表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/17

12月22日夜 冬至

前回のつづき

 みんな、こたつで遊ぶ

 結局、今年最後の稽古は、こたつでババ抜きをするという内容で終わってしまった。


 まあ、この茶道部らしいといえば茶道部らしい。


 しかし、それはいいとして……

 問題は……


 部長がこたつに入ったまま寝てしまって、みんなが帰ってしまったことだ!


 時刻は17時半。

 この季節だと外はもう真っ暗。

 おまけに今日は風強いし、寒いし……


「部長! 起きてください! ぶちょー!」

「ん~ もうちょっと……」

「もうちょっとって、さっきから20回くらい言ってますよ」

「ん―――」


 こたつの破壊力は凄まじい。

 この時期の受験生をどれだけ眠りの中に引きずり込んできたことか。

 そして部長も、その餌食となってしまった。


「部長、起きてくださいよ!」

「……もぅ、ここに泊まる」

「なに言ってるんですか!」


 くっそ、全然起きない。

 こうなったら全ての元凶である、こたつを取り除くか……


 僕は部長にかかった呪いを解き放つべく、こたつを上から掴み、持ち上げた!


 あっ!!


 …………持ち上げたこたつを、元の場所に置く……


 ……きっと、こたつの中で寝返りうち過ぎて……


 ……その……スカートが乱れて……


 部長の……お尻的な部分が……ふくらみが……


 見え……ちゃったかなー



 僕は自分を落ち着かせるため、その場で正座して黙想した……




「……ん……んん~」


 しばらくして、ようやくこたつの中から部長が、低い唸り声を出しながら這い出してきた。


 こたつの電源を切ったので、寒くなって出てきたのだ。


「ん~ あれ……みんなは?」

「おはようございます。みんなは帰りましたよ」


「……今、何時?」

「6時です」


「朝の?」

「夜の、です」


「さあ、早く仕度して帰りますよ」

「ん~」



 僕たちは急いで準備し学校を出る。

 校舎の外は、完全に闇と寒さが世界を支配していた。


「さ、寒いよー」

「部長のせいですよ、こんな時間になっちゃって」


 お互い学生服の上にコートを羽織っているが、寒さはそんなのお構いなしに突き抜けてくる。


「やっぱり、こたつ、持ってくるんだった」

「聞いたことないですよ、携帯用こたつ、なんて」


 部長は寒さで体を丸めこんでいる。

 身体は厚手の布に包まっているが、足は素足のままだ。

 スカートから伸びる足が、月明かりに照らされて、闇夜に白く浮き上がらせている。


 なんで女子高生って、こんな寒いのに素足のままなんだ?


「部長、寒そうですね」

「うぅぅ~ 足がつべたい……」


 こればっかりは僕には何もできない。


「春山くん、足、暖めて」

「どうやってですか?」


「触って、こすって」

「なにバカなこと言ってるんですか!」


「今度からタイツ、履いてこようかな」

「なんで履かないんです?」

「茶道のお点前の時には、あんまり履いちゃいけないから」

「はぁ……」


「春山くんは、どっちがいい? 素足とタイツ?」

「はあ!?」

「どっちが好き? 春山くんに合わせるから」

「べ、別に僕は、どっちでも……」


「どっち?」

「いや、その……寒いなら……タイツ、履いたら、どうですか?」


「そっか、春山くんはタイツ派かー」

「別にそんなんじゃ……」


「確かにタイツ履いてれば、お尻見られることないもんね」

「ぇ!!?」


「女の子が寝ている布団を剝がすなんて、デリカシーないよねー 春山くん?」


 部長はニタニタ笑いながら、やらしい目つきで僕を見てくる。


「な、なんのことですか?」

「私のお尻、見たんでしょ? どんな気持ちした?」

「べ、別に何も感じませんでしたよ」

「見たんだ~」

「……」


「変態さんだね」

「別に見ても、何も感じませんでしたよ」

「そうなの?」

「ええ、全然」


「じゃあ……」

 そう言うと部長は振り向いて、お尻を突き出して、

「今、お尻見ても、何にも感じないんだね?」


「ちょっと! なにやってるんですか? 路上ですよ」


 スカートの裾を掴んだ部長の手が、少しずつ上に上がっていく……


「あー もう、分かりましたから! ちょっと興奮しましたよ。これでいいんでしょ!」


 僕がそう言うと、満足したような顔つきで、部長はまた歩き出す。


 まったく……この人は……


 しかし、今日はホント、寒いなー

 僕は両手をポケットに突っ込みながら歩く。


「春山くん?」

「はい?」

「ポケットに手を入れてたら、危ないんだよ」

「はあ……」


「転びそうになった時、どうするの?」

「その時は……その時で」

「私が転びそうになった時はどうするの?」

「……は?」


「私が転びそうになった時、助けられるように、手を繋いでないと」

「……はあ!?」


「はい、手、出して!」


 僕はしかたなく、ポケットから手を取り出す。


「捕まえたっ!」


 僕の手が部長の手に捕まれる。


「これで転んでも安心だし、温かいよ」


 いや、これ、普通に恥ずかしいんですけど……


「ねえ、ちょっとこっち来て」

「えっ?」


 こんどは、部長は僕の手を引っ張って、道をそれて住宅街の中へ。


「どこ行くんですか?」

「こっちこっち」


 そう言って連れてこられた場所は……


 広い平屋の一軒家の前。


「ここがどうしたんですか?」

「ここの庭にね、柚子の木があるんだ」


 そう言って部長が指さす先には、黄色い実がたくさん付いた木。


「柚子のいい香りが、すごくするんだよ」

「柚子……ですか?」


 確かに……柚子のいい香りが、かすかに漂っている。


 部長は枝の先にぶら下がった柚子の匂いを嗅ごうと、背伸びして鼻を近づける。

 その仕草が、まるで背の高い男性にキスをせがむ姿のようで、妙に色っぽく僕には見えた。


「今日は冬至だからね」

「冬至?」


「そう。柚子のお風呂に入らなくちゃ」

「それでここに?」


「本当は春山くんと一緒に柚子のお風呂入りたいけど、難しいから一緒に香りだけでも」

「……そうですね」


「一緒にお風呂入ってる気分になった?」

「いや、それは……」


 部長はその柚子のように黄色い笑顔を向け話しかける。


 そんな恥ずかしいことを、よくもまあ、ペラペラと……


「……でもよかったですよ、一緒に香りを楽しめて」


 それ以外にも色っぽい部長の姿を見れたし……


「それじゃあ、行こうか」


 いつの間にか僕の手をまた握っていた部長は、僕の手を引きながら歩きだす。


「ねぇ、春山くん。冬至って、一年で一番夜が長い日なんだよ」

「ええ、確か、そうでしたよね」


「ってことは、私たち二人っきりの時間が一番長いってことだよね?」

「……いや、ちょっと何言ってるのか……分からないんですけど」


 いや、本当に何を言ってるのか、分からないんですけど……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