15 ポジティブな僕は温泉でおしべとめしべの接触を願う
空気中に細かいチリなどが溢れているとき、そこに引火すると爆発が起きる。
いわゆる粉塵爆発というやつだ。
僕も知識としては知っていたけど、こうして目の前で見るのは初めてだった。
「さすがはインさん、やることが派手だなあ」
インさんがどう暗殺者さんを退けるのかを知りたくて、視覚結界でずっと観察してたけど、まさかそのような方法を選ぶとは思わなかった。
僕としてはとても楽しめたのだけど、しかし一方では期待外れだったことも否めない。
「インさんの秘密を暴きたかったんだけどな」
先日の異国の人のとき、インさんは禁呪かそれ以上の何かを使用していたはずだ。
その何かを知りたいのに、残念ながら今回はその力を使ってはくれなかった。
使用に何か条件があるのか、使うまでもなかったのか、それとも、僕に見られたくなかったのだろうか。
インさんなら僕が結界で見ていたことに気づいているだろうし、その可能性は十分にある。
「ここ最近、露骨にインさんに近づきすぎたからかなあ」
不審がられているのかもしれない。
極端な話、インさんと直接関わることができなくても結界で観察は続けられる。質問してみても一切教えてくれなかったし、どうせ隠されるのなら距離を詰めても意味はないとも考えられなくはない。
だけど、あの素晴らしいインさんと、この島でせっかく巡り合えたのだ。
僕の目的のために、今後もインさんとは是非とも良い関係を築いていきたい。
「うん、やっぱりもっと仲良くならないとだよね」
先日はインさんから手料理を振るまわれた。ならば、次は僕がもてなす番だ。
人と人とが友好を深めるといったら、やはり定番のあれだろう。
裸の付き合いだ。
この島の西部に温泉が湧いているのを知ったのは、島に来てから数日後ぐらいのことだ。
ただ何か得体のしれない成分が入っているらしく、皮膚はただれるし目には激痛が走るしで、とても入れるようなものではなかった。防御魔法でも使えば入れるには入れるのだけど、温泉につかるというのにそのようなものを使うのは無粋の極みだ。
なので、日々苦心しながらこの温泉の成分を魔術で調査、調整し、つい先日やっと普通に入れるようになったのである。
その温泉に、僕はインさんを誘った。
僕が島に来てから45日目。つまりはこの間の二人組の暗殺者が来た日から、あの粉塵爆発から三日後のこと。
僕とインさんは温泉に来ていた。
男女で一緒に入浴するということにインさんは複雑な表情をしたけど、僕が是非にとお願いすると了承してくれた。やっぱりインさんは優しい人だ。
「……うーん。娼館の姉様方だって毎日のように男と一緒に風呂に入ってたしなあ。そういうものなのかなあ。いや娼館は娼館だから理由がまた違うよなあ」
インさんは何やらぶつぶつ言ってるけど、なんだかんだで気持ちよさそうに湯につかっている。
気に入ってもらえたようで何よりだ。
僕は早速、これを好機とばかりに話しかける。
「そういえば、インさんはこの前の爆発の怪我、大丈夫ですか? この温泉は傷の治りにも良いですよ」
「ええ。吹っ飛ばされて気を失いはしましたけど、幸いにも無傷ですみました」
「……そうですか」
確かに、インさんの裸体には傷一つ見当たらない。だがあの大爆発で無傷というのは妙な話ではないだろうか。位置関係もあったとはいえ、暗殺者の方は跡形もなく吹き飛んだというのに。
爆発のせいで視界が潰されたので、結界ではその後のことが分からなかったけど、やはりまたインさんは何かの「力」を使ったようだ。あれからしばらく目を覚まさなかったのも、その「力」に関係しているのだろうか?
「さすがはインさんですよね。あの変な喋り方の暗殺者さん、驚いただろうなあ。あ、驚く前に死んじゃいましたかね? あはは」
「……ははは。ヨウさんの方は大丈夫だったんですか? そちらにも暗殺者が向かったみたいですけど
「ええ、危なげなく。しかもこうして両腕をもらえたので、むしろ良かったです」
あの暗殺者さんの体格はちょうど僕と同じぐらいだったので、ぴったりのものが作れた。
脚ももらおうかと思ったけど、今の義足はせっかくインさんからもらったのだから止めておいた。ただインさんとは性別が違うのでどうしてもサイズ的にしっくりせず、多少は肉や骨を削ったり足したりして調整はしてある。
「ところでヨウさん。わざわざ温泉に来てまで話したいことってなんですか? 話だけなら別にどこでもいいのでは」
と、インさんが訊ねてきた。
僕はどうしても話したいことがあると言って温泉に誘ったので、やはりそれが気になるのだろう。
うん、体も温まってきたことだし、そろそろ本題に入るとしようか。
「実はですね、インさん。僕は一つお願いしたいことがあるのです」
「お願い?」
「はい」
僕はインさんの方に近づいていって、その手を握って、その目をしっかりと見つめてからはっきりと言った。
「インさんと僕で子供を作りましょう」
「……」
インさんは固まったように何も言わない。
しかし僕は辛抱強くその返事を待った。ぎゅっと手を握って、決して視線を外すことなく。
するとやがてゆっくりと、インさんの口が開く。
「……子供を。ですか」
「はい、子供を」
「…………それはあれですか。この島の動物を家畜化したいから繁殖作業を手伝ってほしいみたいな感じですか?」
「いえ、そのような遠回しな意味ではなく。言葉通りに僕とインさんの子供を作りましょうということです」
「………………私は魔術に疎いので。人造人間を作るお手伝いはできそうにないです。髪の毛の提供ぐらいならできますけど」
「いえいえ、きちんと自然の摂理に従っておしべとめしべで作るつもりですよ」
だから、話の場に温泉を選んだのだ。
男女がまぐわうなら裸になるし、そのまえに身を清めたいし、こうして温泉でそれをしながら話を進めれば一石二鳥だ。
「……理由をお聞きしてもいいですか?」
「はい、もちろん」
インさんは乗り気ではないようだけど、感情的になって拒否するでもなく、こうしてまず理由を問おうとする姿勢はやはり素晴らしい。
にこりと笑って、僕は目的を話し始めた。
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