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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第1章 転生隠者と転移勇者
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勇者を目指して

 光の粒子に爆ぜて消えたミノタウルスの跡に残った一対の角を見下ろして、セージは血塗れの顔でアニアスを振り返った。

 上半身の革鎧を失って、美しい肢体を両腕で隠すアニアスは、何かを求めるようにセージの瞳を真っ直ぐに見つめる。

 何かを言いかけて、セージはしかし顔を背けるとレナの方を見た。

 ミノタウルスを倒したレナ・アリーントーンは、右膝を立てて素剣を大地に振り抜いた姿勢のまま、荒く息をしてそのままの姿勢でいた。

 セージが大きな手で彼女の頭を優しく撫でる。


「よくやった」


 その台詞を聞いて、ようやく深呼吸して構えを解いたレナが、肩で息をしながら立ち上がる。


「私、やったの? 私、出来た?」


 セージは目を見開いて驚いているレナの頭を、ポンと叩いて言った。


「大したものだよ。あのミノタウルスを、粉微塵に吹き飛ばしちまったんだからな」


「え、えへへ・・・」


「だが、聖剣一文字斬りか」


 ビクッとレナの肩が跳ね上がる。

 少し楽しげに、セージが言った。


「まるで某勇者シリーズのパクリみたいな中二病くさい技だったな」


「ちょっと! お父さんそれ言いすぎ!!」


「俺はお前の父親になった覚えはないぞ」


「う、うるさいな! ていうか中二病いうなー!!」


 怒って左手でポカポカと殴ってくるレナをそのままに、セージはラーラとフラニーの元へと歩いて行った。

 目を見開いたまま金縛にあったかのように微動だにしない彼女達に、セージは頭を垂れた。


「遅れてすまん。辛い思いをさせた」


「セージ・・・」


 ラーラは言葉を詰まらせて大きな翼でセージを包み込み、自らの身体を触れさせて彼の胸に顔を埋める。

 フラニーは行き場所を取られて引きつった顔でセージを睨みつけて言った。


「もうちょっとで危ないところだったんだからね! ていうか、黙ってゴブリン退治とか本当に最悪の最悪よ! アンタがいなかったせいでどんだけ大変だったか分かる!? このベルナンさんが駆けつけてくれなかったら本当に色々と失うところだったのよ!?」


