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12月25日 予約

「春山くん、ごめんね。休みなのに来てもらっちゃって」

「大丈夫です。どうせ暇なので」


 25日の朝、部長からメールがあり、一人で買い物に行くけど荷物が多くなりそうだから、一緒に来てもらいたいと、お願いされた。

 特に用事もないし、この前いろいろとしてくれたので、買い物の荷物持ちを手伝うことに。


 そういうことで、昼過ぎに部長のうちまで迎えにやって来た。


「おはよう、春山くん」

「おはようございます」


 家から出てきた部長は、髪をリボンで可愛く後ろに結び、薄いピンクのコートを羽織っている。

 若干、お化粧もしているのだろうか?

 なんとなく、昨日の口紅も付けてるような……


 しかし、駅前のスーパーに夕飯の食材を買いに行くだけで、やけにおしゃれだな。

 もしかして、出掛ける時はいつもこんな格好なのか?


 どうしよう、自分、普通のかっこうできちゃったけど、大丈夫かな?

 僕なんかが部長と一緒にいて、誰かから笑われないか心配だ。

 そうそう、とりあえず昨日いただいたマフラーと手袋は、忘れずにしてきた。


「じゃあ、いこっか」

「あ、はい」


 僕たちは歩いて駅前まで向かう。

 天気は晴れているので、歩くのにはちょうどいい。


「そんなに荷物あるんですか?」

「うん。予約しておいたケーキと、チキンと。あと、頼まれた食材とか」

「結構あるんですね」

「今日の夜は珍しく家族全員そろうから、 パーティーするんだ」

「へー」


 今日は土曜日だから、家族水入らずで食事ということなのだろうか。

 でも、うちも今日は家族全員そろうが、特になにもない。

 きっといつも通りの料理、ご飯と味噌汁がテーブルに並ぶだけだ。


「春山くんも来る? うちに?」

「え? いや、遠慮しておきます」


 そんな…… わざわざ敵陣に乗り込むような真似はしない。


 ところで、荷物って多そうだけど、僕と部長だけで運べるのか?

 悪いが僕は、そんなに体力には自信がない。

 しかも、なぜ僕が呼ばれた?

 部長の家族は?


 それに、こんなところを誰かに見られたら……

 たとえ僕が、部長の家の買い物に手伝うために一緒にいるとしても、ほかの人が見たら、こんな日に二人で歩いているというだけで、そういう噂にもなりかねない。


 そんな疑問と不安を抱えながら、駅前の商店街までやって来るが……


「どうしよう、すごい混んでるね」

「そうですね。12月25日の土曜日ともなれば、それは混みますよ」


 もう、店の中から路上から、駅の中まで、人だらけ。

 どこにいても誰かにぶつかるのでは? というくらいの混みよう。


「とりあえず食材ですか? スーパーで買い物しますか?」

「うん」

「でも、この混みようだと……」


 二人でいったら周りの邪魔になってしまう。


「部長、僕は外で待ってますので、買い物してきてください」

「うん……そうだね」


 と、ひとり寂しそうに店の中に入っていった。


 そして僕は外で待つ。

 しばらく待つ。

 ……待つ。

 …………待つ。


 ……………………結構、待つなー


 大丈夫か? 店の中で何かあったのか?


 あっ! 出てきた。


 部長は、パンパンになった大きな袋一つを両手で持ちながら、ヨタヨタしながら戻ってきた。


「あー 大丈夫ですか? 持ちますよ」

「ありがとう」


「も~ すごい混んでて」

 と、髪と服装を直す部長。


「本当は、春山くんと一緒にお買い物したかったのに……」


 すごく残念そうに、しょげている部長。


 そんなに僕と買い物なんかして、楽しいのだろうか?


「今日は仕方ないですよ。今度また、空いているときに来ましょう」

「また一緒に買い物してくれるの?」


 ……しまった、余計なことを言ってしまった。


「え、ええ、行きましょう」

「そうだね」


 そう言うと機嫌を取り戻した部長は、にこやかに笑う。


 次に僕たちが向かったのは肉屋。

 これまた凄い行列。


 店もそんなに大きくなく、レジもひとつなので、予約の人も通常のお客も、一つのレジに集中して並んでいる。


「ここも、凄いね」


 僕と部長は唖然として、その行列を眺める。


「予約して、お金も払ってるみたいだけど……すぐもらえるかな……」

「いちおう予約してたんですね」

「うん」

「僕、荷物もって待ってますよ」

「ありがとう、行ってくるね」


 そして、しばらく待つ僕……


 それにしても学校のみんなは、こんな日にどこかに出かけているのだろうが?

