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焼そばパン

(この間はお疲れです。今度暇な日あったら映画でも行かない?)

 

 メールはこの前合コンをしたメンバーの一人からだった。

 コーヘイ?ああ、カラオケでつぶれて寝てた人だ…。

 たぶんよくある愛想メールだと思って、適当に返した。

 しかし、その後も何度か彼からメールがくるようになった。

 気に入られたのだろうか?そんな兆候はまったく見えなかったけれど。そう思いながらも、恵美は正直、めんどくさいと感じていた。まったくその気がないといえば嘘になるかもしれない、けれど限りなく恵美にその気はなかった。

 ベッドの上で日記を書きながら、恵美は夢が楽しみで仕方なかった。山内に会うことや、彩花達に会うことが楽しみで、最近毎晩寝る前の興奮を抑え切れなかった。

 亜美の過去をすでに自分の過去のものとして考えてしまう時すらあった。どんどん夢に傾斜していく自分に、恐怖を感じるときすらあった。

 そんな時、いつも誰かに、助けて欲しかった。亜美の世界から引き戻して欲しかった。優しい声で「恵美」と、呼んで欲しかった。保護して欲しかった。

 こっちが現実だよと。



「インスタントカメラで撮った修学旅行の写真できたよ」

 マミが机に写真を並べた。

「おー、やばいこの顔」

 さっちゃんが中華街でちゃんぽんを食べてる写真をさして笑った。

 確かにひどい顔。

「ほら、やっぱ夜景とれてないじゃん」

 私はホテルのデッキで撮った写真を指した。マミとイノッチがポーズを撮っている写真の後ろは真っ暗闇しか写っていない。マミとイノッチだけが、フラッシュにさらされ異常に白く映っている。

「ほんとだ」

「どれどれ」

 イノッチの後ろから高田っちが覗き込んだ。隣に山内がいる。

「山内、もう飯食ってんの?」

 マミが二時間目の休み時間にパンを食べてる山内につっこむ。

「だって腹へったんだもん。食う?」

 山内があたしに焼きそばパンを勧める。

「いりません」

 さっちゃんとユキちゃんが後ろからヒューヒューとはやし立てる。いつの時代よ。

「ってかそんなに食ってんのになぜ細い…殺してやりたい」

 マミが悔しそうにガムをかむ。

「あ、あたし2組のあっちゃんに現国の教科書返さなきゃ」

 イノッチが席を立つ。

「亜美つきあって」

 イノッチに引っ張られていく私。ああ、山内ともっとしゃべりたかったのにぃ。

「あの子じゃん?」

 廊下に出たら後ろから声がした。

「まじで?たいしたことないじゃん」

 私のこと?

 聞こえない振りをして二組のほうへいく。

 突然イノッチにトイレに引っ張られる。

「さっきのたぶん山内のこと好きだった子達だよ」

「まじで?」

 どうりで悪意をびしびし感じたはずだ。

「たいしたことなくて悪かったなー」

 トイレでイノッチに泣きつく。

 いまさらながら、とんでもない人を彼氏にしてしまったんだと思う。

 教室に戻ったら、山内が天使のような無害な笑顔で微笑むから、ヤツの焼きそばパンを半分食べました。

 

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