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隠者はギルド長に転職する?

 ジャーカー・エルキュラが死に、ミノタウルスが討伐されて翌日。

 アニアスによる盗賊ギルドの手引きでコラキアから多数の冒険者が山小屋を訪れる事になっていた。

 壊されたロッジの修繕と、その他事後処理の為だ。

 詳細はアニアス派の構成員が執り行う事になっていた為、セージはロッジのバルコニーの階段で手摺に寄りかかり、畑で採れた豆を煎った物を巾着袋で持ち一粒ずつ口に放り込んではつまらなそうに咀嚼していた。

 日もだいぶん上がってきた午前十時頃。

 数十人の冒険者の男女が山小屋に訪れ、庭の中央に山と積まれた暴徒化した冒険者達の亡骸を見て呻き声を上げる。


『マジかよ・・・』

『何人死んでるの?』

『何と戦ったんだ一体』

『ゴブリン?』

『大体、何でここに山積みになってんだよ・・・』


 様々な声の中、作業指揮に当たるアニアス派の構成員、ベルナンがバルコニーの階段下で声を張り上げた。


「ここに死んでいる者達は、裏切りの罪により断罪された者達である。我らの要請を受け、」


 要請なんぞ受けとらんがな、と呟くセージ。


「ゴブリンの討伐に当たっていたセージ・ニコラーエフの留守を襲い、この山小屋を攻撃した愚か者達だ! この裏切り者共を入れる墓地はコラキアには無い。よって、麓の平原にて焼き捨て、灰は風と撒く!」


 冒険者の一人の男が抗議の声を上げた。


「風と撒くって、平原に放置かよ! 何で埋葬してやらねぇんだ!」


「俺の妻やエルフのフランチェスカ、それにレナ・アリーントーンをレイプしようと集団で襲撃してきたような暴漢共を、どうして金をかけて埋葬せねばならん。ふざけた事を抜かすな」


