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小さな旅支度

 深夜。

 子供達も女達も寝静まった事を確認して、セージはロッジの外に出ると庭に降り立って床下を覗き込む。

 ロッジが高床式と言っても、床下の高さは1・5メートルほどで、2メートルほどの身長のセージが入るにはかなり背を丸める必要があった。

 大きく屈み込み、背中を丸めるセージ・ニコラーエフ。

 リビングのトラップドアを開けると床が大きな音を立てかねない為、外側から屈んで床下を進まなくてはならない。

 セージは柱にぶつかったり天井(床下)に頭をぶつけて音立てないよう慎重に床下を進むと、ひっそりと地面から生える地下室への扉の簡易錠を支柱から外してそっと扉を引き開ける。

 扉の内側に掛けられたランタンの油コックを開けてガラスのカバーを持ち上げ、ランタンの隣に釘で吊るしてあった回転式火打石の引き金を引いて火花を起こすとランタンの芯に火が灯った。

 回転式火打石を扉の釘に吊るして階段を慎重に降りて行くセージ・ニコラーエフは地下食料庫に降りると、ランタンを手前の壁に三つ並べられたワイン樽の内、真ん中のワイン樽の天端に起いて奥の壁に笊と積まれた拳芋の山を退ける。

 笊の下から小さな宝箱が姿を現わした。

 セージはズボンのポケットから小さな真鍮の鍵を取り出して宝箱の鍵を開ける。

 蓋を開けると中に入っていたのは、銀貨が五枚に銅貨が二百枚。狩で大型の獣を仕留めた時に、肉の燻製を作ったり、アクセサリーに加工出来る獣の骨を町に売りに行って稼いだ五年分の貯えだ。

 砂糖や消耗品を買いに出るくらいしか使い道が無かった金だが、明日はかなりの出費になりそうなので全額持っていく。

 折角行くのだから、ラーラと子供達の衣と帯を作りたいという思いもあったからだ。

 ズボンのベルトに吊るした巾着袋に全財産(コイン)を入れて、空になった宝箱を閉め、所定の位置に戻すと拳芋の笊を山と戻して、野生の果物を入れたコンテナから一つ小ぶりなリンゴを掴んで齧り付く。

 リンゴを咀嚼しながら巾着袋の紐をズボンのベルトの右に結び付け、ランタンを左手に持って階段を上って行く。

 階段を上りながら右手のリンゴをもう一度齧り、上りきってからランタンの火を消して元のフックに吊るして地下室の扉を閉めた。

 軽くため息を吐いて慎重に床下から外を目指すセージ。

 バルコニーの下から庭に出ると、腰を伸ばして天高く輝く夜空の月を見上げ、ラーラにはどんな色の布が似合うだろうかと想像した。

 我ながら似合わない想像をすると、困り顔で首を振り、セージはバルコニーの階段を上ってロッジに戻って行った。





「やー」

「むずむずするー」

「じゃまー」


 子供達が首に付けられた中型犬用の首輪を煩わしそうに翼の関節で持ち上げようとする。

 ラーラは大型犬用の首輪を自分で付けながら子供達を叱った。


「ダメよ、町は人が多いんだから。迷子になったらどうするの?」


 子供達の前で跪きながらセージは子供達に首輪を付けておいて、細いロープのリードをため息混じりに弄りながら哀しげな目でラーラを見上げて言った。


「なぁ、やっぱりレナかフラニーに残ってもらって子供達を留守番させとく事は出来ないのか?」


「折角町に行くんだもの、子供達にも見せておきたいじゃない」


「なぁ、ラーラ。町は魔物には危険な場所なんだ。悪いやつだっている。何が起こるかわからないんだぞ」


「ねぇ、セージ」


 ラーラはセージの傍らに屈み込むと、左から大きな翼で抱きしめて言った。


「いつまでも貴方がこんな山小屋で過ごすわけにはいかないでしょう?」


「これまでそうして来たんだ。何の不都合がある」


「知らず知らず、またゴブリンが近くに住みつかないとも限らないわ」


「人間の密集する場所の方が、お前達には危険なんだぞ」


「アニアス達だっているじゃない」


「盗賊ギルドだって一枚岩じゃない。絶対の安全なんて確保出来ない。知恵がある分、山の猛獣より怖いんだぞ?」


「貴方が守って頂戴」


 そう言ってセージの頰に口付けするラーラ。

 セージは不安が拭えないまま首を振って見せた。

 ラーラがセージを落ち着かせるように微笑む。


「試しに行ってみるだけよ。人間の多くが私達に危険なら、素直に諦めるわ」


「初めから諦めてもらいたいんだが・・・」


「試しもしないで諦めるのはダメよ」


「不安で一杯だ」


「大丈夫よ。レナとフラニーも一緒に行くんだから。アミナの冒険者登録だって必要なのだし。ね?」


「あー、クソ・・・。悪い事にならなきゃいいが」


「大丈夫、きっと大丈夫」


 ラーラは嬉しそうにセージを抱きしめると、リードを受け取って子供達の首輪に繋いでいった。




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