亜美の日記
「亜美、ごはん食べにいこ」
昼休みだった。三学期も始まり、私たちはいつも通り昼ごはんを学食に食べに行く。
「今日何食べよー」
イノッチが財布の小銭と相談している。
学食についたらパン売り場があって、その向かいに食券売り場がある。おばちゃんがてんてこまいだ。奥に行って厨房のカウンターで券と定食とかを交換する。
「うわ、食券売り場、超混んでるし。あたし今日パンにしよー。お金ないし」
後ろでマミがぼやく。
ものすごい人の数で食券売り場の前は満員電車状態だ。マミがいつのまにか後ろにいなかった。私も自分の財布の小銭入れを見る。
「今日何食べよう…」
つぶやいた瞬間後ろに気配を感じた。
「うわ、金ねえ~」
山内が私の真横から顔を出した。私の小銭入れをのぞいている。
「うるさいよ」
「これあげる」
山内に紙パックのイチゴミルクを渡された。
そのまま山内はタッチーたちと学食のラーメンの列に加わった。
「いーな、亜美。もらったの?」
イノッチが私の持っているイチゴミルクを見て言った。
「もらった」
思わずにやける。
「相変わらずラブラブだね~、腹立つわ」
いつのまに戻ってきたのか、マミがパン二個片手に背後に立っていた。
「あ、あそこに野口君がいる、あの席すわろ」
マミが大急ぎで野口君たちのグループがいるとなりのテーブルに席を取った。
「あれ、まじで狙ってんの?マミ」
「どーなんだろーね」
私とイノッチはマミの変わり身の早さに思わず立ち止まる。
「ちょっとお~早く~」
精一杯かわいい声だしてます。マミちゃん。
冬休みが開けて、恵美は久しぶりに大学へ行った。
講義室で、外を見ながらぼーっとしていると、寒くてめんどくさいから行かないと、一緒の授業をとっている友達からメールが来た。
恵美がため息をついて携帯を閉じると、丁度教授が教室に入ってきた。
授業を受けながら、恵美は夢の日記帳を暇つぶしにペラペラめくって最初から読み始めた。
後から読むと、まるで恋をする高校生の日記そのままなことに笑ってしまう。
まるで亜美の日記のように。
ふと気づいて、恵美の体が凍りついた。
まるで亜美の日記だ。
夢の中で恵美は「恵美」として確実に行動しているのに、どうして「亜美」と同じ道を歩んでいるのだろうか。
夢の中の「亜美」は、確実に二十歳の「恵美」。でも、現実の「亜美」が、歩んだ人生になっている。
あの修学旅行の写真がそう示していた。
どうしてなのだろうか。
何が自分に起こっているのか、気味の悪い違和感さえ、すでに失っていた。
この夢がおかしな事にはとっくに気づいていた。それでも、この夢を毎晩楽しみにしている自分がいた。
山内直樹に会うための、唯一の手段だったから。




