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反ルッキズムを気取っている訳じゃないけど

掲載日:2022/02/26

 神、或いは神に準ずる存在に生贄を捧げるという風習は、はるか昔は世界各地にあったのだそうだ。

 これは早い話が、他の誰かを犠牲にして自分達は助かろうって発想だろう。もっとも、神様に捧げるのだから、その“誰か”は地位の低い者であってはならない。その社会において大切にされている存在だからこそ、生贄の価値がある……

 なとど言った説明を読んだ事がある。けれど、僕は「本当にそうなのだろうか?」とそれを疑っている。

 全てとは言わない。

 けれど、場合によってはみんなでよってたかって無理矢理に一部の人に犠牲を強いて楽しんでいたのじゃないのか? そんな風に僕は想像をしてしまう。

 人間は実は“そういうの”が好きな生き物なんだ。

 “処刑”がかつては娯楽の一つだったってのを知っているかな?

 抵抗のできない誰かを殺すのを皆で見物して楽しんでいたんだよ。それは本当に“お祭り騒ぎ”で、売店まで出る場合もあったのだとか。

 こういう“人間の性質”を考えると、いじめが人間社会で頻繁に観られる事にも納得がいく。ネット文化上でもそれは変わらない。炎上事件。「そこまで責められるような事か?」って内容で、個人を皆で叩きまくって楽しんでいる。

 あ~あ。

 醜い。

 

 ――その“企画”に誘われた時、僕は“外れ役”として選ばれたのだろうな、とそう思った。

 

 どうしてそんな企画が立ち上がったのかは途中から話を聞かされた僕はまるで知らないのだけど、誰かが「絶対に二か月は付き合わないといけないってルールで、男女でペアになろう」と提案したらしいのだ。

 昔は“お見合い”って風習があって、ほとんど知らない男女が結婚するのが珍しくなかった。そしてその風習のお陰で未婚率は非常に低かったと言われている。ならば、取り敢えずは付き合ってみて、合うかどうかを試してみるってのも面白いのじゃないか?

 どうも、クラスの誰かがそんな風な事を言い出したらしい。

 そして、それに僕も誘われたという訳だ。ただ、そこに集まった男女の誰とも僕は仲が良くなかった。誘われてのこのこやって来た僕を女生徒の何人かが可笑しそうな顔で見ている。場違いな僕に余裕ぶった上から目線の態度で男生徒が接して来る。

 「いよぉ、よろしくな恩名」

 にやついた顔で、男生徒の一人が握手を求めて来た。僕はそれにおどおどと応じる。その様子に皆が笑った。

 完全に僕は馬鹿にされている。

 それもそのはず。何故なら、僕は太っていて性格も暗くて友達も少ないという、異性からモテる要素がまるでない教室カーストの最底辺の男なのだから。

 どうしてそれが分かっていながら、そんな誘いに応じたのかと言えば、こんな僕が仮初にでも女の子と付き合える数少ないチャンスだと思ったからだった。スリルを味わう為の“外れ役”でも良いと思ったんだ。

 が、その僕の予想は間違っていた。僕が誘われたのは、スリル味わう為じゃない。それよりももっと悪意にある目的の為に誘われたのだ。

 ただし、それは“僕への悪意”ではなかったのだけど。

 不意に園上さんが言った。

 「木垣きがきの相手は恩名君に決まりね」

 彼女は女生徒の仲間グループでリーダー的なポジションだ。リーダーからそう言われて、木垣さんは驚いた表情を見せた。「なんでよ?」と声を上げる。そう言った彼女の視線が、一瞬サイトー君を見たのを僕は見逃さなかった。なんとなく察する。木垣さんは彼が好きなのだと。

 園上さんは口の端を歪めて笑いつつ、それに答えた。

 「だって、あなた、前に“人間は見た目じゃない”って言っていたじゃない」

 「言ったけど、わたしは恩名君の中身を知らない訳だし」

 「だから、それを知る為に付き合ってみるのでしょう? これ、そういう企画じゃない」

 「だからって」

 そこまでを言って言葉を切ると、木垣さんは僕を見た。多分、そのやり取りが僕を傷つけていると思ったのだろう。

 「あの……」と、僕はそこで声を上げる。「迷惑になるのだったら抜けようか……」そう言おうと思って口を開いたのだけど、先回りして園上さんは「恩名君は気にしないで」と釘を刺して来た。

 僕が辞退しようとしたからだろう。木垣さんは悔しそうな顔を浮かべた後で、ちらっとだけサイトー君を見ると、「分かったわよ、それで良い。わたしの相手は恩名君」とそう言ったのだった。

 それを聞いて、園上さんは楽しそうに笑っていた。

 木垣さんは、明らかに落ち込んでいた。ただ、何故かそんな彼女に向けて、佐伯さんという女生徒が「見た目で選ばないって言うのなら、恩名君は良い相手だと思うわよ?」なんて言ったのだった。

 彼女が僕の何を評価してそんな事を言ったのかはまるで分からなかった。

 

