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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第1章 転生隠者と転移勇者
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珍客エルフと残念隠者

 セージは、両刃斧バトルアックスを取り戻した足で大通りを正門目指して颯爽と歩いて行く。

 大きな斧を担ぐ姿に、町民がより恐れて広く道を開くのには、ある意味爽快感さえあった。

 そんな皆に恐れられる中、一人の身分の低そうな老婦人が行く手を遮るようにやって来て、林檎の山と入ったカゴを高々と掲げて来る。


「イスパ、エ・ルニカ、シャワ。イリイリ、シャンセ、アパオ。イナ?」


 全く聞いたことの無い言語に首を傾げるセージ。


「おい、婆さん。何を言ってるのか分からん。どいてくれ」


「イーッサ、イリイリ、アパオ」


「だから、分からん。すまんがどいてくれ」


 避けようと右に左に歩を向けるが、必死に道を遮って懸命に林檎を差し出して来た。


「アパオ! イナ。イリイリ」


「ええい、クソ。なんなんだこの婆さん・・・。いいか、要らない。金もない。買わない。分かったか? 買わない」


 酷く狼狽して老婦人を避けようとするが、彼女の方は意にも介さずに笑顔で林檎をしつこく差し出す。


「イリイリ、アパオ! イナ?」


「ええい、クソ、全く。何なんだ」


 年寄りを無下にする事も出来ず、右往左往していると、細剣レイピアを腰に携えた耳の長い長身の少女が脇からやって来て老婦人の手を取って言った。


「ハバァ、オデオ サ ゲティナ。ナ イナ」


「アパオ。ナ イナ?」


「シ。ゲティナ」


「アイー。ナ クナーカ・・・」


 老婦人は少女の言葉に残念そうに被りを振って立ち去って行く。

 耳の長い少女は、長身とはいえセージより頭ひとつ背が低く、彼を見上げて言った。


「すまなかったわね。同族が失礼をしたようで」


「別に構わん。助かった。あの婆さんは、何を言っていたんだ」


「美味しいジューシーな林檎を買っておくれって」


「なるほど。言葉が通じないというのは不便だな」


「その大男は、金なんて持ってないって言ってやったわ」


「正しい返答だな」


「皮肉なのだけど?」


「何か問題が?」


「別に・・・」


 セージはひとつため息を吐くと、少女を避けるように歩き出した。


「礼は言わん」


「あら、存外無礼なのね」


 と言ってセージの後を付いてくる。


「何か用事があるのか。俺に」


「別に。何処に泊まるのかと思って」


「何処にも泊まらん。家に帰るだけだ」


「そう。ちょうど良かったわ。宿を探してるのだけど」


 ピタリっと、セージが立ち止まって少女を見る。

 臆する事もなく彼を見上げてくる辺り、セージの事を知らないように見える。旅の者だろうか。

 彼は両刃斧を担ぎ直して言った。


「山の独り暮らしだ。周りには何もないぞ。そんな寂しい所の男の家に来たいって言うなら構わんが、俺みたいな荒くれ者の家に来たいって? 男に襲われる趣味でもあるのか」


 セージの言葉を反芻するように、少女はしばしセージの顔を見つめ、コホンっと咳払いして言った。


「え、冒険者じゃないの?」


「冒険者ギルドなら、向こうだ。格安の宿を探してるなら、そっちに行け」


 言われるまま冒険者ギルドのある方角を眺める耳長の少女。

 セージは用は済んだと言わんばかりに帰路に着く。

 道々、人が穢れたものを避けるように左右に逃げて行くのを若干楽しげにしながら歩くが、正門に近くなった所でため息を吐いて背後を振り返った。

 耳長の少女が3メートルほど間隔を空けて付いて来ている。


「何の用だ」


「宿、紹介してよ」


「冒険者ギルドに行け。俺は知らん」


「行ったわよ! 行ったけど、あんなゴロツキどものいる宿に泊まったら犯して下さいって言ってるようなものじゃない!」


「知らん。俺は冒険者とは一切関係ないし、関わろうとも思わん。町で暮らしてるわけでもない。宿など知らん」


「じゃあ、貴方の家に泊めてよ」


「そういえば最近、女を抱いていなかったな。欲求が溜まっている」


 そう言って値踏みするように耳長の少女を見ると、少女は恥じらうように顔を背けて頰を赤らめた。


「ゴロツキどもよりは、マシ。かも」


 少女の反応に固まるセージ。

 ため息を吐いて、手頃な建物の窓に近づいて行くと、その周辺の人々が蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行く。

