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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第4章 護り手は見出したりて
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遠き地からの来客

 シェイニー・インに戻ると、セージはレナを部屋に運びルームメイトのフラニーに任せて部屋を後にする。

 フラニーは酔いは覚めたらしいが足腰の立たないレナをベッドに横にさせるが、レナは大丈夫だと抗議の声を上げるが、意識が比較的にはっきりしていようとどの口がいうのか、と一蹴されていた。


「そもそも、純度の高いウィスキーなんて原液で飲むものではないわ!」


「やだなぁ、ウィスキーじゃなくて、ウォッカだよ」


「なお悪いわよ!」


 悪びれた様子もないレナに、セージは呆れるように睨みつけて言った。


「レナ、お前は俺の見ていないところではもう飲むな。そもそもが東洋人の体に合う酒なんてコラキアにはないし、東洋人自体酒への耐性が低いんだ。また無茶飲みされておかしくなられたらたまらん」


「ええー、お父さん飲んでいいって言ったじゃん」


「今回のようなことがあれば別だと言っている!」


 怒鳴りつけられて、レナは毛布で顔を半分隠しながら言った。


「わ、わかったわよ・・・。おやすみっ」


 ふてくされながらも悲しそうな目で見上げてくる日本人の娘を見下ろして、セージは大きくため息を吐いた。


「フラニー、後は頼んだぞ」


「はいはい、わかってるわよ」


 エルフ娘は、肩を竦めて見せてレナの横たわるベッドの端に腰かけるとセージの方を見上げて小さく手を振って見せる。


「晩ご飯できたら呼んでね。シェーン、今日は何を作るって言ってたっけ?」


「昨日帰ってないからわからんが。いつも通りなら、キャベツロールじゃないのか。何の肉が入るか、魚かわからんが」


「まぁ、あの娘が作るならハズレはないか。出来たら呼んで頂戴」


「わったよ。レナ、ちゃんと寝とけよ。あと水分を取れ」


「はーい」


「まともに歩けるようになるまで、風呂にも入るんじゃないぞ」


「・・・はーい」


「わかってるのか?」


「んー・・・はーい」


「わかってないだろう」


「そんなことないよ?」


「熱に当てられてひっくり返って怪我しても知らんからな。アミナにも面倒は見させんぞ」


「ええー!」


「わかったら、言うことを聞け」


「ううー・・・。はーい・・・」


 セージにキツく言いつけられて、観念したように毛布を頭までかぶって不貞寝するレナ。

 セージはフラニーと視線だけ通わせて同じように肩を竦めると彼女に任せて部屋を後にした。

 レナ達の部屋がある二階から、一般冒険者の泊まる部屋のある一階に降りて入り口のカウンターを目指す。

 シェイニー・インは宿泊客の多い宿ではなく、魔炎風炉フレイムマグバス目的に来客する者が多い特異な宿だ。

 今日とて、魔炎風炉を求めて裏口の受付には客は来ているのだろうが、正面のカウンターは惨憺たるものだ。

 最も、魔炎風炉フレイムマグバスの銭湯としての利用価値をシェーンに教えて、裏口に受付を設けさせたのはセージ自身なのだが、宿泊客の来客がないと言うのは宿としては致命的なのだろう。

 それでも、シェイニー・インが人気宿として成り立っているのは、川の水を水車で高さ十メートルというファンタジーな世界では巨大な建造物であるタンクに吸い上げ、タンク内の濾過装置(細かな砂利や浸透性の高い砂で不純物と生臭い臭いを消臭し、真水にする)で綺麗にした水を魔炎高炉フレイムマグで温水にして重力を利用した自重自動給水配管で蛇口をひねればお湯が出る、コラキア唯一の「自動給水栓湯」を売りにしたところ、客足は絶えずコラキア名物にまでなったのが大きい。

 噂を聞いてか、北のロレンシア帝国から流れてくる旅商人までもが、温かく快適な「銭湯」を求めて来客することも珍しくはなかった。

 正面カウンターのホールにセージが足を踏み入れると、客のいない寂しげなホールに並べられた四脚の四角いテーブルと椅子のセットが日中の日差しに照らされて物言わず佇んでいる。

 無人のカウンターに入り、レナのせいで無用に疲れた身体を脚の高いカウンター用の木製椅子に預けると、深々と腰を下ろして一息つく。

 いつもなら、彼の様子をどこかしかで見ているシェーンが駆け寄ってきてコーヒーの一杯でも入れてくるところだが、生憎裏のカウンター業務で忙しいらしく誰もセージに気付いて出て来る者はいない。

 当日の出勤者の名前が記された壁にかけられた黒板に目を見やる。

 さて、どのくらいのタイミングでカウンター裏の食堂の先に設えられた彼とハーピーのラーラ親子の住む部屋に戻ろうかと思案していると、そんな彼を見透かしたかのようにカウンター裏に通じる廊下の戸口からラーラが顔を覗かせてきて言った。


「あら、セージ。今日は早いのね」


 少し困ったように顔を曇らせるセージ。


「うむ。まぁ、今日はやる事は任せてきたからな。そう大層な依頼があるわけでもない」


「そっ」


 ハーピーのラーラは、足音も静かにカウンターに入ると彼の後ろに回って大きな翼で包み込んでくる。


「毎日帰ってきて欲しいのに、昨日は帰らなかったわね」


「そういう日もある」


「娘達を安心させてあげて。最近悪戯が酷いのよ。このままでは他所様の子供にも迷惑をかけかねないわ」


「二、三人は面倒を見る冒険者の娘が来ているはずだが?」


「あの子達も日々大きくなってきているのよ。みんなもう飛べるようになってるの、あなた知ってる?」


 そう言われて見て、セージはそうなのかと始めて気付かされる。


「魔物の成長は早いわ。いいえ、子供の成長というべきかしらね。みんな椅子に座れるくらいに大きくなってるし、空だって建物の屋根を越えるくらいには飛べるわ。みんなであなたにぶら下がるのも、そろそろ無理なのではないかしら」


