亜美と恵美
夏休み中はできるだけ毎日更新しようと思います。
亜美は恵美の双子の姉だった。
高校二年生の終わりに、交通事故で死んだ恵美の一卵双生児の片割れ。親でさえ間違えることがあるほどよく似ていた双子の姉。皮肉なことに、命日は二人の誕生日だった。
十七歳の誕生日は雨だった。
私は友達と渋谷に遊びに行っていた。
そして、亜美を見かけた。
妬ましかった。誕生日に彼氏といる姉が。友達に紹介したくなかった。自分が惨めになるだけだから。
自分よりいい高校に行って、かっこいい彼氏をつれている姉。
一瞬目が合ったとき、すぐ逸らして、その場をすぐ走り去った。あとで気づかなかったと言えばいいと思った。
その時は、もう二度と会えなくなるなんて思いもしなかった。
私は、亜美を妬んでいた。
なんでもできる亜美。同じ顔なのに、なぜか昔から亜美が可愛いがられた。褒められた。勉強も運動も、亜美のほうが出来がよかった。両親は二人を区別せず愛してくれたけれど、他人は違かった。
私たちは区別された。出来のいい姉と、できの悪い妹と。
中学の時まで何度も亜美と間違えて告白された。好きな人にまで。
亜美はその人と付き合って、その後すぐに振った。
プライドが、ずたずたに引き裂かれた。悔しかった。どうして亜美ばっかり。
プライドを捨てて、姉を愛せてればよかった。でも、プライドは捨てられなかった。
姉と違う高校に入って、姉と趣味の違う服を着て、姉と違う交友関係を広げた。
姉の高校の友達にも会ったことはなかったし、私の友達を紹介もしなかった。とられたくなかった。
そんなくだらない私のヒガミ根性を知りもしない姉は、いつも優しかった。
そして突然いなくなった。
「どうしたの?」
学校帰りに山内が私の顔を見て首をかしげた。
「え?何が?」
「今日元気なくない?」
「そんなことないよ~ん」
見透かされている。現実であったことを、夢でまで引きずる私も私だけど。
「なんか食ってかねー?何食いたい?」
「カウンターの寿司」
「は?どっか行ってください」
どっか行きたいです。
「回転してるのでいい?」
やさしい山内。
「カウンターは宝くじがあたったらね」
「一生当たんないと思う」
「じゃあおまえ一生無理だ」
涙が出そうだった。
山内の一生に私の場所がある。そう思った瞬間、現実に引き戻された。
違う、亜美の場所がある。
(ごはん食べにいかない?)
授業中、浩平からのメールに気づいた。思わず画面を見て考え込んでいると、一緒に授業を受けていた友達に覗き込まれた。
「誰?この前の合コンの人?」
一緒に合コンに行った友達が、ニヤニヤしながら見ていた。
「うん…。この前映画行ったんだけどさ」
「まじ?どうなの?どうだったの?」
友人は目を輝かせながら恵美の返事を待っている。女子というのは本当に恋愛話が好きだなと恵美は思った。夢の中でも。現実でも。
「うん。なんか、いい人そう」
「よかったじゃん!てか、なんでそんな微妙な顔なのよ」
友人が笑いながら言った。恵美は思わず表情を確かめるように、頰を両手で覆う。
あの「夢」から引き戻して欲しいと願った。「恵美」と呼んでくれる人を見つけた。
望んだことだったのに。
山内のことが好きだった。
今まで生きてきた中で、こんなに人を好きになったことはないと思うほど。好きで、好きで、苦しいほどだった。それでも夢を見ない日はなかった。山内に会わない日は皆無に等しかった。
山内の少年独特の無邪気さとか、時々見せる聡明さとか、日々成長し続ける彼に魅了され続けた。現実も見えなくなるほど、山内に夢中だった。
山内の行動に一喜一憂して、彼のために何でもできそうな気さえしていた。そんな恋は初めてだった。
あの人を置いて、亜美は逝ったのだ。
どうすればいい?私はどうすればいい?亜美。
私はバカで、山内を吹っ切ろうとしといて結局山内に慰められている。
どんどん好きなる。姉の恋人を。
中学のときと同じで、結局選ばれたのは亜美なのに。
プライドなんてどうでもいい。山内のそばにいれれば。
夢だからいいじゃないかと思っていた。でも、すでに夢の中だけですまない感情が心の中にあった。




