プロローグ
不思議な夢を見始めたJDの話です。
夢の終わりは、三月十四日。
冷たい雨が降っていた。
気づくと、明治通りを原宿から渋谷に向かって傘もささずに歩いていた。
一体どうやってここまで来たのか、思い出す事ができない。
雨の雫が、前髪からぽたぽたと滴り落ちていた。寒さも、冷たさも何も感じない。
足は、勝手にある場所に向かっていた。
どこへ行こうとしているのか、はっきりわかっていた。
そして、自分が何をしようとしているのかも。
冷えきった体と心はひどく冷静で、これから自分がやろうとしている事を受け入れていた。
着ていたスウェットは雨を完全に吸いきって、鉛のように重かった。街中にはそぐわない格好に、周りの人々は怪訝な表情を向ける。何か、汚いものを見ているかのような視線で。
まるで、刑に処される囚人のようだ。
それでも、歩き続ける。あの場所に向かって。
不意に、思い出が蘇った。
この道を、二人で歩いた思い出が。
いや、自分の思い出ですらない。あれは、自分のものではないのだ。
会いたくて、会いたくて、恋い焦がれていた人にはもう二度と会えない。
会う資格すら、自分は持ち合わせていなかった。
あの人が、私を許すはずがない。