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12月24日 茶室でクリスマスパーティー

 12月24日。

 今日は終業式。


 底冷えする体育館に、全生徒が集まり校長がたから有り難い話をきく。

 その後は、教室に戻り長いホームルームの終了とともに、冬休み突入。


 終了後、各々散っていくが、僕は部活があるのでそのまま部室へと向かう。


 今日は大掃除か……

 一年色々あったから、それを清めて新たな一年を迎えるためにも、今日はしっかりと掃除をしよう。


 僕は部室の前で一年を振り返る。

 そして戸を開けると……


 パ―――ン

  パ―――ン

  パ―――ン


 っ!? 

 なにこの破裂音!?


 ……クラッカー?


「遅かったじゃねー」

「春くん、はやく、こっちこっち」


 南先輩と遠野先輩?


 え? なになに? 大掃除じゃないの?

 あーあ、紙吹雪がこんなに……

 掃除しないと……


 茶室に入ると、あたり一面クリスマスの装飾が……


 あーあ 掃除しないと


 床の間には小さなツリーの置物が飾ってあり、茶室が完全にクリスマスモードに。


 そしてその前に部長が座っていた。


「春山くん、おはようクリスマス」

「え? あぁ、おはようございます」


「あの……今日は掃除の日じゃ……」

「春くん、どうしたの? 今日はクリスマスイブだよ。掃除の日じゃないよ」


「いやいやいや。今日の部活は大掃除するって」

「なに言ってんだよ、今日はクリスマスパーティーの日だろ」


 今日は大掃除の日じゃ……


 だめだ、この先輩達では。

 深谷先輩は?


「深谷先輩、今日は掃除をするんじゃ……」

「この後にやらないと、意味ないでしょ」


 本気なのか? 茶室でクリスマスパーティーとか、千利休が見たら暴れまわるぞ。


「ごめんね春山くん。驚かせようと思って、秘密にしてたの。今日は楽しもうね」

「いや……まあ、いいですけど」

「大掃除はまたできるけど、この日にみんなでクリスマスパーティーは二度とできないかもよ」

「……そうですね」


 これも一期一会というものなのだろうか。

 まあ、確かに掃除はいつでもできて、クリスマスは年に一回しかないけども……


 そうこうしているうちに遠野先輩が冷蔵庫から大量の飲み物を。

 南先輩がどこからともなく大量のお菓子を持ってきて、畳の上に広げた。


 あー なんかすごい光景だ、これ。


 そのうち今度は……


「失礼しまーす」


 ぞろぞろと女の子たちが?

 部屋に入ってきた?

 ケーキやらチキンやら食べ物と食器などを運んできた。


 え? なになに? もうなんなの?


 そして最後に花堂先輩も姿を現した。

「おじゃましますね」


 これって家庭科部の人たち?


「みんな、ようこそ!」

「部長、これは?」

「茶道部と家庭科部との、合同のクリスマスパーティーだよ」

「はあ……」


 広いと思っていた和室が、人と食べ物と飲み物で、ごった返している。


 もー めちゃくちゃだ! なんなんだよ!


 僕は誰からかコップを持たされ、そして誰かから謎の液体をコップに注がれた。


「みなさん、今年一年おつかれさまでした! 来年も頑張りましょう!」


 部長の声だけが聞こえる。


「それでは、かんぱーい!」

「乾杯!」


 なんなんだよ、なんなんだよ! 

 大掃除はどこ行ったんだよ!


 もうみんな飲んだり食べたり、どんちゃん騒ぎしている。


 これもう、おっさんたちの忘年会だよ!


「みんなもケーキ食べて。私と春山くんの共同作業で作ったケーキだよ」


 どこからか部長が変なこと言ってる声が聞こえる。


 っていうか、昨日作ったケーキって、今日のための?


「なにこれー ハルヤマクリスマスって書いてあるー」

「なんだよ、ハルヤマクリスマスってよー 春山ー 自己主張が強すぎなんだよー」


 あ―― もう。

 あ―――― も――――


「春山くん、ケーキ食べて」

 そんな中、部長が僕を見つけてケーキを持ってくる。

 そしてフォークに刺したケーキをそのまま僕に向ける。


「一緒に作ったの、美味しいよ」

「分かりましたから、自分で食べれますから」


 もう、面倒くさくなったので、そのままいただく。


「ねっ、美味しいでしょ?」

「そうですね、美味しいです」


「楽しんでるか!」

「ちょっと……」

「飲め飲め!」

「ちょっと……」

「君って茶道部の子」

「まぁ」

「彼女とかいるの?」

「いや……特に……」


もう! なんだよ、これ!


 僕はみんなに揉みくちゃにされたので、いったん廊下に出て退避した。


 みんな、はっちゃけすぎだよ。


 僕は傍観者のように、輪の外から楽しそうな皆を眺める。

 すると同じようなことをしている人が……


 廊下の奥の方の、部屋の隅に花堂先輩が、静かに座っていた。

 そう、いつも花堂先輩は自分がみんなの輪の中に入ることはなく、それを外から楽しそうに見ているのだ。


 花堂先輩は僕の存在に気がつき声をかけてくる。

「どう、春山君? 楽しんでるかしら?」

「まあ。でも、こんなの初めての経験ですし……」

「そう、それは良かったわ」


 そう言うと、

 また視線を戻し、楽しそうにみんなのことを見ているのだった。


「春山君は、こういうのは苦手なのかしら?」

「え? ええ、まぁ。食事とかはいつも、一人で静かにゆっくりとるもので」


「でも、人って不思議ね」

「え?」

「動物は本来、生きる為に食べるけど、人は違う。生きる目的以外に、食事をすることもあるでしょ?」

「生きる目的以外?」

「今日みたいなパーティーとかね」

「そう……ですね」


「食べる行為以外のことに価値を見出す。クリスマスの夜に好きな人と食事を楽しむことも、食べるのが目的ではないように……ね」

「……」

「春山君には、いるのかな? 一緒に食事をしたい人?」

「えっ?」


 そう言って花堂先輩はまっすぐ僕の目を見てくる。


 一緒に食事をしたい……ひと?

僕には、そんな人は……


「楽しみましょうか。今日は」

「……そうですね」


 そう言うと、僕たちはまた、楽しそうに騒ぐみんなへと視線を戻した。


 こんなことは、きっともう訪れないだろう。

 一生に一度しかない場面と出会い。

 そんな今日という日を、僕はしばらく味わうことにしてみた。

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