 セージが男に向かって睨みを利かせる。

 男は、死体の山に近付くと、ハリヤの亡骸を見つけて指差して言った。


「俺達の仲間だ! ハリヤ・ケンビットだ! ハリヤを殺しておいて、何を抜かしやがる!?」


 男の冒険者の半分が同調して頷き、半分が動揺して周囲を伺っていた。

 女の冒険者達は、どちらかと言うと侮蔑する視線を男達に向けている。

 反論する男が更に叫んだ。


「愚かな隠者が! ギルド(マスター)のジャーカーが来れば、討たれるのはお前の方だぞ! 分かったらまずは謝罪しろ!」


「誰にだ!!」


 セージが声を荒らげた。

 ベルナンは何も言わずに成り行きを見守る。

 セージの荒れように気付いて、ロッジからフラニーとレナが姿を現した。

 ラーラは子供達をその翼で包んでいるのか姿を見せない。

 フラニーとレナがバルコニーの手摺を掴んで見守る中、セージは階段を駆け下りると階段脇に置かれた頭陀袋を右手で引っ掴んで男の前に苛立たしげに歩み寄って行く。

 鬼気迫る迫力に冒険者達は一斉にたじろいだ。


「ジャーカーだと? あ? ジャーカー・エルキュラがどうしたって? ええ?」


 頭陀袋をひっくり返すと、中から半分潰れた灰色の肉袋が地面にブチ撒かれる。

 それが何なのか、理解出来ずに黙る男の、襟首を右手で掴んで地面に引きずり倒すと、異臭のする肉塊に顔を近づかせて言った。


「そら、挨拶しろ。ほら、貴様の愛しいギルド長殿だぞ。ほら! どうだ! ああ!? なんとか言ったらどうなんだ!?」


 男は、その肉塊が、灰色の肉袋がジャーカーの残骸だと悟り、急に青ざめて震え出す。


「そんな、ありえない、何かの間違いだ・・・」


 レナがつまらなそうにバルコニーから声をかけてきた。


「お父さん、あの角出す?」


「誰がお前の父親だ」


「いいじゃん、名前で呼ぶのなんかアレだし。オジさんがいい?」


 ムッとしてしばし黙るセージ・ニコラーエフ。

 レナは楽しげに言った。


「ね、お父さん。出した方が良くない?」


 セージはため息を吐いて男を解放して言った。


「好きにしろ」


「はーいはーい!!」腰の後ろに手を伸ばし、腰ベルトから一対の歪な角を取り出して庭に放り投げる「くっさい悪役臭のするじーさんはペットの牛さんに殺されましたー!」


 100人は集まっていた冒険者達が騒めく。


「でー! ペットの牛さんは私達をレイプしようとしてきたのでー! お父さんと私で粉微塵に吹き飛ばしてやりましたー!!」


 女の冒険者の一人が、投げ捨てられた角を拾ってジッと観察する。

 レナが手摺から前のめりになって言った。


「なんか文句ある人?」


 角を拾った女の冒険者は、両手で大切そうに抱えて立ち上がると、セージを見つめる。


「貴方が・・・?」


「殺した。レナと一緒にな」


「貴方が・・・」


 女冒険者は、角を乱暴に地面に投げ捨てると、力一杯踏みつけて罵った。


「ざまあみろ! ざまあみろ、エロ牛が!」べっと唾を吐く「いい気味だ、クタバレコンチクショウ!!」


 そして、バルコニーの階段手摺に寄りかかるセージの元に行くと頭を垂れて数秒跪き、立ち上がりざまに見上げて言う。


「もし、よろしければ、その豆を一粒頂けませんか?」


 あまりに憎しみの篭った彼女の行為に、流石に引いたセージは、それが何を意味するのか良く分からないまま頷いて言った。


「・・・ああ、構わんが・・・」


 巾着袋から煎り豆を一粒取り出して、女冒険者の広げた両手にポトリと落とす。


「わっ! ばかっ!」


 フラニーが叫んだ時には、女冒険者はそれをパクリと口に放り込んで咀嚼して言った。


「ありがとうございます。(マスター)


 他の女冒険者も、それにならってミノタウルスの角を踏みつけて罵倒し、セージから煎り豆を一粒貰う。

 さながら何かの儀式のようだ。

 一通り女冒険者に豆が行き渡ると、フラニーがため息混じりにバルコニーを降りてきて同様に豆をねだる。


「私も頂戴」


「うん? ああ・・・」


 セージが豆を取り出す間に跪いて見せる。

 そして豆を口に放り込んでレナにも言った。


「貴女も同じように」


「え、はい?」


()()()()()()()()()って言う儀式よ。冒険者流の忠誠を誓う」


「ええ???」


 階段を登って、レナに耳打ちした。


『異性に対しては、身も心も全てを捧げるって言う・・・』


「お父さん私も頂戴!!」


 駆け下りるレナに、セージがドン引きして言った。


「いや、お前はいいだろう?」


「ダメ!! 頂戴!!」


「お・・・うむ・・・?」


 そして跪いて豆を貰い、パクリ。

 フラニーはゆっくりと階段を降りると、セージの肩をポンと叩いた。


「知らないって、罪よね」


「何の話だ、一体?」


「ほんと。何でこんな厳つい傷だらけの顔が・・・」


「何なんだ一体!?」


「何でもありませんわ、(マスター)


 と言って仰々しく跪いて見せるフラニー。

 一斉に他の女冒険者達が続いて跪いた。


(え!? 何だ? これ!?)


 次の瞬間、彼は石像のように固まる事になる。


「「「「「何なりとお命じ下さい、ギルド(マスター)」」」」」


 女冒険者達から、一方的にギルド長認定されてしまった。

 軽薄な事をしたつもりでは無かったが、後日アニアスから知らされる事になる。

 冒険者は、主人と決めた者から所持する物、特に身に付ける物を頂いた時は、忠誠を誓う時だと。

 そして、それが異性からの授かり物で身体の一部になる物であれば、それはエンゲージリングにも等しいと。

 都合、四十人からの愛人が出来た事になる。

 この後、流石にラーラに叱られたのは言うまでもない。

 冒険者達はこの後、女冒険者達が中心となり、男冒険者達をこき使って暴漢達の死体を山小屋から運び出させた。






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