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コラキア奪還戦、その7

 冒険者ギルド三階。

 投石を外壁に、鎧戸に浴びながら武装した女達はじっと息を潜めて待った。

 新米神官であり、セージを勇者と慕うアミナ・メイナが水を張った金属製の桶に白い羽を浮かべて両側に手を添え、水面を規則的に円を描いて回る様子をじっと眺めている。

 傭兵共の喧騒をよそに、短弓を片手にする者が十人窓の真下に座り込み、半凧盾ヒーターシールドを抱えるように二十人が窓の両側に座り込み、まるで静寂の中にいるかのようにただ時を待っている。

 レナはラーラと共に中央の部屋で魔法の本(メニュー)を開いて、その淡く輝くページに記された文字の羅列に目を通していた。


「ほとんどの敵がレベル2から3ね。レベル6と7がいるけど、多分指揮官」


「レナと互角?」


「どうかな。実戦経験がある分、敵の方が部があるかも」


「セージは?」


 レナがラーラの言葉にページをめくろうとすると、ラーラはふと取り憑かれたようにその身を揺らし、目を閉じて言った。


「来るわ・・・」


 レナが不思議そうにラーラと魔法の本(メニュー)を見比べると、マップ上に写る敵陣の後方に一つの緑色のドットが急速に近付いてくるのが見て取れる。

 そして、通路にて、水に浮く白い羽を眺めていたアミナが、羽が右手に向かって水の上を滑るように動くのを見てポツリと言った。


「時が満ちる」


 武装した女達がアミナに視線を集中させるのと、それは同時に起こった。


『敵襲ー!! 後方!! 弓兵、射かけろ!!』


『相手は一人だ、ありったけの矢をくれてやれ!!』


 弦を弾く音が数十飛び交い、鋼を打つ幾つもの激突音が響き渡る。


『歩兵、構え!! 槍!!』


『『『『『オウッ!!』』』』』


『うおお!!』


 激しくぶつかり合う刃と鋼の大合唱。

 湧き立つ怒号、悲鳴、人が幾つも倒れる騒音。


「窓を開けろ! 盾を構え! 弓は盾の隙間から狙って!」


 ハンナの号令に一斉に女冒険者達が、弓兵が窓を開き盾役が左右から窓を遮り、中央の隙間から弓兵が弓をつがえて地上を見下ろした。





 騎兵隊はセージが先行して十五分後には行動を開始した。

 水で喉を潤した馬達が元気に蹄で地を蹴り、主人達に戦を促し、戦闘可能と判断したガッシュが行軍の休息を切り上げて冒険者ギルドに向けて巡行速度で町中を行軍して行く。

 セージがいくら強くとも、魔物を打ち倒す力があったとしても、戦場でモノを言うのは優れた武器と物量だ。

 普段から使っていた両刃斧バトルアックスを使っていれば、百の兵でも相手にできただろうが、今持っているのは対集団戦に不向きな剣一本だ。あまりにも心許ない。

 まさか弓兵の前に無用心に躍り出て何も出来ずに敗北するとは思っていなかったが、万が一という事がある。

 ガッシュはセージを嫌いながらも、戦士としては認めており、内心は心配はしていたのだ。

 腹心のケレスが隣で前方を見据えながら呟く。


「心配ですか?」


「何がだ」


 短く答えるガッシュに、ケレスは苦笑して言った。


「似た者同士ですからね。サー・ガッシュと、サー・セージは」


「奴は騎士ではない」


「同じようなものです」


 軽快に駆ける馬の上で、ケレスは羨ましそうに言った。


「あの方も、守るものがあって戦っている。それが、御領主様か、家族の違いはありますが」


「御領主様に忠義を尽くせぬ者が、騎士など名乗れるはずもない」


「ですが、勇敢な方です」


「アレは脳筋なだけの猪突猛進な狂戦士バーサーカーだ」


「サーには、言われたくないと思いますよ?」


「なんだと?」


 不機嫌そうにガッシュがケレスを睨みつけた時、カレンが後方から声を上げた。


「サー・ガッシュ、前方の民家から赤い煙が上がっています」


「赤だと? 接敵の合図・・・。誰が上げている・・・」


「傭兵は狼煙の使用の権限はありませんし、そういった伝達手段は取りません。が、北の民はどうなのでしょう?」


 逡巡して、ガッシュは部下達をぐるりと見渡して言った。


「いずれにしても、戦端が開かれたと判断する。総員、構え、槍!」


 騎馬隊が隊伍を維持したまま斧槍を右手の小脇に構えて、やや地上を狙うようにして頭を真っ直ぐに見る。

 一呼吸おいて、ガッシュが吠えた。


「全隊駆け足! 続け!」


 騎兵隊は速度を上げ、大きな通りを疾走して行った。

 騎馬の疾走する音を聞いて、次々と窓の鎧戸が開かれて住民達が顔を覗かせて騎兵隊の背後に視線を送る。

 彼らの背にした半凧盾ヒーターシールドの紋章、エッソス家の紋章と王国の紋章に、ワッと喝采が上がった。






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