表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/17

12月23日 ケーキを作ろう その2

前回の続き

 部長の後をつけ、ケーキを作ることに。

 オーブンのタイマーが鳴り、どうやら生地が焼きあがったようだ。


 オーブンから取り出した生地は、いい感じのきつね色に仕上がり、甘くて温かい香りが漂う。


「おいしそーぅ」

「ダメですよ、今食べちゃ」


 生地を置き、横にカットし、シロップを塗り、クリームを塗る。

 そして苺をのせ、生地で挟み、全体にクリームを塗り、後は苺と生クリームのデコレーションで完成。


 部長が生クリームをかけ、その上に僕が苺をのせる。


「きれいに置いてね」

「部長も、はみ出さないでくださいよ」


 そうして……


「かんせーい!」

「上手くできましたね」

「私たちの共同作業だね」

「なに、変なこと言ってるんですか」


「あとは……」

 最後に、白い板チョコのメッセージプレートに、チョコペンでメッセージを書く。


 この仕上げは部長の担当。

 チョコペンを握る部長の手が震える。

「大丈夫ですか? 部長」

「うん」


「なんて書くんです?」

「ん…… メリークリスマス、かな?」


 王道でいいと思う……のだが……


 部長が書いた文字……

 ……『メリー』の『メ』が、長さが足りず、『ハ』みたいになっちゃってる。


「部長、『メ』が『ハ』に見えますよ。これじゃあ、ハリークリスマスですよ」


 なんだか、せかされてる気分になる。


「ちょっと待って、どうしよう…… そうだ!」


 そう言うと部長は、『メリー』の『リ』に長さを足して『ル』へと変えた。

 続いて『メリー』の『ー』にいろいろ足して、『ヤ』に変え、最後に『マ』の文字をくわえた。


 そうして完成したのが、

『ハルヤマ クリスマス』


「ふー なんとか誤魔化せた」

「ふー じゃないですよ! 部長!」


 部長は満足そうな顔をしているが……


「なんですか、ハルヤマって! また僕の名前書いて! ハルヤマクリスマスって、恥ずかしいじゃないですか!」


 やばい、ついつい大声出したせいで、周りの部員の視線が……


 そんな騒ぎを聞きつけて花堂先輩もやってくる。


「どうしたの? ……あら? ハルヤマクリスマス」


 あーあー 見られたくない人に見られてしまったよ……


「ハルヤマクリスマスって、なんだかイベントみたいで、楽しそうね」

「だよねー これで完成! 冷蔵庫借りるね」

「……」


 勝手に完成にされたし。恥ずかしいなー



 そしてあともう一つ残っていた。

 部長が作った抹茶のスポンジ生地。


「抹茶ケーキも美味しそうですね」

「美味しそうだよね……」


 部長がじーっと見つめている。

「ちょっとだけ……」

「ダメですってば! 食べちゃ」


 緑色をした抹茶スポンジ生地に、同じような手順で、白い生クリームを周りに塗る。

 そして綺麗にデコレーションする。


「よし、できた。最後に……」


 白い生クリームで厚化粧されたケーキのから、抹茶パウダーを振りかける。


「ん? あれ?」


 どうやら量が足りなかったようで、中途半端なところでパウダーがなくなってしまった。


「無くなっちゃった」


 このままだと、白いケーキに苔かカビが生えたような感じになっている。

 なんだかバイオハザードなケーキが誕生してしまった。


「茶室行って持ってくる!」


 え? いつもの抹茶で大丈夫なの?


 そう言って慌てて取りに向かう部長。


「いいわね、いつも仲が良くって」

「そうですか?」


 花堂先輩はそう言ってくれるが、振り回されているだけで実際は疲れる。


「これ、春山君と二人で食べるのかしら?」

「まさか…… 部長の家で、家族と食べるんじゃないですか?」

「そうかしら? 二つも作ってるけど」

「……そういえば」


 花堂先輩はいつものように、全てを悟ったような笑顔で僕のことを見るだけだった。


「もしかして、明日は二人でお出かけ?」

「違います! 部活です」

「そう…… そうしたら25日も部活かしら?」

「いや……特に何も。予定も入ってませんし」


「そうなの? 私、明日も明後日も予定、空いてるわよ」

「え?」


 僕を誘ってる!? 花堂先輩が?

 そんなはずは……こんなにきれいな人がクリスマスに予定がないなんて。

 きっと冗談だ。部長みたいに僕をからかっているだけだろう。


「もし、私に誘われたら、春山君、来てくれるかしら?」

「え? っと―――」


 身を乗り出して僕に聞いてくる花堂先輩。


 本気なのか? 嘘でしょ? 噓なんでしょ!?


 そこで勢いよく扉が開き、部長が戻ってきた。


 助かったー


「お待たせ、春山くん」

「部長! 早く作って、帰りましょう!」

「ん?」


 そうして作りかけの苔の生えたケーキに抹茶を振りかけ、奇麗な緑色に。


「かんせーい」

「よかったですね」


 僕たちは二つのケーキを冷蔵庫に置かせてもらい、それを部長が明日取りに来ることに。


「お邪魔しました。失礼します」

「またね、春山君」


 変わらぬ笑顔で見送る花堂先輩。

 さっきのことが気になって、僕はまともに顔を見れない。


「ありがとうね、花堂さん」

「どういたしまして。また明日ね」

「うん」


 そうして僕たちは、調理実習室をあとにした。


「部長?」

「なぁに?」


「今日は一人で作るつもりだったんですか?」

「そうだよ」

「そうですか……」


「明日はクリスマスイブだね」

「そうですね」


 そう言ったっきっり部長は、ニコニコしたまま黙ってしまった。

 いつもの調子なら、部長がクリスマスだーとか言って、迫ってくる感じなのに。

 今回は妙におとなしい。


 逆に、まさか花堂先輩があんなこと言ってくるなんて……


 明日、明後日どうしよう……

 予定がないのも困りものだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