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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ナンセンス系

首返し

作者: 平之和移


まぁ多分古代の話。どっかの森で集落を造っているチンピラ族という部族がいた。彼らがどういう奴らかはどうでもいい。


彼らの元にゴロツキ族という部族からの使者がやってきた。チンピラ族長のカネミツゲーはその使者を通し、族長の家に招いた。


「これはこれは、草原の先のゴロツキ族の者か。なにようだ?」


「それはですね」カネミツゲーに対し、使者が答える。


「あの草原で、貴女方が狩りをしているのを見ました。あの草原は我々の物であるということを知らないと見えます。ここは平和に、どうかお立ち退き願いたい」


「なんだとっ」族長は激怒した。


「あそこは代々続く正当な土地で……」


「ええい黙れ、誰かこいつを切り捨ていっ」


使者は呆気なく切り捨てられた。首が不穏に転がり、カネミツゲーの心を震わせた。怒りに任せた行動だったが、これは少しマズイことをしたかもしれない。


相手のゴロツキ族は、ここ最近勢力を伸ばしている新興の部族だ。戦いにも連戦連勝。自分達チンピラ族と同じ経緯を辿っている。こちらを屈服させる気なのは明らかだ。


カネミツゲーは決心する。この使者の首を送り返し、挑発してやろうと。


彼は側近に命じ、ゴロツキ族に対する使者を送ることにした。チンピラ族の使者はゴロツキ族の使者の首を持ち、旅立った。カネミツゲーは部族全体に戦いの用意を命じた。


一方ゴロツキ族。彼らは使者が帰らないことに苛立っていた。特に族長マヤクスキーは普段は飲まないウォッカを一リットル飲むほどだった。そんな状況下で使者は来た。


「お前、チンピラ族の使者だな? 待て、抱えているその首はなんだ?」


「これは、貴女方がお送りしました者の首です。どうぞご堪能下さい」


「おのれバカにしよって! この者の首を斬れいっ」


チンピラ族の使者は首をはねられ絶命した。床には、チンピラ族の首が一つと、ゴロツキ族の首が一つ。このまま怒りのパワーを放射しながら突っ込んでもいい。が、挑発に負けて突進したと聞かれれば、征服した他部族の離反を招きかねない。ここは持久戦だとゴロツキ族長は冷静に判断した。


「この者の首と我らが使者の首を持って、奴らに挑発せい!」


命じられた使者は、チンピラ族の首とゴロツキ族の首を持って歩んで行った。


チンピラ族は戦闘態勢に入っていた。臆病を殺す緊張感の中、使者は堂々とやってきた。ただちに捕らえられ、カネミツゲーの前に立たされた。


「さぁこれをご覧下さい」使者は首を二つぶら下げた。「どちらがチンピラ族でしょう」


族長は黙った。そんなことまで把握していないのだ。


「まぁ! 族長なのに配下の顔も判らないなんて! これはゴロツキ族の支配が必要でしょう」


「こいつを黙らせろ!」


即座に首が宙を舞う。これで首が三つに増えた。もうどれが誰か不明となる。


カネミツゲーは考える。相手は精力も士気もいい。マトモに戦ったならば損害は大きいだろう。そんな愚かな戦いをすれば、後世に悪口を言われてしまう。ただでさえ求心力が低下している時に、そんな失策は犯せない。


そう、族長は慕われていない。贅沢をして、それでいて恐怖政治をしなかったので、内部に敵を増やしてしまったのだ。ここは防戦に徹して戦いを勝ち抜き、逆転勝利によって敬意を集めるとしよう。


その為には、相手から戦を仕掛けてくれなければ困る。挑発の為に使者を送った。その両腕には三つの首があった。


ゴロツキ族の元へ辿り着いた使者をすぐさま捕縛され、首と共にマヤクスキーの前に出される。


「今度はなにようか? 降伏するならば命は助けてやろう」


「ふん、出会って早々に斬ってこないとは、腑抜けの集団だな。戦うまでもない」


「なにぃ? おのれ殺してしまえ!」


また首が増えた。これで四つ。おそらく二つはゴロツキ族の首なのだけれど、だれも判らない。


マヤクスキーも開戦を避けようとした。相手から来ないとメンツに関わるのだ。また使者を出すことにしたが、今度は一人を護衛につけた。


チンピラ族の元に……そう、また来た。ゴロツキ族が。今度は捕らえられることなく通された。護衛の男が厳つい為だ。


「降伏か? 臆病風に吹かれたならそう言え」カネミツゲーは臆することなく言う。


「ふん! お前達の使者は、出会って早々斬らない者は腑抜けと言った。どうやら自分が腑抜けとは気づかなかったようだ」


使者の言葉に激怒した兵士達は剣を向けた。「斬れ!」族長の言葉を聞いて遠慮なく斬りかかるものの、護衛の男が手強く、一人首を斬られた。しかし使者達の首はとれた。これで首は七つ。もう数えるのもバカらしい。


このまま使者を向かわせるのは危険だと、当然ながら判断された。護衛を二人つけ、首は荷者に積み持って行った。


使者は到着して瞬時に襲われた。ゴロツキ族はもうこれからの展開を知っていた。痺れを切らしたチンピラ族が攻め行って来るものだと。だが予想は外れた。相手はただの使者なのだ。本隊ではない。全員首をとばしてしまった。


そこで話し合いがされた。マヤクスキーの傘下、攻撃するか否かについて。だけども肝心のマヤクスキーが戦闘を避けたいが為に無駄に弁舌を奮ってしまい、結局使者を行かせることとした。


護衛は五人つけた。首の数はもう数えていない。ゴロツキ族が着くとすぐ襲撃した。チンピラ族も、相手がキレたと思ったのだ。彼らも話し合い、しかし結局は使者を送ることにしたのだ。


それからしばらくの間、使者を送っては殺され、使者を送っては殺されを繰り返した。その間、首は被害加害共に増えていき、わざわざ首を全部送る為に輸送用の荷車は三台に増えた。


ハエがブンブン飛び回り、移動する首塚を騒がせる。チンピラ族の部隊はため息を吐きながら進んでいた。


草原を超え辿り着くと、戦闘が始まる。皆首を狙って剣を振るう。もう誰も本来の目的を思い出せない。ただ首を狙うだけの人形達の、偶像の群れだった。


ゴロツキ族は、何度目かの「もう一回」の為に部隊を編成しようとして、もう人が残っておらず、数名の側近とマヤクスキーだけしかいないことをやっと知った。


「さあ首を返しに行くぞ。みなの者我に続け!」


帰ってくる声は数名だけ。彼らは自分達で荷車を引きチンピラ族を目指す。彼らはまだ兵力を温存しているだろうか。そんな不安を余所に置き、果敢に、しかし惰性に進む。


到着すると、カネミツゲーがでばって来た。荷車から離れ、号令する。「突撃!」お互いの側近がぶつかり首をはね合う。そして、二人が同時に互いの首をはね、絶命する。残ったのは、族長達だけだ。


お互い、剣を抜かず沈黙した。


当然だがもう兵士どころか部族すらいない。彼らは敗北したのだ。


二人は戦うことすらせず、とぼとぼどこかへ立ち去っていった。


後年、謎の首塚が発見されたが、なぜそんなに首まみれになるのか、誰も解らなかった。あの二人と似たように。

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[一言] ホラージャンルにしたらもっと面白そう
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