「それについては謝罪しよう」


 アニアスが、部下から受け取った黒マントで肢体を隠しながらやって来て言った。


「君達の事は、盗賊ギルドの精鋭が守っていたはずなのだが。少々手違いがあったようだ」


 アニアスがベルナンを見ると、ベルナンはアニアスに跪いて頭を垂れる。


「命じられた通り、監視は行なっておりました。我がレディ」


「・・・そうか。だが、何故、このエルフ娘はシャツの背中が破られて、ハーピーも裸になっているんだ?」


「危機が迫ったら救援に駆けつけるようにと仰られたので。彼女達だけでも切り抜けられるのであればと、監視はしていました。危機が迫った為、冒険者共を駆逐した次第です」


「・・・なぁ、ベルナン・・・」


「はっ、我がレディ」


「女にとっては、貞操の危機が迫るまで危機ではないと言うのか?」


「それは、どう言う意味でしょう?」


 今ひとつピンと来ないベルナンを見て、大きくため息を吐くと、アニアスはセージを見上げる。

 ハーピーと熱い抱擁を交わす大男を見上げ、アニアスはたまらない様子で悪態を吐いた。


「所でセージ。アンタはアレか? 腰抜けか?」


「なんだと。どう言う意味だ」


 アニアスは話にならないとハーピーを見る。

 ハーピーのラーラは何かを感じ取ったように少し笑ってみせた。


「多少の浮気は目を瞑るわ。子供達を蔑ろにしないのであれば」


「おい、ラーラ。何を口走っている?」


 俺はお前一筋だと言わんばかりのセージ・ニコラーエフ。

 その大男を誘惑するように、アニアスが黒マントが肩から滑り落ちるのも厭わず背中から抱きついて言った。


「あたしは、好きな男にしか肌を許さない」


「ちょ、ちょっと待て、一体何を言って、」


 エルフ娘のフラニーが負けじとセージの右腕にしがみついた。


「お、お前ら、一体何をして!?」


「「「熱い抱擁よ」」」





 私、レナ・アリーントーン。

 突然ですが、勇者を目指すことにしました。

 言い間違いから発展して、今じゃすっかり隠者のオッサンの事を「お父さん」と呼んじゃってます。

 なんだか、くまさんみたいにおっきい体躯が、お父さんって感じだし。

 なんて言うかね。すっごく私の事を大切にしてくれるのですよ。

 もう、そんなに好きなら彼女になってあげるわよって言うくらい。


『おい、レナ! 狩に行ってくるから、アルア達の面倒を頼むぞ!』


「あーはいはい、行ってらっしゃい! イノシシ食べたい!」


『居たらな! 何で女の子なのにキツイ匂いの肉が好きなんだ?』


「聞こえたわよ! それより狩頑張ってよね! 昨日も野菜だけだったんだから!」


『やかましい、そこまで言うならお前も弓くらい練習しろ!』


 あ、怒って行っちゃった。

 短気なんだから、全くうちのお父さんってば。

 ちなみに、プチハーピー達は私の事を「お姉ちゃん」って慕ってくれてる。超かわいい妹達!

 ラーラの事は、・・・うん。やっぱりラーラ。

 なんて言うのかな。若干恋敵?

 恋敵をママとは呼べないわ。

 と言うか、「お父さん」て呼んじゃってる時点で負けてる気がするけど。

 話が逸れたわ!

 そう!

 私、勇者目指すの!

 今は冒険者としてはまだまだ駆け出しだけど、ミノタウルスを一撃で撃破出来る必殺技も解放された事だし、これからどんどん活躍していく予定なんだからね!

 パーティメンバーは、今の所フラニーだけだけど、二人で結構活躍してるんだから!

 勇者としては、大冒険に繋がるイベントを募集中なんだけど、これがなかなか起こらないのが難点なのよね。


「おねえちゃー」

「木登りー」

「練習見てー?」


 あああ、もう!

 プチハーピー達可愛すぎだろお前!


「はいはい、じゃあ近くの森に行こうね!」


「「「わーい」」」


 何はともあれ、コラキアで悪事を働いてた冒険者ギルド(マスター)のジャーカー・エルキュラと、淫謀を貪っていたミノタウルスが討伐されて、冒険者ギルドも少しはマシになった事だし、きっと近いうちに私の伝説が始まるわ!

 始まる筈よ!

 始まるんだから!

 多分!

 でも、今は妹達が飛べるようになるのが先ね。

 さあ、今日も頑張るわ!

 ・・・主にプチハーピー(いもうと)達が・・・






 第一幕、これにて閉幕となります。

 勢いで書き殴ってきた垂れ流し妄想ですが、ここまでお付き合い頂き、誠に有難う御座います。

 当初の話では、もっとポップな内容もあったのですが、書いているうちに暗い印象の方が強く出てしまいました。

 舞台を描く上で気をつけたのは、「大人向け」のファンタジーです。

 冒険者が人々の味方という設定を度外視し、逆に盗賊ギルドを民衆の側に立てるという設定はかなり乱暴な表現だったかも知れません。

 しかし、冒険者のイメージが、最近ですと西部劇のガンマンを思い描いてしまい、荒々しい集団という設定に行き着いてしまった為にこのような表現になってしまいました。

 荒っぽい設定にした以上は、色々と危ない展開も発生してしまうので(あくまでも私の妄想として)どうやってブレーキをかけていくかが、今の所の課題であります。行きすぎると、色々問題がありますからね。

 まだまだ冒険は始まってすらおりませんが、次のお話が頭の中に湧いてくるまでは一休みとなります。

 早いか遅いか、何気にリアルの仕事次第?

 キャラクター達も全然描き切れていないので、まだまだ続けるつもりでおりますが、拙い妄想ではありますがこれからもお読み頂けると嬉しく思います。

 これからもどうぞ、よろしくお願い申し上げます。

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