死人の終わる時、その2
「全員、装備を確認しろ! 銀の武器はある分だけだ、慎重に扱え!」
凛々しい女の声が、深夜の冒険者ギルドの正面口に木霊する。
セージの呼びかけに集まったのは、男女十数人からなる冒険者達。
指揮を取るのは、セージの側近を自称するボブカットの冒険者、カリマール村のハンナだ。
ハンナ率いる女冒険者グループ、踊る妖精六人、そして酒場で遅くまで飲んだくれていた元傭兵冒険者グループ、狼の牙六人。
調達出来た馬は四頭だったが、事情を聞いた商人は人員を二十人は運べる丈夫な馬車を用立ててくれた為、移動には支障は無さそうだ。
銀の武器は、セージが盗賊ギルド に拝借しに行こうとした所、アンデルスがワイト討伐に用意した銀の剣が二十本あった事と馬車で連れて行ける人数から不要と判断されて、幸いにも盗賊ギルドに借りを作る事は無く済んでいる。
都合十二人の冒険者達は、身に付けたそれぞれの鎧の具合を確かめると素剣サイズの何の装飾もされていない無骨な銀の剣を腰に下げて、踊る妖精達は緊張した面持ちで、狼の牙達は満足げに不敵な笑みを浮かべて、腰のちょうどいい位置を探るように剣の鞘を弄っていた。
セージ自身も貸し与えられた銀の剣をベルトの左腰に下げながら出発の準備を進める一行をギルドの玄関口から見下ろすように眺めていると、背後からアンデルスがやって来て右隣ぬ立って言った。
「ギルド長自ら出るつもりか」
セージは、老人を不機嫌そうに一瞥する。
「・・・悪いか」
「いいや。普通、ギルドを率いる長ともなれば、金だけ出して冒険者共に全て任せるものだがな。信用していないのか?」
「関係ないだろう」
「それとも、先に調査に向かわせたグループに、身内でもいたか」
アンデルスの言葉に、セージは答えずに身に付けた黒い毛皮鎧を位置を直すように両手で左右に引っ張る。
老人が一つ咳払いして言い直した。
「ジャーカー・エルキュラは、私の魔法学校時代の学友だった。優秀だったが、素行が悪くてな。ある時、奴を魔法の試験で負かした女学生を儀式と称してレイプした」
「その下りは何か関係あるのか?」
アンデルスは居心地悪そうに身動ぎすると、チラリと冒険者達の様子を見て続ける。
「彼は実力はあったからな。女学生の訴えはもみ消され、奴は無事に魔法学校を卒業したというわけだ。当然、宮廷魔法議会には入れず、宮廷魔法使いへの道は閉ざされたがな」
「ふん。昔から悪党だったわけだ」
「そうだな」セージの横顔を見上げる「ミノタウルスを飼っていたと言っていたが、本当か? アレは幼少から育てたとしても、人間に懐くことなどない狂暴な魔物だぞ」
「だから檻に閉じ込めていたんだろう」
「ジャーカーとて分かっていたはずだ。何故檻から出した」
「俺が目障りだったんだろう。俺を殺す為に持ち出して、逆襲にあったんだろうさ」
「そのミノタウルスはどうした」
セージは何も言わずに五段の木製階段を下りると、地面に降り立って意味もなく通りの左右を確認する。
アンデルスもまた、釣られるように階段を下りて再びセージを見上げる。
セージは面倒臭げにため息を吐いて言った。
「殺されかけたがな。娘が、よく分からんが闘技に目覚めて、白い光を帯びた剣で斬り殺した。俺もな、死の淵でミノタウルスを足留めするくらいの闘技は身に付いた」
ミノタウルスは英雄クラスの、レベル8を超える戦士が束になってかからねば倒せないほどの難敵だ。
レナの事を誤魔化して説明するのも難しかったので、正直に答える。
彼の困ったような目を確認すると、アンデルスはふむ、と一つ頷く。
