額縁の中の亜美
「恵美ちゃん、こっち」
待ち合わせ場所に行くと、浩平が、手を振っていた。
「なんの映画見る?」
こんな顔してたっけ?と、恵美は浩平の顔を見ながら思った。
「なんでもいいよ」
恵美が言うと、浩平は自分のおすすめは…と、今やっている映画の話をし始めた。なんとなく相づちを打ちながら、浩平の選んだアクション映画を見る事にした。
恵美がトイレに行っているうちに、浩平はポップコーンとジュースを買っていてくれた。
「ありがとう。いくらだった?」
恵美がお金を出そうとしても、浩平は大丈夫と言って受け取ろうとしなかった。
映画中、山内のことばかり考えている自分がいた。
罪悪感を感じる事なんて何もない。自分は、「彼女」じゃないんだから。そう何度も思っても、胸の奥がひりひりするような感覚に襲われる。
夢の中の人に恋をするなんてばかげている。
姉の恋人に恋をするなんてばかげている。
現実逃避なのかもしれない。
映画が終わると、浩平は興奮したように映画の感想を語った。
いい人かもしれない。そう思ったときに、少し、がっかりしてもいた。嫌な人だったらもう会わなくてすんだのにと思ったから。
そんなことを考えている自分に後ろめたさを感じた。
他に好きな人がいるなら会うべきじゃない。わかっている。でも、あの人は夢の中の人なのだ。
あの人をあきらめるために、この人を利用しようとしているのかもしれない。
夜ご飯を一緒に食べて、浩平との話は思いのほかはずんだ。旅行が趣味なことや、映画の話で盛り上がった。
「また、連絡するね」
浩平はそう言って、恵美に手を振った。恵美はそのまま駅の改札をくぐり、一度振り返ると、浩平はまだこちらを見ていて、恵美に気づくと笑顔で手を振った。
胸の中がじんわりする。
男の子と付き合った事はなかったけど、デートは何回かしたことがある。浩平とのデートは楽しかった。話は合うし、一緒にいて楽だった。今までで、一番楽しいデートだったかもしれない。
山内直樹とのデートを除いては。
亜美が、妬ましい。どうして私にあんな夢を見せるのか。
どうして、「亜美」として、見せるのか。
恵美は家に着き、向かいの亜美の部屋に駆け込んだ。
部屋に入ると、まるで別世界のように、静寂に包まれた。床の冷たさが足から伝わる。部屋の中は、昨日アルバムを探したときのままちらばっていた。
恵美の部屋とは対照的に、この部屋は闇の中にあった。もう何年も人が使っていないような、そういう空気。
暗闇の中から、亜美が無言で恵美を見つめている。まったく同じ顔の、たった一人の姉。
不意に涙がこぼれた。
額縁の中の「亜美」は、変わらない笑顔で笑っている。
その瞬間、山内を見たことがあるのは「どこ」だったかを思い出した。
亜美の、私たちの十七歳の誕生日。