 どこ行っても混んでて、人を見に行っているようなものなのに。


 ところで、花堂先輩は、今頃なにしてるのだろう……


 そんなことを考えながら待つ。

 ひたすら待つ……


 大丈夫、いただいたマフラーと手袋のお陰で、寒さはそんなに感じられない。


「ごめん。お待たせ」


 だいぶ待った後、同じく並び疲れた部長が、手に鶏肉の入った袋をもって、戻ってきた。


「持ちますよ」

「ありがとう」

「今度は、なんですか?」

「今度はケーキだよ」


 そして僕たちは洋菓子店に向かうが、なんとなく想像はついていた。


 まー すごい行列。

 はじめからこうなるって、みんな分かってるんだから、なんか対策しておけばいいのに。


 部長が、

「予約してあるから大丈夫だよ」

 とは言うが、予約者専用の列も、そこそこ混んでる。


 ここでも僕は荷物を持ちながら、部長の帰りを待つ。

 忠犬のように、待つ。

 待つ……


 結構、待つなー

 どうしたんだろう?


 十数分後に、ようやく部長がケーキの入っているであろう袋を手にして戻ってきた。


「お待たせ」

「部長、本来ならこれ一人で持って帰るつもりだったんですか?」


「え? 春山くんいなかったら、誰か呼んでたかも」


 いつも暇してると思わないでくださいよ、部長。

 もしかしたら、花堂先輩に連れていかれてた可能性だってあったんですよ。


「どこかで休憩していこうか?」

「いいですけど……」


 待っている間、休憩できそうなお店を見ていたが、どこも満席で入れず、外まで人が並んでいるありさま。


「入れないね」

「そうですね」


「また今度にしますか?」

「うん、残念だけど……」

「しょうがないですよ、今日は」


「今日、一緒にお茶したかったのに……」


「え? なんですか?」

「ん? なんでもないよ」



 結局、休憩することもなく、僕は両手に荷物を持ちながら、部長はケーキを持ちながら、そのまま帰ることに。


「今年は春山くんに、お願いしてばかりだね」

「そんなことないですよ、こちらこそ、お世話になりっぱなしです」


「来年も楽しい毎日になるね」

「よい年になること前提なんですね」

「うん」


 どこから、そんな前向きな考えになるんだろう。


日日是好日(にちにちこれこうにち)だよ」

「なるほど」


 毎日が良い日である。と言うことは、来年も毎日が良い日であると。


「春山くんといる時は全部楽しい時間だよ」

「それはそれは。光栄です」


「だから来年も一緒にいられますように、だね」

「そうですね」


 来年も僕は、部長に振り回されるのかー


「また、来年も一緒にいてくれるかな」

「まあ、いるんじゃないですか?」


 僕が茶道部辞めるか、部長が卒業しない限り、おそらく来年の今頃も一緒にいるんだろうけど。


「じゃあ、来年のクリスマスは?」

「来年のクリスマス?」


「一緒にいられるかな? 予定とかあるのかな?」


 そんな先のことなんか、なにも考えてないし分からないし……


「……一年後の予定なんて、良く分からないですよ」

「予定ないの?」


「まったく未定です」

「ってことは、予定いれても大丈夫ってことだよね」


 ……しまった。そういうことになるか。


「よかった。でも、いちおう予約しておかないとね」

「予約……ですか?」


「うん。今日みたいに混んでたら、嫌だから」


 僕の予定が混むって、どういうこと?

 たぶん開店休業みたいにガラガラだよ。来年の一年間の予定も、クリスマスの予定だって、スカスカに決まってる。

 予約なんてしなくても、すぐに入店できてしまうよ。


 そんなやり取りをしているうちに、部長の家までついてしまう。


「今日はありがとうね、春山くん」

「いいえ、これくらいのことなら」


「ちょっと待っててね」


 そう言うと大量の荷物を家に運んで……数分後。


 部長は小さな箱をもって出てきた。


「これ、今日手伝ってくれたお礼」

「何ですか?」

「今日のケーキだよ。五人家族で、ケーキ五等分するの難しいから、春山くんの入れて六等分したから」

「別に、そんな気を使わなくても……」

「本当は一緒に食べたかったんだけどね」

「……」


「あと、これ」

「え?」


 部長は名刺サイズの封筒を僕に渡した。

 中からはクリスマスカード?

 青地に雪の絵が描かれているオシャレなカード。


「これ、今日のクリスマスケーキの予約票? ですか?」


 裏を返してみると、

 今年の日付……の西暦だけ二重線引いて来年の年に修正してある。

 受取人は『秋芳香奈衣』と部長の名前のまま。


「あの、これ何なんですか?」

「予約票。来年の」

「は??」


「来年のクリスマスに、私が春山くんを受け取りに行くから」

 と、部長の手には予約票の控えが握られている。


「約束だよ! 失くさないでね」

「……」


 そう言い残すと部長は家に入ろうとする。


「今日はありがとうね。またね」


 と、手を振りながら、ゆっくりと扉が閉められた。


 こんなの渡されて……

 予約とかされて……


 どうするんだよ、捨てられないじゃないか……

今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

クリスマス編はこれで終了で、こちらには31日の「大晦日」と、1月1日の「初詣」を投稿して終わります。

週明けからは、本編の方で続きを投稿する予定です。


予定では「お菓子の日」「日日是好日」「紫陽花」「和菓子屋へ行こう」「松寿千年翠」「誕生日」の順かな? 投稿を予定しておりますので、引き続き茶道部のほど、よろしくお願いいたします。

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