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【1】スキル、それと第二魔法と

「じゃ、先ずは第二魔法から話していきます」


 レモンはそう言って教育の指揮棒を手に取り、解説を始めた。


「今まで扱ってきた魔法である【火】【水】【風】【土】と言うのは【第一魔法】と言うモノで、所謂四元素魔法と言われているものでした。そして今回お教えする【第二魔法】というのは【第一魔法】から派生した能力を持つ魔法の事になります」


 レモンはそして火や水、風、土、と言った第一魔法にあたる魔法らを器用にも適当に顕現させながら説明をした。


「それで、ここで出てきた派生という言葉の概要なんですが、これは魔法に宿る本質の歪みを利用した際に引き起こる現象の事を指しています」

「本質の歪み…?」

「はい。魔法の可能性は無限大です。現象が孕む本質が瓦解(がかい)しなければ……火なら燃焼と言った反応がなくならければですね、その想像力と適応している以上の魔力量、または濃さによって何にでも変化できます。それが今まで教えてきた初歩的な魔法の利用だったんです」


 ーーただ。


「その本質的な部分と言うものには魔力の許容限界というのがありましてーー」


 レモンがそういうと、顕現させていた魔法に少し異変が起きた。瞬時に膨張したり、反応が盛んになったりした以外に、何か消え入りそうな感覚、それこそ魔法の反応に歪みがあるのが、見受けられた。


「ーー許容量というのは魔力の濃度限界とも言えまして、例えるならコップ一杯の水の中に飽和状態になるまで塩を入れた状態、というものになるんです。これに(なら)ってその後であっても注がれた魔力はその中に入り切らず、結局のところ抜けて霧散してしまう様になります」


 ーーただ、一般的な科学と魔法は違くて。


「その地点に立つと魔法の本質に歪みが生じます」


 そしてレモンは歪ませていた魔法全てを消して、一つだけ魔法を出現させた。


「そしてある工程を踏みますと新たに、魔法に幅を持たせる事、詰まるところ派生ができるんです。それでその派生には正当派生と系列変化派生の二種類あるんですが……」


 ーー私が今出現させている火炎は火魔法ですよね?


「これまだ【第一魔法】の段階で、今限界に達してるんですけど、そのせいでこれ以上の威力は出せないと。なので、今回は【第一魔法】が際限出来うる限界威力を正当派生させて向上させてみようと思います」


 そう言った瞬間レモンが見せていた荒れ狂った赤々しい炎は、空高く(たけ)()ぜ、熱波が周囲に解き放たれると同時に業火(ごうか)(さか)りを体現し、舞を、踊っていた。


 その後も少し離れているというのに感じる膨大な熱量。そして目にする青白い色の炎。青々と(きら)めくその火炎は、言葉に出来ないほどに美しく。


「なんか、凄い勢いが変わったな…」

「正当派生ですからね、火の魔力濃度限界が底上げされた為もっと威力が出る様になったと言えます。言うなれば【火炎魔法】とかでしょうか。…まぁ火魔法でも火炎魔法と似た事は出来るので表現するには微妙なところでもありますが」


 レモンはそう言った後、話の路線を戻す様に言葉を並べた。


「で、この派生させる方法。溶解度を高める方法なんですが、重要なのはそこに第一魔法の限界値と同程度の魔力を断続的に注ぐのではなく、まとめて一気に投入すると言う事が鍵になってくるんです。そうする事によって第一魔法が第二魔法へと移行する準備が整うんです」

「あー…なるほど」


 そう相槌を打つが、少々釈然(しゃくぜん)としないというか。悠夜はそして疑問を(てい)する。


「まぁ原理は(おおよ)そ分かったけど、でもなんで魔力を多く注ぐだけで派生? するん? それも一気に注ぐだけで。塩水に多めの塩水足してもただの塩水だろ?」


 するとレモンは「おぉー」と感嘆の息を吐き、目を輝かせながら「良い着眼点ですね」と言った。


「実はですね、これは本質の歪みが持つ特異的な特質に関わりがありまして、長くなるので端的に言いますと、歪みの中に一気に送られた多量の魔力は、魔法の本質的魔力に同化させられなくなるんです」

「ん、ん?」

「……ぁー、要するに歪みの中に送られた真水である魔力は、塩水に変化するのではなく真水のまま通る。魔法生成時に行われる概念魔力同化現象ーー魔力が魔法の属性色に染まる現象、その過程をスルーさせる特殊濾過器の様な性質を持っているのが歪みであると考えて頂いて構いません」

「んー……」

「…じゃあー…もっとまとめて整理しましょう」


 →【溶けきれなくなった塩が、底に沈むようになっているのが魔力濃度限界状態の魔法。現段階での最大威力】


 →【それを薄めようにも魔法が持つ同化の性質により、そのまま入れたはずの真水が塩水に変化してしまう】


 →【そうした限界に達した時、歪みという名の濾過器が出現するので、それを利用する。普通に魔力を注入するだけではその濾過器は作動しない。しかし、第一魔法の限界値と同程度の魔力を一気に流す事で濾過器が作動する】