「貴様は、北の黒騎兵か?」
「何故だ」
「毛皮鎧はこの国では一般的ではないし、鎧も具足も黒で統一するのは戦場で目立つ。よほどの手練れか、馬鹿かのどちらかだからな」
「そうか」
「王族に裏切られたと申していたな」
セージは逡巡して一歩前に出て老人に背を向ける。
「それで、コラキアくんだりまで流れて来たか」
「おい、馬を固定する馬具の調整はどうなってる! 出られるのか!?」
話を逸らすようにセージが怒鳴り声を上げる。
狼の牙の御者を務める戦士が右拳を振り上げて「滞りなく」と答えると、セージはアンデルスを振り向いて苛立たしげに睨みつけた。
アンデルスはそれ以上は聞くまいと首を振ると、腰袋から一本の羊皮紙を取り出してセージの胸に突き出す。
セージはそれを引ったくるように受け取ると、宮廷魔法議会の印が施された羊皮紙を開いて内容を確認して言った。
「金貨二百枚。破格だな、土地が買える」
「全てを冒険者共に分配する必要はあるまい。ギルドの運営にも資金は必要だろう」
「銀の剣も、寄贈してくれるんだろう?」
「国の戦力には、数えさせて貰うがな」
「ふん・・・」
両手を腰に当てて準備を終えた冒険者達が整列するのを眺めるセージ・ニコラーエフ。
アンデルス・ヴァシューズは、そんな彼の背に向かって言った。
「この依頼が達成された暁には、コラキア冒険者ギルドは私が後見人になろう。当然、国からの正式な依頼もこなして貰う事になる」
「アンタの友人の、ジャーカー・エルキュラと敵対していた男だぞ。俺は」
「ジャーカーは学友ではあったが、取り分けて仲が良かったわけでもない。悪党では、あったしな」
「憎くはないのか」
「貴様を? 何故? 私は国王に使える身だ。国の益になるのなら、何だって使う。惜しみなくな」
「俺は忠誠なんぞ誓わんぞ」
「忠誠など冒険者に必要か? 求めるとでも?」
「求めんのか」
「騎士の数は間に合っているからな。何より、金に忠実な方が御し易い」
「正論だな」
そう言うとセージは整列する冒険者達の前に一歩踏み出して檄を飛ばす。
「いいか、これから討伐に向かうのはゾンビの集団と、それを率いる邪悪なワイトだ。ワイトは銀の武器しか通じん。ワイトと戦う前に銀の剣を折るなよ。ゾンビは手持ちの武器で仕留めろ。ワイトは生命力を奪う。掴まれるな。盾は手放すんじゃない。覚えておけよ、この間戦った傭兵なんぞより、意志のない不死者の方がよっぽど恐ろしい。物量で押しつぶされたらお終いだ。止まるな、動け、殺す時は頭を叩き潰せ、一切の躊躇をするな!」
「「「「「了解、ギルド長!」」」」」
「ようし、出発するぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
すぐに踊る妖精のリーダーであるカリマール村のハンナが踵を返して大声を上げる。
「全員、乗車! 直ちに出発! 先行した冒険者共を救うぞ!」
狼の牙の男達は、張り切るハンナを揶揄うように、
「何を張り切ってんだ?」
「気張るねぇ、男の前で!」
「お前が仕切んのかよ」
と、軽口を叩きはするが、歯向かうような真似はせずに従っていた。
傭兵団との戦いで指揮をとって見せたハンナの事を、少なからず認めていたからだ。
それを態度に感じたからこそ、ハンナもまた彼等を責める真似はせずに笑顔で馬車に乗り込んでいく。
「頼りにしてるわよ、狼共!」
「お前らもな、妖精!」
かくして、上級不死者討伐に編成された、レベル3以上の冒険者部隊が夜のコラキアから北の廃墟目指して暗い夜道を進んで行った。