「そんなに大きくなっていたか?」


「もうっ! ちゃんと子供を見て」


 ラーラに叱られて、難しそうな顔で窓の外に視線を逃すセージ。

 ふと、彼はラーラの足元に視線を落として鉤爪に皮の袋を被せてあるのに気付いて言った。


「靴か?」


「んー?」と、自らの足元を見下ろし「ああ、お客さんの商人からシェーンがもらってくれたの。大型の鳥を室内で飼うために使う、床を傷つけないための爪袋だそうよ。鳥用足袋バーズスリッパと言うらしいわ。爪にかぶせるだけだし、鉤爪のまま歩いては危ないでしょう?」


「そんなにも人間みたいに過ごさなくてもいいんじゃないか?」


「何か問題でもあるのかしら?」


 セージの問いに問いで返して、ラーラが美しい顔を彼の横顔に近付け口付ける。


「長くご無沙汰よ。今日は、ね?」


「しょうのないワイフだな」


「嫌い?」


「好きだよ、ラーラ」


 ラーラの頭の後ろに右手を回して首を傾けて口付けるセージ。

 しばし人気の無いロビーのカウンター内で愛を確かめ合っていると、「カララン」と玄関鐘ドアベルが鳴らされて開け放たれた。

 緩慢な動作でラーラがセージから身を離す。

 二人が玄関口を見やると、虎の面で顔の半分を隠した和装に近い装束に身を包み、無骨な樫の両手根を背負った少年と、戦装束ラメラアーマーに大きな金棒を背負った大男が大股にロビーに入ってきて言った。


「たのもう。この宿は風呂は付いているか」


 貴族然とした少年の問いに、ハーピーのラーラが微笑んで答える。


「ええ、とびっきりの銭湯がありますわ。銭湯のご利用なら、ぜひ当宿を御利用下さいな」


 まるで女将さんみたいな発言にセージが目を丸くするが、来客の二人組も同様に驚いた顔をしていた。

 大男が感心したように大きく頷く。


「なんともまぁ、よく教育された魔物であるな」


「よさぬかゴンゾン・ウガル。失礼であろう」


「しかしながらファンガン・ロー様。かように人語を話す魔物は珍しくはありませぬか」


「ハーピーは亜人に近い。言葉が話せても不思議なかろう」


 少年が一歩踏み出して、セージを見上げて言う。


「失礼をした。しばし滞在したいのだが、部屋は空いているだろうか」


 どこか油断のならない物を感じつつ、セージはカウンターの下の台から帳簿を引っ張り出してどさりと無造作に出して言う。


「二階の奥のベッドなら空いているだろう。相部屋になっても文句は言うなよ」


「ちょっとセージっ、ダメじゃない!」


 少し怒り気味にラーラがセージの横顔を睨み、二人に向き直って微笑んで言った。


「旦那が失礼を。一泊五十カルグになります。使用されていない部屋がいくつか御座いますので、ご案内致します。所で、お二人相部屋でよろしいでしょうか?」


 ハーピーの真面目な対応に感嘆の息を漏らす二人の武人然とした旅人は、ラーラの言葉にしかしと首を振って言った。


「いやっ、出来れば一人一部屋を使いたい」


「語弊の無いように申さば、拙者は別の客との相部屋でも構い申さぬが、此方こちら御方おんかたは拠ない事情がありますれば、一部屋を専属で使わせていただけると大変助かり申す」


 妙なかしこまった物言いに、セージとラーラは顔を見合わせた。

 気を取り直したようにラーラが小首を傾げながら微笑みかける。


「畏まりました。それでは帳簿の方にお名前をご記入下さい。部屋までは旦那がご案内致しますので、」


「おい待てラーラ。俺は接客業なんて、」


「ハーピーの足で階段なんか上がれないわ。飛べば済むけれど、お客様の前では失礼でしょう?」


「だが、」

「ダーリンが行って頂戴」


 有無を言わさぬ妻の迫力に、セージがため息を吐いて椅子を立った。


「わかったわかった・・・。案内する。ついて来い」


「ダーリン?」


 ハーピーに睨まれて深く嘆息を漏らすセージ・ニコラーエフ。


「ええい、クソっ。ご案内します。ついて来い」


「セージったらっ、言い方!!」


「ああ、構わぬ。奥方もご苦労なされておいでだな」


 虎の面の少年が笑みをこぼす。


「宿の主人は怖いくらいが丁度良い。切り盛りする女将がしっかりなされていれば尚更だ。客が多ければ、問題も少なくないでしょう。ご主人、申し訳ないが、御足労いただけると助かる」


 少年の大人びた物言いに、セージはやれやれと肩を竦めてカウンターを出ると先に立って半身向き直り言った。


「案内する。ついて来い」


 彼の横暴に見えてどこか気遣いの色のこもった物言いに、二人の旅人、ファンガン・ローとゴンゾン・ウガルは顔を見合わせると苦笑して、上背の小さな方のファンガン・ローが少年らしく首を僅か傾けて見せる。


「厄介になる。よろしくお願いしたい」


 セージは二人を伴って、シェイニー・インの部屋の案内を不器用ながら開始した。






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