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終末世界のボスではないのだぞ

 従者のメイド生人形リビングドールを伴ったセージは、館を出ると真っ直ぐに厩へと足を向けた。

 側近のウルベクの指示を受けた盗賊シーフギルドから配下として派遣されている黒い革鎧に身を包み同じく黒いハーフマントを羽織った若い戦士が五人、セージの専用に近い巨躯の黒馬ライトニングを厩から引いて出しているのが遠目に見て取れ、セージが訓練場としても使われている広場を横断して厩に近付いていくと、二人の戦士が手綱を取り三人の戦士が鞍を装着させている。


「ご苦労だな。ライトニングはすぐに出られるか」


「サー・セージ、ご覧の通り準備は万端です」


 先頭切って準備を進める戦士が言うと、ライトニングも彼にこたえるように鋭く嘶いて首を左右に元気に振って見せた。

 セージがライトニングに近付き左手でそっと首筋を撫でてやる。


「すまんな、スクーラッハ寺院まで付き合ってくれ」


 ブルルッと鼻を鳴らして前脚を踏み鳴らし、機嫌よさそうに尾を振るライトニング。

 セージが手綱を取ろうとしたところで、メイド生人形達がいつの間に厩の中に入っていたのか奥から鉄製の騎馬に鉄製の四輪車を引かせて、真顔で、機嫌よさそうに目を緑色に輝かせながら出てきた。

 珍しくぎょっとして息をのむセージ。


「・・・お前ら・・・何だ、それは?」


「遺跡からアルゼシリーズに補給で運ばせた部品から組み上げました。鉄騎スチールランスレイプニルと、」

「我がマスター専用の牽引車両、黒騎号ブラックキャリーでございます」

「こちらのセージ様専用の鉄兜サーリット闘犬骸ブルスカルもご使用くださいませ」


 アンジェリス、ノアジェリス、ランジェリスが無機質ながらどこか嬉しそうに説明してくれたそれらは、どう見ても世紀末覇者な暗殺拳法家が活躍する荒廃した終末世界を跋扈するならず者のボスが搭乗する玉座代わりのバギーと、一目で悪役と分る黒い骸骨じみたヘルメットだった。


「いや・・・お前ら・・・これはどう見ても悪党が乗る車だろうが。というか。うむ」どこから突っ込んだものかと真剣に悩む「どう考えてもオーバーテクノロジーだろう。こんなものを許可無く作るんじゃあない。そもそも車の外装は鍛冶屋にでも作らせたのだろう。鉄の無駄遣いだぞ」


 懇々とセージに説教されてしゅんとしてしまう生人形達。


「ええと・・・」

「あのう」

「・・・申し訳ございませんでした・・・」


 名前を与えられたばかりで感情らしきものが芽生えつつあるアンジェリス、ノアジェリス、ランジェリスであったが、表情はまだ無いなりに俯いてしゅんとしてしまう。

 とはいえ戦闘用のドールである彼女達が努力して組み上げた機械馬と牽引車両である。旧時代のデータを元に一から開発する労力を考えると怒りすぎるのもどうしたものかと悩んだ末、セージは静かに言った。


「こんな物がいきなり街道を疾走していたら、今の時代の人間を驚かせるだけだ。オーバーテクノロジーは必要な状況にならない限り使ってはならん。大切に保管して置け」


 流石に壊せ、とは言わず安全な場所に隠すよう指示を出すセージ。

 生人形達は申し訳なさそうに深々とお辞儀をすると言った。


「申し訳ございませんでした我がマスター」

「厩の奥に増設しました地下格納庫に収容してまいります」


 いつの間に地下格納庫なんぞ作ったんだと呆れるセージ。

 ランジェリスがそれでもあきらめ悪く鉄兜を両手に一歩前に出て掲げて見せた。


「我がマスター、せめて、せめて闘犬骸ブルスカルだけでも・・・」


「う、む・・・」


 デザイン的に邪悪なそれを見下ろして若干引いているセージ。

 ふと門の方が騒がしくなり、茶色と灰色の馬にそれぞれ跨ったレナ・アリーントーンとフランチェスカ・エスペリフレネリカが彼の元に忙しなく駆けてきた。


「セーちゃん、たいへんたいへん!」

「セージ! アニアスが倒れたって・・・! セーちゃんって何よ?」

「えー、うー、んー? セーちゃんはセーちゃんだよ」

「あんた、また・・・その呼び方だったらお父さんの方がよかったんじゃないの?」

「だー!もー! あたしなりの親密な付き合い方に文句いうなし!!」


 セーちゃんと呼ばれた当人のセージは、チッと小さく舌打ちする。


「おい、レナ。ふざけるのも大概にしろよ」


「えー! いーじゃーん、だめー?」


 全く改めるつもりはないらしいレナは、ランジェリスが手にしている禍々しい鉄兜サーリットを見るなり、嬉々として下馬してそれを奪い取り目にもとまらぬ速さで跳び、笑い、セージに被せてしまった。


「わー、にあうー!! あははっ! ショットガンぶっぱなす小ボスだよね。『俺の名前を言ってみろ』的な?」


 徐に鉄兜を脱ぐと地面に叩きつける。

 コーンと小気味よい音を立てて鉄兜が地面を跳ねて、セージは颯爽とライトニングに跨るとフラニー、フランチェスカに向かって言った。


「一人で行くとウルベクがうるさい。フラニー、スクーラッハ寺院まで護衛役として同行してくれるか」


「フン。元よりそのつもりで来たわよ。ラーラ達は連れて行かないの?」


「ラーラは今、娘達を連れて西の山林に狩りの仕方を教えに行っているからな。ウルベクには戻り次第、スクーラッハ寺院に行っていると伝えてくれと言ってある」


「なら、ま、いっか」


 ふぁさっと左手で長い金髪を靡かせると、フラニーは灰色の馬を踵を返させてセージの方を振り向く。


「行くんでしょう? その子たちは連れて行かないの?」


 フラニーの視線の先にいる生人形達。

 地面に無残に放り捨てられてしまった闘犬骸を悲しそうに拾い上げているランジェリスを見て、セージは深くため息を吐くと彼女の前に屈み込んで闘犬骸を両手でそっと奪って見せて言った。


「折角だから貰っておく。いくら俺が騎士になったってタダで鉄が手に入るわけじゃあないんだ、今後は何か作りたいときは相談しろ」


 言いながら骸骨じみた鉄兜を被りなおすセージ。

 ランジェリス達生人形は、照れ隠しにも見える彼の行動を見てぱっと笑顔になりメイド然として立つと、綺麗にお辞儀をして嬉しそうな声を上げた。


「「「承知いたしました我がマスター! ご厚意、とてもありがたく存じます」」」


「いや・・・うむ。今後とも励めよ」


「「「はい、我がマスター」」」


 さっとライトニングに跨り、フラニーを伴って出発するセージ。

 メイド生人形達は一度身体を起こすと、再び深々とお辞儀をして彼を送り出した。

 わりと本気で怒られて呆然としていたレナが置いてけぼりを食らったと気付いて慌てて馬に跨る。


「ちょっと! 待ちなさいよ! あたしを置いてくな―――――!!」





 


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