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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第6章 力を求める者達は
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廃墟の地下遺跡、その16

 レナはターシャの部屋に再び通され、朽ちて天板の抜け落ちたテーブルの骨組みを挟んで対峙していた。


(よくよく考えると、ターシャって死霊レイスなのよね・・・。いきなり襲い掛かってきたりしないかしら)


 レナの不安をよそに、背中を向けていたターシャがゆっくりと半身向き直って顔を向けてきた。


「さて、お前の戦いを先ほど見せてもらったわけだが」


「あー、うん・・・。で、何の用でしょう」


「あの力、月の輝きを刃に乗せて放つあの技は通常の魔法とは異なる力、勇者の力で間違いなかろうが。お前は勇者なのか?」


 勇者、かもしれない。

 そう言われて以前のレナだったら、手放しで浮かれて「よくわかったわね!」などとのたまったかもしれないが、まだまだ緊張感が足らないといってもセージとの生活でゲームの世界ではなく異世界の現実だと受け止められているからこそ、ターシャの言葉に考えるようにして言った。


「多分、勇者の力なんだと思う、けど」


「けど?」


「よくわかんないのよね。あたし、異世界の、地球ってところの、日本ってところに住んでたんだけど」


「ほう・・・地球・・・日本ときたか・・・」


 明らかに知っている素振りのターシャの様子に気付かずレナは続ける。


「突然ね、大地震が起こってね。ええと、この話してもいいのかな。てか、なんであたしこの話してるんだろう」


「私が聞いたからだよ。続けて」


「あ、うん・・・。地震が起こった日に、空が真っ赤に染まって、空に巨大な魔法陣が現れて、で、そこからびゅーんってビームが飛んできて捕まって、そしたらどっか船の中みたいな神殿みたいなところにいて、で、気が付いたら落下しててコラキアについて・・・て、今ので大体わかる?」


「説明が下手すぎだ。まるで解らん」


「さいですか・・・」


「だが、地震、赤く染まった空とそこに浮かんだ魔法陣、か」


 レナに背を向けて一人納得したように床の上を滑って移動すると、ターシャは壁際のガラス張りの棚の中をじっと覗き込んだ。


「そうかい・・・終末の預言者の話なんてでたらめだと思っていたんだがねぇ。長生きするもんだねぇ、死んでるけど」


「は? あの、なんかわかった系?」


 右の眉を上げてターシャの様子を可笑しそうに苦笑して見つめるレナ。

 ターシャはため息を吐いて顔だけをやや振り向かせるだけだ。


「で、予言って?」


「少し昔話をしようかね」


「えー、長いんですかソレ」


「黙って聞いときな」


「へーい」


「まぁ、これはまだ私が人間だった頃の話なんだがね・・・」





 世界に突如現れた「穴」から、魔族は魔物どもを率いて人間の住むこの世界に戦いを挑んできた。

 よくあるお伽話さ。

 近代兵器で武装した人間の軍の前に、魔物は成す術がなかった。圧倒的勝利を人間は収めた。その初戦で、魔族はあっさりと負けを認めて撤退してね。正直、はじめは「穴」の向こうの事なんて文明レベルの低い取るに足らない世界だと思っていたのさ。

 しかし、魔族の、魔物の侵攻は毎週のようにやってきた。

 その都度撃退していたんだが、回を増すごとに敵の数は増大していった。

 気が付けば、「穴」の数も増え、世界各地で魔物の侵攻が発生して圧倒的な戦力差に軍はとうとう対処しきれなくなっていった。

 どんなに優れた武器を持っていても、一個連隊を一撃で屠れるような兵器を持っていたとしても、それ以上の物量の前では用をなさない。

 ついには自らの都市を巻き添えにして大量破壊兵器を投入して撃滅したが、「穴」は塞がらず、それどころか世界の各地に開く「穴」は増える一方で、国が一つ、二つと壊滅していった。

 銃やミサイルで武装した近代兵器の軍隊が、獣や昆虫の魔物の大群の数に対処しきれなくなった。

 弾切れも深刻でね。

 二百余國あった世界の国も、気付けばたった十五の国しか残らなかった。

 いよいよ、人類の滅亡かと思った時、宇宙から一隻の船が舞い降りる。

 月からやって来た、銀の帆船。

 しんじられるかい、ロケットでもなく、ジェット推進でもない、正体不明の力で月から降りてきたというんだから。帆船が。お伽話以外の何だって言うんだい。

 だが、その船に乗ってやって来た金髪と銀髪の褐色の肌をした美しい乙女達が、人類の存亡をかけて戦う兵士達に魔族に対抗できる力を授けて行ったんだ。弾切れの心配のない戦う力。

 そう、魔法さ。

 その中でも特に優秀な兵士達は、二人の乙女から勇者と称されてさらなる力を与えられた。

 千人規模の勇者軍団。

 だがそれでも戦力は足りない。

 そこで二人の乙女の力を借りて開発されたのが、勇者を補助する自立志向型戦闘兵器、リビングドールさ。

 さらに、リビングドールが搭乗して戦う大型の戦闘ロボット、リビングスタテュも量産体制が整って、魔法と勇者力で「穴」を消滅させる術を手に入れた人類は、世界からどうにか「敵」を追い出すことに成功したのさ。





「それで、今があるってわけだね。ざっくり話しただけだが、大体わかったかい」


「いや、ぜんぜん・・・。てか、あたしがこの世界に来たのとなんか関わりあんの?」


「まぁ、そうさね・・・。先に話した二人の乙女だがね、太陽の巫女サーラーナと、月の巫女グリアリスと言った」


「女神の名前?」


「そうだ。彼女達にはそれぞれ側近の戦士がいた。漆黒の甲冑に身を包んだ二人の戦士、竜王アルカ・イゼス。名前は知られていないが、アルカ・イゼスというのは竜王に与えられた称号だと言われている」


(うーん・・・。お話が適当すぎて付いていけなくなってきたぞ・・・? そもそもアルカ・イゼスってなんぞや?)


