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HAPPY NEW YEAR

 「夢」の新年を私は山内とイノッチとタッチーで迎えた。三十一日の夜から四人で東京タワーに向かった。

 実際高校2年生の私は確か、友達と地元で晩御飯を食べて神社にお参りに行ったはずだ。あのとき親には友達の家に泊まると言ったから、きっと亜美もイノッチの家に泊まることにしてあるのだろう。

 高校に入ってから、亜美と年を越したことがなかった。それを思うと、人ごみの中、みんなが楽しそうに笑っている中、胸が痛む。

 隣にいる山内を見て、クリスマスのことを思い出した。あれから浩平からの連絡はない。自分から断ち切ったのだ。


 この人を、選んでしまった。


「なんか腹へらねー?」

 私の心情とは裏腹に、山内はどこまでも能天気だ。思わず笑ってしまう。

「さっき食べたじゃん」

 前を歩いているタッチーのつっこみが入る。

「あ、東京タワーだ」

 東京駅で、みんなで晩御飯を食べて、浜松町から四人でだらだら歩いていた。イノッチが指差す方向を見ると、東京のシンボルといえるそれがライトアップされた真っ赤な姿を見せていて、全員のテンションが一気に上がった。 

「あたし東京タワー上ったことないんだよね」

 私はどきどきしながら山内の腕にしがみつく。

「東京に住んでる人って逆にのぼんないよね」

 イノッチがタッチーと手をつなぎながらこっちをふりむく。

「ってかさー。のぼれんの?」

 タッチーがぼそっとつぶやく。

「だよなあ。もうしまってんじゃねー?」

 山内もつぶやく。

「ええ?うそ!」

 私とイノッチが叫ぶ。イノッチものぼりたかったらしい。

「のぼりたいのぼりたい~」

 私とイノッチがだだをこねる。

「直樹ーたこ焼き食お、たこ焼き」

「食う食う」

 山内とタッチーがうちらをシカトしてたこ焼き屋に吸い付いていく。たこ焼きに負けた私たちは悔しげに二人に駆け寄る。

 結局、案の定東京タワーは閉まっていたので、足元にある芝増上寺で、カウントダウンまで時間をつぶす。

 手始めに引いてみたおみくじを、テストの点数を競い合うみたいに全員で見比べた。

「やーい、俺大吉―」

 山内が満面の笑顔で大吉の紙を見せる。

「げっ、あたし小吉。…亜美は?」

 私もドキドキしながらおみくじを開いた。

「あたし凶…」

 凶って…。

「あ、俺も大吉だ」

 タッチーが追い討ちをかける。

「なになに?健康悪し?失せ物出ず?待ち人来ず。来ずだって!」

 山内がゲラゲラ笑いながら私のおみくじを読む。

「大丈夫だよ、悪いほうがいいって言うじゃん」

 イノッチが慰めてくれる。

「そうだよ、失せ物は出なくても無くしたこともすぐ忘れるからいいじゃないか」

「そうだよ」

 タッチーと山内はディスってるのかな?

「もういいです。来年はきっと良くなる一方よ」

 自分で慰めるしかない。 

「うそうそ、待ち人はもう来てるからいいじゃないか」

 山内がこっそり耳打ちする。

 そうよね。

「えへへ」

 またもや山内にしがみつく。なんて単純な私。

「ちょっと、そろそろ十二時だよ」

「東京タワーの下いこうぜ」

 タッチーとイノッチにせかされて、いそいで東京タワーに近づく。

 東京タワーの下にはカウントダウンを待つものすごい人が集まっていた。遠くのほうでカウントダウンのイベントをやっているみたいだった。

「あと30秒」

 タッチーが携帯で時報を聞きながら言った。それと同時に、イベントのほうからカウントダウンの声が始まった。

「東京タワーの色が変わるんだっけ?年が出るんだっけ?」

 イノッチがタッチーに聞く。

 私はどう変わるんだろうと東京タワーを眺めた。

「あと10秒」

 山内が握っていた手を一瞬強く握る。思わず山内のほうを見た。

「来年もよろしく」

 山内が言う。

 まわりでもカウントダウンが始まる。

「5、4、3、2、1、・・・あけましておめでとー」

 カウントダウンと同時にどこからかものすごい量の風船が巻き上がった。真っ暗な空にまるでシャボン玉のように大量の風船が舞い上がる。

 歓声が沸き起こる。

 タッチーとイノッチが遠ざかる風船を見上げた。山内もそっちに目を向けたと同時に、山内の顔をこっちにむけて軽く唇を奪った。   

「今年もよろしく」

 私の言葉に、山内が笑った。 



 駅ビルが正月の二日までは休みなのでバイトも休みだった。

 恵美の現実の正月はまったりと陰へ陰へと入っていた。つまりは家から出ていない。

 二日の夕方に地元の友達に誘われて、恵美は地元の神社へ初詣に行った。四年前、友達と大晦日を過ごした神社だった。

「あたし初日の出も見てないんだけど」

「いや、あたしもだから」

 四年前の初日の出は見たけど。とゆう言葉は飲み込んだ。

 久しぶりに会った友人と、初詣をして、おみくじをひいた。

「あ、あたし中吉」

「あ」

 恵美は引いたおみくじに愕然とした。

「凶…」

「あはは、恵美ついてねー」

「今年ついてないかも。まじで」

 二度も凶をひくなんて結構ないと思う。おみくじを凝視しながら恵美は思った。

 夢で引いたのと内容もほとんど同じだった。

「今年は彼氏できますよーに」

 友人が、御縁があるようにと五円を賽銭箱になげて祈った。

 恵美もつられて五円を投げて、祈った。


 ―夢が続きますように。 


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