プチハーピーのお着替え会?
セージは子供達の身体の汗を拭いてやると、バルコニーに上がりリビングを通って寝室へ。
その間、手持ち無沙汰なレナはテーブルの脇で呆然と佇んでいたが、今は無視しておく。
部屋に戻ると衣装ケースに使っている木のコンテナから真ん中に穴の空いた布切れを三枚取り出してコンテナの縁にかけ、子供達を呼び寄せる。
「アルア、ビーニ、チェータ、服を着ろ」
「アルアー!」
「チェータも! チェータも!」
「ビーニが先だよー」
「騒ぐなお前ら・・・。ほら、アルアからだ」
「わーい」
「「えー」」
アルアがコンテナの脇に屈み込むセージの前にやって来て翼を一杯に広げて立った。人間で言えば、ばんざいしているようなものか。
しかし、首を通した所でぐずりだす。
「ちゃーうよー、これアルアのじゃなーいー」
「一緒だろう。同じシーツから切り分けたんだぞ」
「ちゃーうのー!」
「これビーニのー!」
アルアの首に通した布切れを翼の関節の小さな手で掴んで引っ張るビーニ。
アルアも不機嫌そうに布切れの襟の辺りをグイグイと持ち上げようとして襟の辺りが引っ張り広げられる。
講義の声を上げるビーニ。
「のーびーちゃーうー! のーびーちゃーうー!」
壊れるのも厭わずと、アルアは構わずに襟をグイグイと持ち上げ、仕方なくセージは首から外してやって別の布を左手で持ち上げて見ると、チェータがそれに反応して翼を広げて小躍りした。
「チェータのー!」
「あー? コレがチェータのか?」
「チェータのー!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるチェータ。
ビーニがセージの右腕にしがみついて右手に持たれた布を指して言った。
「ビーニが先ー。ビーニ先ー!」
「アルアだよ! アルアが先だよ!」
「ビーニ!」
「チェータもー!」
「アルアが先なの!!」
困り果てたセージは一旦チェータの、と言われている布をコンテナにかけると、チェータがわっと泣き出した。
「チェータもー! チェータもーーー!!」
「アルアが先なの!!」
「ビーニだもん!!」
「うわあーーーーー、チェータもなのーーーーーーーー」
収集がつかなくなって来てセージが誰から着せたらいいのか悩んでいると、騒ぎでラーラが起き出して子供達を叱った。
「こら、何を喧嘩してるの貴女達は!」
「アルアが着させてもらうの!」
「ビーニだよ!」
「うわあああ、チェータがいーいー・・・」
「ラーラ・・・、どうしたらいい・・・?」
傷だらけの顔で泣きそうになりながら困り果てるセージを見て、ラーラは困ったように笑うと翼を大きく広げて子供達を包み込んだ。
「ほら、もう、みんなそんな事で喧嘩しない! アルアはお姉ちゃんなんだから我慢できるでしょ?」
「だって、アルアが先って言ったー」
「ビーニもー!」
「チェータがいーいー」
「困った子達ねぇ。アルアはお姉ちゃんなんだから我慢しなさい。ビーニもよ。チェータもそんな事で泣かないの!」
「やーだー、アルアが先ー!」
「ビーニだよー!」
「うえええええ」
「もう、本当にしょうがない子達だこと! セージ、チェータから着させてあげて?」
「お、うむ」
わいのわいの騒ぐ子供達を、部屋の外から眺めていたレナは、なんとなくそうするべきだと思い不躾と思いつつも部屋に入ると、子供達の目線に両手をパーにして見せた。
何事かと子供達が一瞬大人しくなる。
レナは左手の甲を見せるようにして素早く右手で被せ、すっと横にずらすと左手の親指がぽーんと右手と一緒に離れて抜けてしまう。
「「「とれたー!?」」」
ネタがバレないようにと素早く両手をくっつけて、パッと両手をパーにして見せる。
「「「くっついたー!?」」」
「お洋服着たら、お姉さんと遊ぶ?」
「「「わーい」」」
何故か機嫌の直った子供達。
その隙に、セージとラーラは分担して子供達に布を着せて帯を締めさせる。
安堵のため息を吐いてセージはラーラに向き直り、彼女の上半身に視線が泳いだ所で翼で叩かれた。
「私も着るからあっち向いてて頂戴!」
「お、おう、すまん・・・」
服(?)を着るようになってから、ハーピーにも恥じらいというものが生まれたようだった。