ミーシャ、その4
無設計でお届けしています。
妄想がようやく形に出来たので執筆再開。
長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
また止まるかも知れませんが、最後まで書き続ける所存でございますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。
会談を終え、セージはミーシャ皇子に黒騎兵の護衛二人を付けた。
黒の砦で一晩の休息を取った翌日。
「ミーシャ殿下、疲労はありましょうが、ノアキア子爵のエッソス城まで御足労願います」
砦の厩から漆黒の大馬ライトニングの手綱を引いてセージが大股に歩いて言った。
厩から少し離れた馬の水飲み場近くに護衛二人に挟まれる形で待機していた美少年は儚げに彼を見上げる。
「ご苦労をかけます。セージ・ニコラーエフ」
「いえ、貴人を護るのも、トーナ王国の騎士の務めですので」
「もっと、あなたは荒々しい方だと思っていました。感謝しています」
彼は暗殺者の魔女に殺されかけて、本当のセージは月の女神に連れられて成仏してしまったのだが、それを説明する術もなければ混乱を招くだけであったから、本来のセージ・ニコラーエフではなく大槻誠司なのだと言う必要もなくただ苦笑して見せた。
早朝の霧がうっすらとかかった朝日がぼんやりと滲む時刻。
黒の砦配下になった盗賊組合の元構成員が箱車の馬車を引いてきてミーシャ皇子の前に停車した。
護衛の黒騎兵が箱車の側面扉を引いてミーシャが乗車する。
皇子が箱車のソファに座ったかどうかまでは確かめずに周囲に鋭く視線を巡らせながら扉を閉める黒騎兵。
セージは手綱を巧みに操ってライトニングを馬車に横付けさせると暗幕で隠された窓に向かって声をかける。
「殿下、よろしいか」
『ええ、問題ありません。よろしく頼みます、セージ・ニコラーエフ』
「では、出発致します」
護衛の黒騎兵達に左手を上げ、セージの合図を受けて黒騎兵達も各々の馬に騎乗した。
空を見上げると、魔物でありながらセージの妻として彼に従うハーピーのラーラが砦上空を大きく旋回している。
「ハッ」
ライトニングの腹を足で軽く小突いて、セージが先頭に立つと、馬車が、黒騎兵達の騎馬が後に続き砦の正門を潜って細い道を街道目指して、エッソス城を目指して出立した。
帝国からの護衛と雇われていた冒険者のワルドは、金貨五百枚という大金を砦から与えられて事実上解雇されている。
その彼は未だ客室のベッドの中で久しぶりの安全な部屋で深い眠りについており、ここまでミーシャを護ってきた彼を咎める者もなく。
セージ達の出発を見てハーピーのラーラは旋回を続けながら付かず離れずの位置を飛んで追跡し始めた。
辺境は、確かに、混沌への道を進み始めていた。




