションをチェックされているその女の子は、先ほど見た夢で後ろの席に座っていた女の子だった。

 女の子の名前は「井上 彩花さん 21歳」。

 確かに今見た夢の女の子よりも大人びている。とゆうよりむしろ、あの女の子が成長したようだった。

 見た事がある人や、有名人が夢に出てくる事はよくある。でも。


 でも、この子の出ているページは、寝る前にはまだ見ていなかったのだ。

 

 恵美は雑誌を凝視したまま目が離せなかった。

 しかし、この女の子があの夢の女の子だと言う確証はない。よく似た人なのかもしれない。思考はめぐる。しかし、結局行き着くのは気味の悪い違和感でしかなかった。


 なんなのあの夢は。


 そうだ、きっとこの子は前もなんかの雑誌に出ていたことがあって、覚えてないけれどそれが頭の中にインプットされて夢にでてきたのかもしれない。あー。きっとそうだ。

 無理矢理頭の中で納得したわりに、一つどうしても恵美の頭から離れないことがあった。

 もしかしたら。まさか。

 

 彼も実在するかもしれない。



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