 セージは気にも留めずに窓硝子に映る自分の姿を見て、少女を振り返って言った。


「お前の目には俺はどう映っているんだ?」


「は!? その・・・。き、傷だらけのくたびれた醜いオッサンよ・・・」


「そうか、まともな感覚だな。ならお前は、そんな荒くれ者に犯されるのが趣味な変態か?」


「失礼な事言わないで! アイツらよりはマシって事よ!」


「そうか。まぁ、宿探し頑張れよ。じゃあな」


「ちょちょちょ、ちょっと! どうしてそういう答えになるのよ!? こんな美少女が頼んでるのよ!?」


「子供は趣味じゃない。他を当たれ」


 さっさと立ち去ろうとするセージの右腕にしがみついて、引き摺られながら引き止めようとする耳長の少女。


「ちょと、ちょっと待って! 林檎ババアから助けてやったでしょ!?」


「常識がないのか貴様は。男一人の山小屋に女一人でついてくるなんざ、正気の沙汰じゃないぞ」


「そんな人なら、ひょっとしたら安全でしょ!?」


「その判断基準がわからん。迷惑だ。他を当たれ」


「ちょっと、こんなか弱いエルフの美少女を放っておくっていうの!?」


 立ち止まって少女を見下ろすセージ。

 左手で少女の腕を引き剥がして鬱陶しそうに突き放す。


「俺の女になるなら付いて来い。そうじゃないなら他を当たれ」


 悔しそうにほぞを噛む少女を見て、セージは満足げに歩き出した。

 正門を守る番兵達が再び門の周りに駆け出すや、遠巻きにセージを見ながらいつでも抜刀出来るように腰の剣に手をかける。

 セージはため息を吐いてぐるりと見渡して言った。


「飽きない奴らだな。そんなに俺が怖いか」


 ジリジリと後退りながらセージの動向を探る。

 セージは鼻で笑って右肩に担ぐ大斧を持ち直した。

 そのわずかな動作に慄いて更に後退る兵士達。

 ふんっと、鼻を鳴らしてセージは正門をくぐり、町を後にした。

 物寂しい街道を進み、北西の山を目指して歩いて行く。

 彼の住む山小屋は、素人では辿り着けない獣道の向こうにある。

 辿り着くまで一時間は歩かなくてはならなかった。

 そうこうして、山に差しかかろうという所で再び後ろを振り返る。

 相変わらず付いてきている耳長の少女を見て、深くため息を吐いた。


「お前は何を考えている・・・」


「だってしょうがないじゃない・・・人間の町って怖いんだもの」


「それでよく旅してきたな。しかもそんな軽装で」


「も、もう、日が暮れるわ。さ、さっさと、案内、しなさいよ・・・」


「ビビりながらいう言葉か?」


 道を進み始めるセージ。

 後を付いてくる耳長の少女。

 獣道に差し掛かった所で、再びセージは背後を振り向いて言った。


「本気で付いて来る気かエルフ。本当に犯すぞ」


「い、いいわよ。アンタなら」


「どういう感覚してるんだ・・・。信じられん・・・」


「い、いいから、案内しなさいよ」


「クソ・・・。一晩だけだからな! 日が昇ったら町に戻って宿を探せ! 俺は関わるつもりはないからな」


 セージの言葉に、安堵の表情を浮かべつつ頰を朱に染める耳長の少女は言った。


「わ、わかったわよ・・・。ありがと・・・」


 深くため息を吐くセージ。

 自分の容姿を見るに、恐れられはしても女が寄って来るようには見えない傷だらけの顔からして、この少女がまともな感覚ではないと感じる。

 かと言って、陽も暮れる刻限に外に放っておくわけにも行かず、セージは諦めて獣道を進んで行った。






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