12月24日 茶室でプレゼント交換
嵐のようなクリスマスパーティーは終わった。
家庭科部の面々は騒ぐだけ騒いで帰っていてしまった。
そして、この場に置かれた様々な食器は、後ほど返すことに。
「私は遅くまでいるから、大丈夫よ」
と、花堂先輩はいってくれたが、きっと今日は早く帰らなくてはならないのだろう。
和室を掃除したら、早めに食器も返しに行こう。
僕は散らばったゴミなどを回収する。
「春くん、なにやってんのー」
遠野先輩が真面目に掃除をしている僕のことを、変なふうに見てきた。
「これから大掃除ですよ。こんなに散らかして」
「まだ終わってないよー」
「なにがです?」
「メインの、プレゼント交換」
「はぁ? プレゼント交換……ですと?」
それも、なんにも聞いてないよ?
「部長!」
「春山くんには何も言ってないよ。サプライズだから」
「サプライズって……」
そう言うと部長は、
「春山くんは、これに着替えてね」
と、渡してきたものは……赤い服と帽子。
これ、サンタの衣装じゃ?
「あとは、これも持って」
なにこれ? でっかい白いゴミ袋みたいなの。
「サンタの格好して、その袋の中のプレゼント、みんなに渡してね」
……なんだよ、この茶番。
こういうのは小学生で終わりにしてよ。
とりあえず僕はサンタの衣装を着こんで、袋を担いでみる。
「春山、似合ってるじゃんかよ。完全にサンタじゃん」
そんなわけあるか。
「春くん、サンタ爺だね。春爺ー」
かまっててもしょうがないので早く終わらせよう。
「春山くん、一回外に出てもらって、サンタさんっぽく中に入ってきて」
「はいはい」
僕はこの恥ずかしい衣装のまま、外に出る。
早速、通りすがりの女子生徒二人と遭遇し、鼻で笑われる。
もう、好きなだけ笑うがいいさ。
気分はサンタというより、ピエロに近い。
「じゃあいいですかー 入りますよー」
僕は戸を開け……
開け……開け………………開かない!
「ちょっと! 開かないんですけど!」
「外から! 中庭から回って!」
内側からそんな指示する声が聞こえる。
外って、この格好で中庭まで行くのー!
勘弁してくださいよー!
僕はこの格好で遠回りして中庭までやって来る。
寒いし、恥ずかしいし……
ここに来るまでの間、何人かの生徒とすれ違ったが……
どうせ僕だって分からないだろうし、もう、どうでもよくなってしまった。
僕は縁側の窓を開けて、よじ登りながら和室に侵入する。
「はいはい、サンタが来ましたよ」
「わー サンタが来たー」
部長の下手な演技がはいる。
「サンタはちゃんと、みんなの靴下の中にプレゼント入れないといけないんだよ」
「は?」
「だから、ひとりひとりの靴下脱がしてね」
「……却下します」
……で、これからどうすればいいんだ?
「サンタさん、早くみんなにプレゼント渡して」
「あの、部長、そういえば僕、なにも用意してないんですけど?」
「大丈夫だよ、私が代わりに用意しておいたから。春山くんの分も」
え? そうなの?
ありがたいような。
それはそれで怖い気もするし……
とりあえず僕は、袋に手を突っ込んで一人一人にプレゼントを渡して回る。
部長には、紙袋の物。
深谷先輩には、ビニール袋の物。
南先輩には、大きい割には軽い箱。
遠野先輩には重みのある箱。
「春山くんのも、ちゃんと入ってるよ」
「え?」
そう言われ袋を逆さまにすると……転がってきた。小さな箱が。
「みんな持ったかなー」
どうやら全員にいきわたったようだ。
そして、それぞれ開封する。
部長のは「来年度の手帳とか文房具」
これは深谷先輩の出したもののようだ。
深谷先輩は「トレーニング ウエア」
「それ、店にもってけばサイズ変えてくれるから」と、南先輩がいう。
「ジョギングでもしようかしら……」
南先輩のは……
「なんだこれ? 箱を開けても開けても、箱が入ってんだよ」
マトリョーシカなのか?
とばして、遠野先輩は「紅茶セット詰め合わせ」
これは部長のだ。
で、ようやく南先輩の箱が明け切ったようだ。
中にはチケットのような紙が一枚。
「えーっと、『春山が何でも言うことを一回聞いてくれる券』だって」
は!!!?
「やった、春山一回奴隷券じゃん」
「ちょっと待ってくださいよ! なんですかこれ!」
「私が春山くんの代わりに作っておいたんだよ」
「部長! また、なに勝手に、こんなの作ってるんですか!」
「まだ一枚予備であるんだよ」
僕は無言で部長からそれを奪い取る!
「あ~ 泥棒~」
「もう、頼みますよ、本当に……」
「これ、期限が卒業までだってさ。よし、ここぞって時に使わせてもらうか」
なにげに嬉しそうな南先輩。
何てことしてくれるんだよ、部長……
まあ、行き渡ったのが南先輩だったのが唯一の救いだったかもしれないが。
これが部長とかだったら……
「最後に春山くんのだよ」
「え?」
ああそうだった。自分のもあったんだ。
小さな四角い箱……開けてみる。
中から出てきたものは……
黒い……スティックのり?
蓋を開けて、下を回すと……
「春くん、それ、あたしのだ」
「何ですこれ?」
「リップだよー」
「リップ?」
「口紅」
くちべに?
ああ、なんかピンクの出てきた……
「春山、それ高いやつじゃね?」
「ねぇねぇ、春山くん、つけてみてよ!」
「ちょっと待ってください。これ僕いらないですって、使わないですから」
「あたしが持ってきたの、いらないってゆーの?」
「いや、そういう意味じゃなくてですね」
「せっかく用意してくれたんだぞ、試しにつけてみりゃあ、いいじゃんかよ」
「あたしが塗ってあげるー」
「ちょっとー」
あー もう、これなかなか落ちないじゃん。
僕は台所で、つけられた口紅を落とすのに必死だった。
なんか自分の唇がきれいなピンク色になって、気持ち悪い。
早く落とさないと、帰れないよ。
「春山くん、大丈夫?」
「え? ええ、まあ」
そこに部長がやって来て、心配そうに僕の顔を眺める。
「そのままでも可愛いのに……」
「いやですよ、こんな唇」
「そしたら、私のと交換する?」
「え? ええ、いいですけど」
僕がこんなの持っているより、まさに部長が持つべきアイテムのような気がする。
「ちょっと、つけてみようかなー」
「どうぞ」と、僕は口紅を部長に渡す。
部長は慣れた手つきで、それを唇に塗っていく。
その仕草が、また、とても色っぽい。
「これ、どうかな?」
そう言って向けた部長の顔は……
「……すごく似合ってますよ」
お世辞でもない。本当にこの薄いピンクの色が、部長の顔に溶け込むように、違和感なくそれでいて唇をさりげなくアピールさせていた。
「ありがとう」
部長は恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔を僕に見せてくれた。
やはりその口紅は部長が持っていて、本領を発揮するようだ。
「じゃあ、この口紅、交換ね」
「いいですよ」
「フフフ、これって、間接キス、だね」
え!?
「ぶ、部長!」
部長はそう言い残すと、みんなのいる和室へと戻っていってしまった。
そうか……
口紅が……
僕が使って、部長が使って……
こんな日に、間接キス、してしまったのかぁ……