死人の終わる時、その6
「馬鹿にしおって、馬鹿にしおって! 馬鹿に! しおって!!」
激昂したジョスファンが長剣を地面に幾度も叩きつける。
切先をレナに向け、黄金に見える目を更に妖しく輝かせて睨み据えた。
「下民の、小娘、風情が! 奇声を、上げる、だけの、剣で、私を、倒せると、思うな!」
「声に惑わされる程度で、粋がる所が小物臭いな。不死者」
叫ぶジョスファンに、黒い毛皮鎧の男、セージが横槍を入れる。
怒りに満ちた目でジョスファンがセージを睨むが、彼の方は楽しげに腕組みをして不適な笑みを浮かべているだけだ。
ウルブズファング隊長の男が、セージに近寄って耳打ちした。
「なぁ、ギルド長。こんなに多人数で来なくても良かったんじゃないのか?」
セージはジョスファンから目を逸らさずに、鼻を鳴らして器用に顔だけ傾けると彼に答えた。
「北で戦ったワイトは数千の兵を率いていた。今回の奴がどの程度かはわからんかったからな」
「ま、報酬が貰えるんなら何でもいいけどよ。所で、銀の武器は貰っていいんだよな」
「そう約束した」
セージの言葉に、満足げに頷いて離れる狼の牙隊長。
蚊ほども相手にされていないと感じたジョスファンは、怒りに任せて左手を高く上げて声を上げた。
「我が、下僕達よ、不遜な、下民、どもを、蹂躙せよ!」
ジョスファンの動きを見て、セージもまた右手を上げる。
「慌てる必要はない。各員、右舷よりゾンビ共を掃討しろ」
「あいよ」
「ご命令とあらば」
「楽勝だな」
と、狼の牙。
「賜りました!」
「討ち滅ぼす!」
「叩きのめします!!」
と、踊る妖精
男女の冒険者一行は、さして急ぐそぶりも見せずに蠢き出したゾンビの集団に向かって歩み寄っていく。
数の暴力で圧倒するかと思われたゾンビ達は、接敵すると同時に後退しつつ落ち着いた動きで的確な攻撃を繰り出す横一列に隊列を組んだ冒険者達の前に尽く葬られて行った。
冒険者達が対峙する集団とは反対側に蠢く集団は、冒険者達の側面に食らいつくなどと言う事はなく、背にした両刃の大斧を背中から引き出したセージの振るう無造作な攻撃で一度に三から五体が宙を舞い、あっという間にその数を減らして行く。
「なんともまぁ・・・」
「私達の小さなこと・・・」
呆れるキルトスとフラニー。
先ほどまでのピンチが嘘のように、驚異であったゾンビ軍団はみるみる壊滅していく。
その様子を見て、ジョスファンが怒りに震える左手の拳を横に勢いよく振った。
「下民がぁ! 目に物、見せて、くれる!」
長剣を構え、目標をセージに定めて腰を落とす。
「慌てんじゃねえって!!」
レナが地面に転がっていた石塊を右足で蹴り上げ、ジョスファンの顔面近くに飛ばすと、ジョスファンは苛立たしげにレナに振り返った。
それを確認するでもなく、銀の剣を正眼に剣道の構えを取るレナ。
「魔を討ち邪を討ち悪を討つ。天の輝き世を照らす。悪虐決して許しはしない。邪悪を今こそ消し飛ばさんと、」
レナの身体が滑るように前に出る。
呼応するように長剣を深く背後に振りかぶるジョスファンの身体から黄色く燃え上がるようなオーラが噴出し、その目が黄金色に眩く輝いた。
駆け出したレナの持つ銀の剣もまた眩く白い光が噴出してまるでレーザーソードとでも表現すべき武器へと印象を変え、同時にレナの瞳が黒目から輝く白へと変色する。
ジョスファンが迎撃態勢を取りながら、驚愕の表情でレナを見る。
(白き輝きの中に踊る戦士・・・、勇者とでも言うか!?)
「今、必殺の・・・!」
レナが大上段に銀の剣を振りかぶった。
ジョスファンが呼応するように長剣を横に薙ぐ。
「聖剣! いちっ、もんっ、じっ・・・・・・斬りーーーーー!!」
右足で地面を蹴り、長剣の届く半歩前で左足を踏み下ろすように踏ん張り、未だ遠い間合いで剣を真一文字に振り下ろした。
銀の剣から解き放たれた白い輝きは刃となり、弧を描いてジョスファンに襲いかかる。
ジョスファンが振るった長剣はしかし、光の刃の半分以上を粒と霧散させた。彼もまた、不死王を語るに足る魔力を持っていたのだ。
だが、それでも、レナの放った光の刃の全てを打ち消し切る事は出来ずに、ジョスファンが横に薙いだ剣より上の刃が瞬時に彼の顔面に到達する。
事前に振るった長剣の軌道上は光の刃の迎撃に成功したが、それを溢れて飛翔した一撃は回避など不可能な圧倒的速度でジョスファンの額をざっくりと斬り裂いていた。
「ば・・・かなぁ・・・!? 我が、魔力を、込めた・・・剣を・・・抜けただと・・・?」
ヨロヨロと後退るジョスファン。
レナが銀の剣を構え直した。
「白き、光を、湛えし、戦士・・・。そは・・・勇者・・・なり・・・・・・」
後退りながら周囲を見渡すジョスファンは、冒険者の一行を指揮する黒い毛皮鎧の大男を目に留めると、ふらりと前のめりによろめき、両手で握る長剣を地面に突き立てて震えた。
「伝説、など・・・、下らぬ・・・伝説・・・など・・・」長剣を後ろに振りかぶり、セージ目掛けて跳ねるように駆け出す「キサマのような、下民、が・・・! キサマは、キサマ、だけは!!」
「!! お父さん!?」
ジョスファンの動きを察するのが遅れ、レナが追いすがろうとするが既にセージとの距離は半分も過ぎている。
慌てるレナをよそに、セージは無表情で手にした両刃斧を上段に振りかぶる。
ジョスファンを迎撃せんと構えた大男の目もまた、白い輝きを湛え・・・。
(キサマも、なの、か・・・? キサマ、も・・・)
驚きに包まれながらも駆けるジョスファン。
しかし、彼の突撃はセージの斧にすら届く事はなかった。
左から狼の牙隊長の繰り出した銀の剣が脇腹を深くえぐり、右から駆け寄ってきた踊る妖精隊長、ハンナの振るった銀の剣がジョスファンの首を刎ねたのだ。
(あり・・・えぬ・・・。覚、醒・・・した・・・私が・・・)
銀の刃で魔力ごと魂を断ち切られたジョスファンの身体が、頭が地面に落ちて行く。
(永遠の・・・永遠を・・・約束・・・された・・・私が・・・・・・終わる・・・はずが・・・・・・)
どさり、と、音を立ててジョスファンの身体が地面に横たわった。
その身体から噴き出ていた黄色いオーラが、急速に光を失って行く。
負の魔力に支えられていた魂を銀で断たれたジョスファンの亡骸を見下ろして、狼の牙隊長と、ハンナが冷酷に言い放つ。
「馬鹿が、オレ達がギルド長に刃を振るうのを、」
「見過ごすはずが、ないでしょう」
「「そのまま、地獄に、墜ちろ。外道」」