 興味のない話を長々と聞かされて、レナは退屈で仕方がなかった。

 身動ぎをしてふと脳裏に、この世界にやって来た時に聞いた女性の声を思い出す。


『黒き戦士と力を合わせ、巫女を守れ』


(あれ? アルカ・イゼスって、黒い戦士のこと?)

「でもさ、結局、あたしがこの世界に来た理由と繋がんないよね?」


「そうだな。私も戦争が終結する前、決戦間近で魔族の毒霧魔法で工場ごと殺されたから実際に最後がどうなったのかは知らないんだがね」


「マジか」


「だが、死ぬ前に予言者と名乗るジジイから聞いた話は覚えている。世界中に開いた穴の全てを探し出して閉じるのは、不可能なのだと。だが時代にあわせて女神の力を宿す巫女は現れる。黒き側近とともに。そうして終わることのない戦いを繰り返すのが、魔界と繋がってしまった世界の運命なのだとね」


 魔界とのつながり。

 それを研究できたであろう高度な文明を持つ国はその戦いで大半の技術を失ってしまい、穴を捜索するのに人力しか使えず事実上すべての穴を塞ぐのは不可能になった、という話だ。

 穴が増えては女神の巫女が再臨し、勇者を率いて穴を塞ぎ、平和が訪れ、そしてまた新たな穴が出現して、繰り返し、繰り返し、戦いは続いているというのだ。


「じゃあ、あたしみたいにこの世界に召喚された勇者は他にもいるってこと?」


「それだがな・・・。言ってしまえば、お前が召喚されたのは最終手段なのだよ」


「え、どういうこと?」


「本来ならば、女神の巫女が世界に散らばる戦士の中から勇者を見出して軍隊を造るんだが、今回はどうやら、女神の勇者の軍隊はなんらかの理由で敗北した、て所だろうね」


「は!? 負けちゃったの!? ダメじゃん!」


「ついでに言えば、女神の巫女の片割れも命を落としていることになる。巫女が命を落とした時、世界を守る補正魔法が発動して異世界から強力な勇者力を秘めた戦士を召喚すると、予言には語られていた」


「つまり、それがレナちゃんなわけね!!」


 選ばれた戦士、的なことを言われて小躍りするレナ。

 そんなレナを、ターシャは冷ややかな目で見つめて言う。


「だがどんなに強力な勇者力を秘めていたとしても、たった一人で何ができると思う。個の力は個だ。群ではない。来るべき時にお前が戦わなければならないのは、魔族が率いる大軍勢になるのだぞ」


 はしゃいでおいて、大軍勢と聞いて一気にテンションが下がるレナ。


(そうだわ・・・。ミノタウロスを一撃で倒せる技を持ってたって、連射できるわけでもないし・・・。え、どうすればいいの?)


「まぁ、それを知るからこそ、ジェリスニーアはここに使えそうな兵器がないか探しに来たんだろうが。あいにく使える生人形リビングドールの数は限られる」


「工場の再稼働は出来ないの?」


「技術レベルが違いすぎる。向こう三百年は無理だろうね」


「ほげぇ・・・」


 肩を落としてほうけているが、今のレナには事態の深刻さは現実として伝わらない。

 どこか他人事のように少しふざけた雰囲気が残る態度に、ターシャはしかし怒るようなこともせずに棚の下の引き戸を指して言った。


「こんな時のためだったのかねぇ。異世界からの来訪者が勇者として現れた時に渡すようにと、予言者は一つだけ私に預けていったのだよ。この引き戸を開けてみな」


 ターシャの指さす棚の下をいぶかし気に見つめるレナ。

 いつまでたっても動こうとしないレナに、ターシャが言った。


死霊レイスの私には物は掴めないし、指一本でも触れればお前のレベルが下がるが。それでも私に用意させたいか?」


「はっ!? い、いいわよっ、見てみるわよ!」


 若干怖気付きながらも棚に歩み寄って、屈み込んで引き戸を開けると、中には一つの宝箱が安置されていた。


「宝箱? てか、まんまゲームの宝箱かーい!」


 不満を漏らしながら棚から引っ張り出して開けてみる。

 中には白い胸当てと肩当て、草刷り、籠手、脛当てが入っていた。


「これは!? えーなにー、ちょっと貧弱そうな鎧・・・」


「勇者力を具現化出来る勇者専用の鎧、勇気の白(ブレイブホワイト)だ。焼け石に水だろうが、それをお前にくれてやる」


「うーん。なんだか微妙な感じが・・・」


「そう言うな。世界一硬い金属ルナライト合金製の鎧だ。魔法の伝導率も良い、必ずお前の役に立つだろう」


 半ば騙されたような気持になりながらも、鎧そのものは軽量かつ美しい造形でもらえるなら悪い気はしなかった。

 これまで革の胸当てしか鎧が無かったレナだったが、これを装備すれば少しは勇者らしくなるだろうかと考えるのだった。






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