 多分、この企画は木垣さんをいじめる為に仕組まれたものなのだろう。これは想像に過ぎないけど、園上さんは木垣さんがサイトー君を好きだと知っていて、彼の目の前で僕と付き合わせるという嫌がらせを行ったのだ。

 僕はなんだか彼女に悪い気になった。僕が悪い訳でもないかもしれないけど、僕が変な下心を出してこんな企画に参加しなければ、彼女がこんな嫌な目に遭う事もなかったのだろうから。

 もし僕が参加しなければ、彼女はサイトー君と一緒になれたかもしれない。

 そのお見合いもどきの企画では“付き合っている”のだから、学校ではできる限り一緒にいなくてはならず、最低でも一週間に一度はデートをしなくてはならないというルールがあった。期間は2ヵ月。その間、そのルールを守って、期間が終わった後に付き合い続けるかどうかを決めるというのが大まかな流れだ。

 学校で一緒にいる間、木垣さんが辛そうにしているのが分かった。そんな姿を見て、僕は企画に参加したのをとても後悔した。僕は僕の容姿の所為で相手の女の子をこんなに苦しめてしまうとは少しも思っていなかったのだ。

 その企画が始まったのが、七月の中旬だったのがまだ良かった。少し経てば夏休みが始まる。学校にいなくて良い。僕は特にテストの成績に拘る性質じゃないのだけど、その時は期末テストに向けて懸命に勉強をして好成績を収めた。付き合っている木垣さんが少しでも恥ずかしくないようにしようと思ったのだ。もちろん、外見に成績は現れない。それだけじゃ不充分だろう。

 僕はそれを分かっていた。

 夏休みに入る事には、もう一つ利点があった。僕は無趣味の暇人で、朝も昼も夜も別にする事がない。つまり時間がある。そしてそれだけ時間があれば、充分に努力ができる。

 

 9月になり、夏休みが終わって学校が始まった。企画のルール上、僕と木垣さんは一緒にいなくちゃならない。だから、昼休みに中庭でご飯を一緒に食べていた。

 すると、偶然に僕らを見かけたのか、そこに園上さんがやって来た。

 「ちょっと木垣! あんた、どうして恩名君と一緒にいないのよ? ルールはちゃんと守りなさいよね!」

 そう言った彼女に向けて僕は「やぁ、園上さん。君は何を言っているの? 僕はここにいるじゃない」と声をかけた。

 一瞬、園上さんが固まったのが分かった。一呼吸の間の後で、彼女は「えええええ!」と大声を上げる。

 目を白黒させていた。

 「恩名君。どうしたの? その姿? かかっていた呪いが解けたとか?」

 気が動転して変な事を口走っている。物語の中では、時々見かけるけど、実際にそういう人を目にするのは初めてだ。

 僕は首を横に振った。

 「ううん。ちょっとダイエットをがんばってみてね。やっぱり一緒にいる彼女に辛い想いはさせらないって思って」

 その僕の言葉に、彼女は「そ、そう」と小さく返す。本気で驚いているようだった。もっとも痩せたところで、僕はそんなにカッコイイ外見はしていないのだけど。

 

 そして2ヵ月が経った。

 企画はお終い。付き合い続けるかどうかを決めなくちゃいけない。木垣さんは「付き合えないわ」と放課後の教室で僕に向ってそう言った。僕は静かに笑う。まぁ、そりゃそうか。彼女はサイトー君が好きなのだもの。それに僕なんか少しもカッコよくはないし。

 ところが、そんな僕に向けて彼女はこう続けるのだった。

 「断っておくけど、違うわよ? 恩名君は最高にカッコ良かった。だから、こんなわたしじゃ、あなたと付き合う資格なんかないって思っただけ」

 僕にはその言葉の意味が分からず、首を傾げた。そんな僕に彼女は言う。

 「佐伯が“見た目で選ばないのならあなたは良い相手”って言っていた理由がよく分かったわ。

 わたし、普段から“人間は見た目じゃない”って言っていたのに、本当は見た目ばかり気にしていたのかもしれない」

 僕はそれを聞いて思わず「サイトー君は、それほど見た目が良いタイプじゃないと思うけど」と返してしまった。

 それに彼女は軽く笑うと「気付いてたんだ」とそう言った。

 そして、「やっぱり、人間は見た目じゃないなぁ」とこぼすように続ける。

 

 “人間は見た目じゃない”ってよく言う。けれど、調査結果によれば、見た目が良い人間の方が平均収入が高いそうだ。

 まぁ、ただ、見た目に拘って見た目を気にして生きるのはやっぱり面倒くさそうだから、僕はこのままでも良いかもしれない。

 もっとも、健康の為に今の体重は維持しようとは思うけれど。

反ルッキズムを気取っている訳じゃないけど、やっぱり、容姿に拘り過ぎるのは色々と問題あると思います。

ただ、適正体重を維持するモチベーションには役立つと思いますけどね、ルッキズム……

何事も加減ってありますよね。

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