 →【派生準備はこれで完了。正当派生と系列変化派生の内、(いず)れかの派生させたい系統に合わせて想像をする】


 →【第二魔法となる】


「あ、結構綺麗にまとまったんじゃないですか?」


 自画自賛するレモンに悠夜は「初めからこう言ってくれよ…」と呆れた顔で言った。


「まぁ良いじゃないですか。ちょっと賢そうに話せたので私は満足です」


 そう言ってニヒッといたづらな笑顔を向けるレモン。黙ってれば可愛いを体現する少女を前に悠夜はため息を吐いて「そうかよ」とぶっきらぼうに返事をした。


「さて、では後もう一つ。系列変化派生ですが、これは見てもらった方が早いですね」


 レモンがそう言うと、途端、周囲の空気がレモンの掌の中に吸い込まれた。そんな空気の躍動(やくどう)が一瞬だけ起こり、周囲の草達がゆらゆらと揺れる。


 そしてレモンは辺りに目をくべてからパンッと両手を目の前で叩き合わせる。


 何事か、何をするのか。さっぱり検討の付かない悠夜は少し、プレゼントを開ける様なワクワク感を心に抱きながらレモンの一つ一つの動作に目を向けた。


「では、行きますね…」


 レモンはそう言うと、手のひらを引き離すように腕を広げた。そして、そうして空いていく目の前の空間、その中に歪み渦巻く球体が小さく、それでいて荒々しく漂っていた。


 まるで側面から見た銀河系の様に引き伸ばされ出来上がった球体。それはそして大きく肥大化し、膨張し、景色を異常なまでに歪ませ始める。


 そして、それを見ているだけで向けられている訳ではないと言うのに、危険だと言う本能が悠夜の中で叫び声を上げていた。


 レモンは集中する。

 真っ直ぐ前を見つめて、でもなんとも思ってない様な顔でその球体を放った。


喰べる者(イーター)ーー」


 突き出した掌。


 その突き出す流れをなぞるように球体は加速度的に直進し、高速で(たけ)り進んでいく。


 その最中にも巨大化していき、膨張していき、地面と接触した瞬間にはパンッと地面が大きく爆ぜた。


 しかしそれを気にするどころか球体は地面へ潜るようにして落下していき、豪快に、強烈に、苛烈(かれつ)に、そうして突き進む中で土を抉りーー否、飲み込んでいき、その球体の中に入り込んだ土や岩を瞬時に木っ端微塵にして言った。


 全てを飲み込む巨大な球体。

 それは遠くへ進んで行っても異様に、明瞭に目の中に映って、そして徐ろに球体が空高く打ち上がる姿を見ていると、球体は急速に縮まっていき、その勢いを収束させたーー


「っ……!?」

「………」


 ーー瞬間、空気が甲高い唸り声を上げて荒れ狂った。


 威力の強い、本当に強烈な、凄烈(せいれつ)すぎる突風。髪の毛が強風によってしつこく(なび)き、その風の力に身体が持っていかれそうになる。


 辺りの草木もさざめくどころか悲鳴を上げ、弱かった草や葉は空高く舞い上がり、地面や木々に身についている緑は豪快に、バサバサとそれらを震わせた。


(ほんと、すげぇな…)


 あの大きさ、あの威力。消費する魔力量は今の悠夜が出せる全魔力の何倍か何千倍か。力の程が分からないはずなのに、分かってしまうレベルの高さ。


 説明時に展開していた四つの魔法もそうだが、同時にそれらを意図も容易く操っていた事も本当はもっと驚くべき事なのだろう。


 魔法の扱いにくさを理解する悠夜にとっては、そんな光景を前に再確認する事となった。


 悠夜が余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った風に(たたず)んでは空を見上げるレモンに感心の目を向けるていると、レモンはそんな悠夜の方へ振り向き、自慢げに微笑みかけながら言った。


「どうですか悠夜さんっ、これが風の第三魔法【消滅魔法】です」


 ーーって。


「いや第二ちゃうんかーいっ」

「えへへ…まぁあれです。凄さの高みを見せたかったと言いますかね。ええ。あ、第三魔法に移行させるのも第二魔法の移行と同様の手順です」

「お、おう…」


 そんな滑らかに第三魔法についての説明を受けた後。


「でまぁ、さっきのも風の第三魔法の系列変化させたものなんですけど…系列変化の中にも二種類ありまして、同じ変化をする場合のものと唯一無二の変化をするものがあります。それこそ、さっきの消滅魔法は風魔法の系列変化のみなんですけど、例えば…こう…」


 レモンはそう呟きながら目の前に炎を顕現させる。そして、それをレモンが囂々(ごうごう)と燃やし上げ続けると、周りにパチッパチパチッと稲光が走り始めた。


 ビビビバチッビチッと、糸の様に細い線が繋がり合うように空中で伸び、バチッと破裂していく。


 そうして炎はどんどんと透明になり、空気が揺らめき始め、周囲の紫電はより勢いを強めた。


「よいっしょ」


 そして、ゆっくりと紫電が中央に集まり始める。それらは真ん中で結合し、合わさり、線を太くし、破裂して周囲に散っては直ぐに中央に凝集を開始する。


 その繰り返しで、雷は目の前で円形に固まり始める。たった一本長く伸び、グニャグニャと弾けていた雷が玉の様に膨れ上がって、細い雷を纏いながらそれは勢いを収めていった。


「これが火の第二系列魔法【雷魔法】で作った雷玉(らいぎょく)ですね。でもこれ、やろうと思えば土魔法でも出来ますし、水の第三系列魔法で【雲魔法】ってあるんですけど、そん時に雷雲として雷を発生させることもできるんですよね」

「なんか……色々あるんだな系列魔法って。あのさ、他にどんなのあるん? そういうのも手探りで想像する感じ?」

「まぁ基本はそうですね、似通った現状、孕んでいる性質から発生するちょっとした変数バグ要素みたいなものなので、全部の魔法に系列魔法が存在してるかって言えばノーなんですよ」


 ふぅっと、レモンは息を吐き手を叩く。


「ま、はい。以上が第二魔法と正当派生、系列変化派生の紹介。ひいては第三魔法のデモンストレーションでした。そして次はスキルについてご紹介しますね」


 レモンはこれまたスムーズにスキルの説明も始めた。

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