コラキア奪還戦、その1
セージを加えたノアキア男爵直属の、ガッシュ率いる騎兵隊50騎が街道を疾走する。
騎兵隊の武装は、統一されていた。
左手は手綱を握る為に開けられており、右手に全長2メートルの斧槍、左腰には長剣、鎖帷子を肌着の上に着込み、鋼の胸当て、鋼の草摺り、脛当て、装備の重装化に伴い軽量を図る必要から背当てを排しているが、白兵戦用に用いる木製の半凧盾を背負い、背面の防御に当てている。頭には口元の開いた形状の鉄兜。
統一されたその姿は、遠くからでも相手を威嚇する統率力の高さをうかがわせていた。
しかし、コラキアは辺境の亜人勢力との散発的な衝突に度々悩まされる事から堅牢な城壁に囲まれた砦にもなっていた事から、通常であればそう簡単に敵対勢力は入れない。
何故、今回はいとも簡単に敵対勢力を引き入れてしまったのか。何故、コラキア領を守る精鋭部隊である第1騎兵隊の出撃にまでなったのか。
答えは、単純かつ呆れるものである。
「人間だからだ」
ガッシュは、淡白にそう言ってのけた。
思う所も無いのか、セージは小さくため息を吐いただけだ。
じっと彼の横顔を見て、ガッシュが呟く。
「随分と落ち着いているな。北の野人」
言われて小首を傾げ、鼻で笑うセージ。
「驚いて欲しかったのか?」
「少しはな」
肩をすくめて苦笑するガッシュは、少し寂しそうだ。
セージは気の毒そうに遠く街道の先を眺めて言った。
「あの臆病者共が、敵味方の判断を正常にできると思うか?」
「そう思うか」
「思っているなら、どうにかすべきだったんじゃ無いのか」
呆れ顔でセージが横目にガッシュを見る。
ガッシュは大きくため息を吐いて言った。
「俺達が巡視に行く時だけは、真っ当な動きをするんだがな」
「そりゃ、そうだろう。お前やメレイナが行けば心強いだろうよ」
セージが騎乗する馬が、足元に不快感があったのか走りながら身震いする。
手綱を器用に操って落ち着かせると、疾走しながらセージが言う。
「何かあっても、サー・ガッシュが、サー・メレイナが対応してくれる。自分達は命令のまま動けばいいってな」
「一応、兵士長はいるんだがな」
「あのガタイだけはいい男か」
「大した奴だと思っていたんだが」
一瞬顔をしかめてすぐに表情を直し、背後に視線を向けて遅れている者が居ないか確認する。
等間隔で二列縦隊を乱さずについてくる騎兵隊に満足げに頷いてガッシュは前に向き直った。
コラキアの北口城門が見えてくる。
セージが舌打ちをして言った。
「おい、城門が降りてるぞ」
ガッシュが左手を上げる。
騎兵隊がゆっくりと速度を落として行き、街道に停止した。
「カレン! カレン・ターリス!」
ガッシュが呼ぶと、隊列の中程から女騎兵が進み出てガッシュの横に並んだ。
「お呼びでしょうか?」
「貴様は鷹並に目が優れている。城門はどうなっている」
カレンは鉄兜を左手で脱ぐと、じっと目を凝らしてコラキア北門を見る。
うーん、と唸って鉄兜をかぶり直すと、低い声で呆れるように言った。
「門の落し扉は閉じられています。敵の増援を警戒しているのでしょうか」
「馬鹿どもが・・・。ゲーリー一家の兵力はおよそ五百だ。一度突破されれば全軍がなだれ込んでいる事だろう。守備隊が恐れているのは、我々騎兵隊の介入で町が混乱する事だろうさ」
「十倍の兵力に戦を仕掛けるわけか。頼もしいな」
気楽そうに、しかし非難するようにセージが言うと、ガッシュはジロリと睨んで答えた。
「北門からは冒険者ギルドが近い。まずは冒険者ギルドを包囲しているだろう敵戦力を削り、兵を徴収する」
「上手い手とは言えんな」
「戦時ではないのだ。これ以上の兵は揃えられん。貴様の武力をあてにすると言っただろう」
「都合のいい事だな」
「恐怖は兵士十人に行き渡れば、百の兵に勝る」
「希望的観測すぎやしないか?」
呆れ返るセージに、カレンが進み出て鉄兜を脱いで見つめて言った。
「ホブゴブリン二百体がエッソス城に攻撃を仕掛けて来た際、貴方は単騎で側面に襲いかかり瞬く間に十体のホブゴブリンを討ち取りました。亜人勢はその勢いに総崩れとなり、我らの突撃で壊滅させる事が出来ました。貴方ならば、と言う思いはあります」
「状況が違いすぎる。戦力差があり過ぎるし、傭兵は愚かな奴が多い。単純な攻め方で恐怖は与えられんな。そもそも、人間はそう単純じゃない」馬を数歩進めてコラキア北門を睨みつける「だが、まずは、門を開けさせねばな」
「頭の痛い事だ」
ガッシュもまた進み出ると、左手を上げて言った。
「騎兵隊、前進する!」




