廃墟の地下遺跡、その11
新たに見つけた通路は、通ってきた通路のある壁を左に辿った先にあった。
まるでUターンするように続く通路の幅は変わりなく、ただ、先の通路は左右に間隔を置いて扉らしきものがあったのだが、この通路には扉の類は一切なく、ただ延々と真っ直ぐに続いているだけだ。
フラニーがジェリスニーアを振り返って言った。
「ねえ、ジェリスニーア。この先には何があるの?」
「この先には兵器格納庫がございます。この通路は搬出入口にあたります」
「なるほど。じゃあ、そこが目的地だね!」
レナがやっとかと少し元気になる。
ネジン少年も心躍るのか、鞄を両手で抱きしめ直した。
「一体、何が眠っているのでしょうか! ジェリスニーアさんみたいな美少女人形が、」
「キモいからマジでやめてくんないそういう想像」
即応するレナ。
ジェリスニーアはやや俯いて静かに言った。
「なんであれ、貴方に従う者はいないというのは確かです」
「そんなぁ」
「つーかアンタは何の目的でここに来たのよ・・・」
「古代技術の調査と復活です!」
「良かった目的は忘れていないようね」
「美少女生人形こそ至高です!」
「死ねばいいんじゃないかしらね!!」
どこまでも歪んだしかし純粋な性癖。
レナやフラニーに罵られてもどこ吹く風だ。
呆れ顔のベルナンが突き当たりの扉に、これまで通りと一緒の取手のない観音扉の前にたどり着いてため息を吐く。
「所で、その目的地かも知れん扉に着いたわけだが? お姫様方」
「え!? 姫!? あたし!?」
「その言い方、やめてくれないかしら。じみ〜に嫌味に聞こえるのだけれど」
「フラニーに対しては心から言っているつもりなんだがな」
「セージの爪の垢でも飲んでから言いなさいっ」
「やれやれ・・・前途多難か」
「脈がないって気づきなさいよ!?」
フラニーとベルナンのやり取りに、ジェリスニーアはその脇をすり抜けながら扉に手をかける。
「どうでも宜しいのですが、フラニー様もセージ様にお相手されていらっしゃらないようなのでとても心苦しく感じます」
「に、ん、ぎょ、う、に、言われたかぁないわよ! アンタだって一緒でしょうが!!」
「先だって戦果を上げた際、ギュッと抱きしめて頂けました。もう、ギュッと。こう、ぎゅーーーーーっと」
「ぎゃー!! 何なのよコンチクショウ!!」
頭を抱えて仰け反るフラニーを尻目に扉に両手を突いて、一歩踏み出して開くジェリスニーア。
そこには、先程の無機質な神殿然とした部屋と同じほど広大で、柱の代わりに無骨な四角や円形の台座の上に跪くように座す百体はあると思われる金属製の像やジェリスニーアに似た人形達が静かに鎮座していた。
人形達は身体に密着するような白一色のボディスーツを身に纏い、金属製の像は構成する部位各部が複雑に見えて簡素な部品で出来ており、球形の関節で接合されていたり関節を隠すように素材不明の金属にも見える布で覆い隠されている。
感動に声も出ないネジン少年が夢遊病のような一歩を踏み出し、続くレナが金属製の像を、身の丈4メートルはあろうかという像を見つめてポツリと呟く。
「いやさ・・・最新バージョンのシナリオPVにこんなようなモンスター追加されたの映像で見たけどさ・・・」
フラニーがまたぞろ迷惑そうに右手を眉間に当てて「また意味わからない事言い出した」とため息を吐く。
レナは構わず喚いた。
「かんぜんにロボットじゃーん!! 世界観台無し!?」
「レナ様それは心外です。私達はかつて栄えた超魔法王国の技術の結晶なのでございます」
「魔法と科学は見分けがつかないっていうけどコレはやり過ぎじゃん!?」
「仰っていることは分かりかねますが。それは妬みでしょうか。所で・・・」
勝手に意気消沈するレナをよそに一行の前に進み出て、部屋の奥をじっと睨み据えて緑色の瞳を怪しげに輝かせる。
「IFF信号の上書きを確認。敵です」
「は?」
素っ頓狂な声を上げるレナ。
暗闇に閉ざされた部屋の深部に目をやると、不穏な赤い輝きふたつ。
金属的でありながら人の湿気を思わせる、ヒタヒタという足音と共に一行の頭上に展開された魔法の光源の元に徐々に照らされ近付くソレは、顔の作りこそジェリスニーアに似ているが赤く腰ほどもある長い髪が快活に反り返った、白一色のボディスーツの上からビキニ見えなくもない厚い装甲のアーマーを纏った銀色に輝くスマートな両手剣を下段に引きずり歩く生人形だった。
「目標補足。個体識別、JER-03、ジェリスニーア型後期型と識別。IFFスキャン・・・不明。敵機と判断。排除を開始します」
「個体識別、ARZ-2C、アルゼ型接近特化型と識別。IFFの書き換えを確認しました。アップデートを要求します」
「拒絶。基地防衛プログラムによる判断を優先。排除します」
両手剣を「屋根」に、右肩にやや後方に傾けて立てて構えるアルゼ型。
下腹部の前でしおらしく両手を組んだ姿勢正しいジェリスニーアが顎をそっと引いて言った。
「皆様、武器をお構ください。どうやら戦闘は避けられないようです」
「は!? マジで言ってんの!? ジェリスニーアがいればだいたい大丈夫って言ったじゃん!」
「だいたいの定義によるわね。どうして避けられないのかしら?」
「何者かの上書きで、コードが当時とは別のパターンに書き換えられていますので。私の事を敵機として見えているようです」
「やれやれだぜ・・・」
ベルナンが長剣を抜刀して一歩前に出た。
フラニーがグラスレイピアを構えて彼の右に立ち、レナもミスリル刀を抜刀して正眼に構えて左に進み出る。
ジェリスニーアが両手を解いて腰の高さで左右に開くと、両手の平から淡い光を発して三人の身体に光を纏わらせて言った。
「魔法のプロテクトを張りました。ですが万能ではありません、数回の攻撃しか防げませんから、ご注意を」
「って、ジェリスニーアは戦わないんかい!」
「私はアミナとネジン様を御守りしなければなりませんので」
「うーんとえーと、どうして私のことは呼び捨てなのか小一時間ほど問いただしたい所ですが回復支援は出来ますので、思いきって戦ってください、レナお姉様、フラニーお姉様」
「流石です小粒ちゃん頼りになりますね」
「貴方と1センチしか変わらないんですけどねこの淫乱人形!!」
「私の方がちょっぴり背が高いです」
「この人形はモー! ほんとうにモー!」
無言でアルゼ型が突撃してくる。
ベルナンが顔の右横に、水平に切先を向けるように構えて腰を落とした。
「気を付けろっ、早いぞ!!」
袈裟斬りに振り下ろされる両手剣を長剣で弾くように合わせて鍔迫り合うベルナン。
無機質で広大な部屋に、剣戟の音が響き渡った。