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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第4章 護り手は見出したりて
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イクサビトはマヨヒのハザマに

 裏通りはスラム街というほどに荒れているわけではない。

 道は放置され、整備されているとは言い難い凹凸のある、雨の日には酷い水溜りが池のように発現し、道行く者の足元を汚す。

 そんな悪路であっても、人々の生活に深く関わっている。

 裏通りは付近に住む住民の半ば倉庫と化しており、勝手に積み重ねられた木箱や樽の中には生活用具やら漬物やらが保管されて所狭しと無造作に積み重ねられている割には人が往来できる程度には空間が確保されていた。

 隠れる場所には困らない、子供達の遊び場。

 そんな裏通りの長いゞゞ一本道。

 ひと辺一メートルの木箱が三段に、五つ、四つ、二つと積み上げられた影に灰色の短髪の筋肉ダルマと言って過言ではない大男と、一見すれば華奢な小柄な少年が壁に背を預けてじっと何かを待っていた。

 二人に共通しているのは、ヴァラカス地方では見られない民族衣装きものを纏っている所か。

 白の小袖に藍染の袴、羽織は纏っていないが代わりに鞣革のベストを着込み、大男の方は歪な突起物の凶悪な長さ二メートルの金棒を右手に持って先端を逆さに地面に立てている。

 少年の方は同じような服装だが、顔の上半分を虎の面で隠し、左手には六角に綺麗に面を揃えた長さ一・五メートルの樫の木の杖を地面に付いて左肩に預けるようにしている。

 大男が左手で顎を撫でてポツリと言った。


「件の依頼を反故にするなら、今かも知れませぬな」


 少年の方は聞いていない様子でじっと向いの建物の木の壁を睨みつけている。

 大男は構わず続けた。


「いやはや何という晴天の空でありましょうな。コレは絶好の散歩日和っ。このような裏通りで燻っている場合ではありませぬなっ!」


 少年は苛立たしげに視線を男から逸らして道の彼方を見て言った。


「少しは黙らぬか。気が散る」


 ふむ、と、大男は一つ唸って天を仰いだ。


「まともな依頼ではないと、もうお気付きでありましょう」


「だから反故にすると? それこそ追手が差し向けられよう」


「ここは我らがニッコウ皇国ではありませぬ。一つ依頼を蹴った所で追手を差し向けるほど暇ではありますまい」


「・・・内容にもよろうよな」


 しばしの沈黙。

 大男はガハハっと大きく笑いとばした。


「まともな依頼でなければこそ、それこそ追手などつけられますまいっ! 後ろ黒い、高潔とはとても呼べぬ醜悪な趣味でありましょう。肌の色の違う、しかも娘を拐かすなどっ!」


「肌の色で言えば、我らもこの国の住民とは大分異なる肌をしているがな」


「ガハハハっ、コレは手厳しいっ!」


 ピシャリと左手で額を打つ大男。

 イライラを表に出して少年が男を見上げて睨みつけた。


「いい加減にしろ、ゴンゾン・ウガル。とうに決めたことや」


 大男は、真顔で口つぐむと向いの建物を見据えて金棒を正面に両手で持って仁王立ちした。


「されど、我らが事を成す事で如何程の涙が流されましょうや」


「ふん。たかが盗賊ギルドの女の一人や二人、消えた所で何ということはあるまい」


「ヴァラカスの盗賊ギルドは、我らが言う所の盗賊団とは異なり申す。いわば任侠衆。彼奴らは我らが思うているほど悪党ではないかも知れませぬぞ」


「何が変わるものか。同じだ。ならば成すことに何の躊躇いがあろう」


「ふむ・・・やはり決意は変わりませぬか。ロー様」


「くどい。これは我が一族の再興がかかっているのだ」


 大男、ゴンゾン・ウガルは目を閉じて瞑想するようにしばらく思考を巡らせていたが、やがて小さく首を振り寂しげに息をもらした。


「御決意が変わりませぬとあらば、もはや何も言いますまい」


 じっと身を潜めて立つこと如何程か。

 遠く人の駆ける足音を聞いて虎の面の少年は言った。


「人払いは済んでいような」


 少し苦しそうな顔をして、大男が答える。


「今日は日曜と言うそうです。我らの言う所の、安息日ですな。近く祭りがあるとかで、近郊の住民は皆一家総出で催し物の準備に出払っている様子」


「どの道、騒ぎが起きたとて一瞬だ。人に見られる前に終わらせる」


「貴方様が御手を煩わせるほどの事とは思えませぬが」


「己が手を汚せぬ者に、どうして部下ひとに死ねと命じる事が出来ようか」


 ゴンゾン・ウガルは目を細めて地面を見て、少し哀れむように笑った。


(別の道もありましょうに。その真っ直ぐさは御父上によく似ていらっしゃる。しかし惜しむらくはその向く先か。貴方の見る道の先は、天道とはあまりにも遠いと言うのに、そこまでして己を駆り立てますか)


 足音がすぐ近くまで迫ってきて、少年は背中を預けていた木の壁から身を離して一歩を踏み出す。


「喜ぶがいい、ウガル。貴様のヤマ勘が当たったぞ」


「これほど嬉しくない当たりはありませぬな。ハハハ」


「喜べと言った。・・・くぞ」


「ふむ・・・致し方ありませぬな」


 二人は大きく一歩を踏み出して積み上げられた木箱の陰からその身を晒した。






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