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違う違うそうじゃないでしょ

 セージはラーラを伴って馬小屋に入ると扉を閉めて奥側の柵の中に入り、ラーラを藁の上に座らせて自分は壁に背を預けて立った。

 ラーラは乙女座りで膝の上で翼を畳み、不機嫌そうにセージを見上げている。


「それで、あのは? 預かったってどう言う事なの?」


「なんというか、修道士の制度の関係もあるんだが」


「それと女の子を預かるのと何の関係があるの?」


 セージは一つため息を吐くと、腹の前で腕を組んで身をよじらせた。


「ジャーカー達の遺体を炎で焼いた後にな。ジャーカーは腐っても魔法使いだった。不死者アンデッドになりかねない魔力は有していた。だから、未然に防ぐために葬儀おくりをする必要があったんだ。とは言え、葬儀おくりだってタダじゃない。あの娘が神官に上がれるよう修行の一環で預かる事になったんだ」


「言い訳がましいのね」


「それは否定しないが、そんなに怒らなくたっていいだろう」


 セージが困り果てていると、ラーラはじっと見つめて言う。


「あのは、冒険者なの?」


「そんな所だ。レナとフラニーが仕事をこなすサポートをさせる事になっている」


「本当に・・・」


 ラーラはセージに正面に向き直ると翼を広げてねだるように見つめて言った。


「来て」


「おいふざけるなよ・・・。真昼間だぞ」


 思いっきり照れてそっぽを向くセージ。

 ラーラはそれでもと衣を押さえる帯を緩めると、もう一度翼を広げて自らの肉体を強調するように言った。


「あの娘が何でもないなら来て」


 目を向けずに小首を振って当惑するセージ。


「ちょっと待て本当に。こんな真昼間に他の奴らに見られたらどうするんだ」


「セージ・・・」


 哀願するように見つめ続けるラーラ。

 しばらく抵抗するように外を見つめていたセージだが、


「クソ、本当に・・・」


 と呟いて、ラーラの前に両膝をついて抱き寄せると唇を重ねた。





 レナはセージが実は女に弱い事に勘付いている。

 今回、アミナを連れてくる事になった要因を突き詰めれば、レナのせいである事は多分にあるのだが、あの強面の男が「妻」と呼ぶラーラにどんなに叱られているのかと遊び心でこっそり馬小屋の窓辺の下から様子を伺っていたのだが、唐突に始まった二人の秘め事に赤面して体育座りで固まっていた。


(この展開は予想だにしなかったわ・・・)


 あの鬼神の如くミノタウルスと戦ったセージである。

 逆ギレしてラーラを泣かすパターンもあるのではと、別の意味で妄想を膨らませていたのだが。


(つーか、喧嘩の最中に始める!? フツー!!)


 涙目でそれでも身動きの取れない自分が情け無い。


『あ・・・ん・・・』


 ラーラの声だ。

 一体どうなっているんだろう。

 恐る恐る立ち上がり、窓からこっそり中を覗くと、


(ぎゃーーーーー何してんのあの二人ーーーーー!?)


 目に入ってきた光景に、全力で逃げだした。





 フラニーは、アミナの左足首に湿布薬を調合して貼り付けていた。

 手当をしてもらって恐縮するアミナが、申し訳無さそうにお辞儀をする。


「お手数をお掛けして、申し訳ございません」


「いいわよ、別に。それにしても、貴女とセージの関係って何なの?」


「何と申しましょうか・・・」モジモジと膝の上で手を揉んで「あのお方は、私の勇者様で・・・命の恩人でして・・・神官として、お仕えするのが、私の定めであると占いにも出ましたので・・・」


(うわぁ・・・このあの時ガランジャに襲われてた娘かぁ・・・)


 何事かに気付いたフラニーだったが、素知らぬ風でアミナの様子を伺う。

 アミナの方は、特段フラニーの様子に気付くことなく上目遣いで見つめて言った。


「それであの、私が来たのはご迷惑だったのでしょうか?」


「うう・・・ご迷惑だったかって言われると複雑な気分だけど・・・」


「時に不躾な質問なのですが、お二方とセージ様は、どう言ったご関係なのでしょう?」


 どう言ったご関係かと問われると、ラーラはまあ懇ろの関係だからそう言った関係なのだが、フラニーはと言うとただの居候になってしまう。

 だからと言ってそう言ってしまうと、なんだかこの娘に勝てなくなるような気がしたので、


「懇ろの関係よ!」


 と、嘯いてしまった。

 アミナはそんなフラニーの目をじっと見つめて、納得したように大きく頷く。


「そうなのですね! では、フラニー様は、私の()()()()になられる方なのですね!」


「は!? え!? 私の話聞いてた!?」


「はい? 何か違うのでしょうか。私もセージ様に抱かれる関係を望んでおりますので・・・」


「いやっ、違うでしょ!? 普通はふざけんなよってならない!?」


「何故でしょう・・・。同じ方を愛するのであれば、愛は等しく存在するものと思いますが・・・」


 どうもこの娘は常識が普通とズレているようだ。

 嫉妬されるかと思いきや、まさかの同意された上に先輩扱いとは。


「いやあの、ちょっと伺うけれど、人間の修道士って恋愛観ってどうなってるの?」


「はい。わりと普通だと思います」


(ふつーじゃねーよ!!)


「そもそも、同じ方を愛しただけで、どちらか一方を諦めねばならないものなのでしょうか?」


「それが普通でしょう」


「それだと一方の方が不幸になってしまいます」


「そうやって倫理観ってものが存在するんじゃないかしら」


「不幸になるよりは、幸せになった方が良いのではないでしょうか?」


「そんな事したらベッドで喧嘩になるのではなくて? 男は一人なのよ?」


「でしたら皆んなで一緒になればよろしいのでは?」


「酒池肉林か!!」


「何かいけないのでしょうか・・・?」


「あのね・・・ええとね・・・」返答に困り顳顬を右手の人差し指で押さえる「とりあえず常識から学びましょうか・・・」


「ですけど、水は空気と一緒で等しく存在します。海も風も、大地を取り合って喧嘩など致しません。半分ずつ仲良く共有しているのです」


「その表現がなんだか恐ろしいわ。上と下に分けてるみたいで・・・」


「ですけど、父なる大地を割ってなどおりません。お互いに触れ合える場所で愛しているのです」


「なんだろう・・・貴女の考えている事が末恐ろしいわ・・・」


「母なる水も、母なる空気も、父なる大地を等しく愛して抱いているのです」


「もういい・・・もういいから・・・とりあえず常識から学びましょう?」


「そもそも、常識の定義とはなんなのでしょう・・・?」


「うわーん、なんかわかんないけど誰か助けてーーーーー!!」


 アミナのあまりにも常軌を逸した言動に、とうとうフラニーが逃げ出した。

 脱兎のごとく部屋を後にしたフラニーに、アミナは不思議そうに小首を傾げていた。






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