廃屋の人形館
ワイトとして自らを転生するために邪悪な魔法に手を染めたジョスファン・ヒアキンスは、勇気ある冒険者達の手によってその悠久とも思われた時を終えた。
男女の冒険者達は、枯草に覆われた道の上に横たわるゾンビだった者達の亡骸を通りに沿って並べていく。
淡々と作業する冒険者達の中で、アミナとレナの二人は物言わず横たわる破壊された人形の傍らに座り込み、手を合わせていた。
セージは上半身と下半身を分断するように破壊された等身大の女性人形を目に留めて見下ろしてくるのに気づき、レナがセージを見上げる。
「この子、さっきまで生きてたんだ。死人の館から逃げたいって言って。でも、あのジョスファンって言う男を止めたいって、戦って、やられちゃった」
レナの言葉に、セージは答えることなく壊れた人形を冷たい目で見下ろしていた。
合わせていた手を離したレナが砕かれたクリスタルの破片をそっと拾い上げると立ち上がり、セージに向き直る。
「生人形だったの。有り体に言えば、ロボット? ね、お父さんは、リビングドールって生きてると思う? それとも、物でしかないのかな」
深くため息を吐くと、セージはレナの頭に大きな手を乗せて徐に撫でた。
「ちょ!? やめろ、やめてってば! 何よいきなり!?」
セージの手を振り払って、赤面して数歩後退るレナ。
セージはちょっと困ったような顔をして言った。
「ロボットだとしよう。で、そいつは俺達人間のように言葉を話し、考え、悩み、時に悲しみ、時に喜び、怒りもする。そんな高度なAIを積んだロボットがお前の隣にいたとして、そいつに命はあるのか?」
レナは逡巡して首を振る。
「わかんないけど、私が言いたいのはそう言うことじゃなくって・・・」
「哲学を語ったって意味はない。お前の目に生きて写ってたなら、生きてたんだろ」
「そう・・・かな」
「せめて、弔ってやれ。それしか出来んだろうさ」
先に調査に訪れて疲労したレナ達一行をコラキアに送り届けた後、セージは再び狼の牙と踊る妖精を引き連れて旧ヒアキンス邸を訪れていた。
ヒアキンスの家系の子孫、ネジン・ヒアキンスが自らの目で屋敷を調べたいと言ってきたからだ。
宮廷魔法使いのアンデルス・ヴァシューズと、彼の警護を務める騎士見習いのスチュアート・フェルディナンも同行し、アンデルスの私兵である二十人の戦士達も同行している。
セージの他に、彼の従者を自称するアミナ・メイナ、そして娘を自称するレナ・アリーントーンも同行してきていた。
相変わらず面倒臭げに、彼女達から距離を置いて歩くセージ・ニコラーエフ。
そんなセージと肩を並べて歩くスチュアートは、興味深げに問いかけてきた。
「な、アンタ。あの娘達のどれが本命だ?」
チラリと騎士然とした若者を見下ろし、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「黙って歩け」
「そう怒りなさんなよ。どれも選りすぐりの美女だ。全部って言われても驚かないぜ、俺は。で、どの娘が本命なんだ?」
「縊り殺されたいのか?」
若干殺意の篭った目でスチュアートを睨みつけるセージ。
スチュアートはやや腰が引けながら両手を上げて宥めるように言った。
「わかった、悪かったよ! そんなに怒らなくたっていいじゃないか。あーでも、どの娘も狙ってないなら、あの東洋人の娘、もらってもいいかな?」
「娘に手を出したら首をへし折るぞ」
「娘!? 娘って、アンタは北のロレンシア人だろ。ロレンシア人に東洋人の娘っておかしすぎんだろ」
氷のような視線でスチュアートを睨みつけるセージ。
スチュアートは諦めたように肩をすくめて言った。
「いや、いいよ。わかった。娘同然って言いたいんだな。わかったよ。悪かった。もう言わない」
しばらく黙って歩く一行。
やがて沈黙に耐えられずスチュアートが口を開くと、次に出てくる言葉を見透かすようにセージが言った。
「手を出したら、キサマの心臓抉り取ってやるからな」
「わかったって! おっかない奴だなぁ・・・。ただでさえ美女に囲まれてんだから、一人くらいいいだろうに」
ジロリと睨まれる。
「わかった、わかったってば! ったく、独り占めかよ・・・」
スチュアートは残念そうにため息を吐く。
森を真直ぐに進む道を行く一行。
途中、古い亡骸を積み込んだスクーラッハ寺院の荷馬車とすれ違う。
感慨深そうに口を開くスチュアート。
「あれが全部、ゾンビだった死体か。哀れなもんだ」
「君は黙って歩くことが出来んのかね、スチュアート君」
アンデルスが呆れるように言い放つ。
スチュアートは肩をすくめて言った。
「剣の次に、口が得意でね。なんなら美女の一人くらいナンパしてきて差し上げますが、閣下?」
やれやれと首を振り、年齢より若く見える老人は鬱陶しげに彼を見る。
「黙って歩けと、私は言ったのだ」
「女に興味失ったら、男として終わってますよ魔法使い殿」
セージの拳がスチュアートの脳天に落ちる。
「いてえ!? なにすんだよ!」
「色ボケ小僧が。娼婦でも抱いていろ」
「ひでえな! 美女がいたら愛してやまないのが騎士ってもんだろう!?」
セージとアンデルスは、深々とため息を吐くと最早相手にするまいと彼の存在を意識の外に追いやる。
スチュアートはお構いなしに喋り続けるが、それを見兼ねたハンナがつと背後に歩み寄り、腰の長剣を抜き放ってスチュアートの首筋にあてがって言った。
「黙って歩きなさい。アナタみたいな尻軽男、私達の誰も見向きもしないわ。腰にぶら下がった大事なモノを切り落とされたくなかったら、二度と私達に視線を向けない事ね」
「・・・わかった、わかったよ・・・。まいったねこりゃ・・・」
「好かれると思っていたのが心外ね」
先行して歩く私兵が振り向いて左手に持つ盾を大きく掲げる。
「本邸が見えてきました!」
アンデルスがゆっくりと頷く。
「いよいよか。さて、不死者になってまで、ジョスファン・ヒアキンスという者は何を欲したのか」
ネジンが嬉々として一歩踏み出す。
「行けばわかります。ああ、早く研究したいものです。ジョスファン・ヒアキンスという人物の、常識を捨てさった過去を」




