ホーム下の化け物
飲み会帰り。俺は夜風に当たり酔いを冷ましながら誰もいないホームで最終列車を待っていた。
「あー・・・久しぶりに飲みすぎた。こりゃ明日残るな・・・」
独り言を漏らしながら重い頭を少し下げる。
「・・・!?」
完全に下を向き切る手前で俺は硬直した。
視線の先に何かいる。
詳しく説明すると女とも男とも知れない骸骨のように痩せこけた顔がホームの縁からこちらを見つめていた。
「・・・酒にやべぇもんでも入ってたか?」
目の前にいる明らかにこの世の者ではないものが幻覚であって欲しいという願望を口に出す。
そういえばこの駅で昔、浮浪者が餓死をして、以来幽霊が出るとの噂がある。この化け物はもしかして・・・
「なあ、あんた・・・」
その化け物は俺に対し、低くくぐもった声で話し掛けてきた。
「・・・は、はい?」
普通ならば無視するべきなのだろうが、うっかり返事をしてしまった。
「腹が減った・・・何か食い物を持ってないか?」
化け物はニヤリと笑みを浮かべ、ホームから這い出て来た。
出て来た身体も顔と同じく骨と皮で、ボロ切れのような衣服を身に着けている。どうやら件の浮浪者のようだ。
「た、食べ物あげたら何もしない?」
金縛りのように身体が固まり後退りすることも出来ない状態だったが、背中のリュックに夜食用に買ったアンパンが入っていることを思い出した。
「ああ、しない。早くくれ。」
「ホントだな?」
何もしないと聞いて妙な安心感から身体が動くようになり、俺は素早くリュックからアンパンを取り出し化け物に投げつける。
化け物はうまくアンパンをキャッチすると、袋を乱暴に剥ぎ取り凄い勢いでパンにがっついた。
「ふがふが・・・」
すぐに逃げればいいものを、俺は化け物の食事を見入ってしまった。
「ふう・・・」
パンを完食した化け物は一つ息を吐く。
「美味い・・・」
そして、その言葉とともに化け物は穏やかな表情を浮かべ、煙のように消えてしまった。
「成仏・・・したのか?」
消滅を見届けた俺は呟くも、その声をかき消すように最終列車がホームに滑り込む。
「ホントに飲みすぎたみたいだな・・・」
大量摂取したアルコールのせいで変なものを見てしまった。そういうことにして俺は電車に乗り込んだ。
そして、帰宅後。アンパンが消えたリュックの中を見て恐怖がぶり返し、眠れなくなるのであった。