廃墟の地下遺跡、その10
通路を抜けた先は、ともすれば神殿と言えなくもない四角柱が規則的に林立する広大な空間だった。
床から天井までの高さはおよそ5メートル。
広々としたその空間の床にはやはり規則的に同じ大きさに白線で描かれた四角い陣がずらりと並び、そのいくつかに馬車の荷台のような箱型の車が数台止まっており、一番奥の一台は灰色の無骨で頑強そうな見た目に屋根には砲塔らしきものが乗っている。
しかし、レナとジェリスニーア以外にはそれが何なのかは判別が付かず近付くのも警戒して通り過ぎて、気になったレナはその車両の右側、運転席のあるドアに近付きくぐもった窓ガラス越しに中を覗き込んでみた。
運転席には先ほど倒した骸骨兵士と同じプロテクターを纏った頭の無いミイラがハンドルを握りしめて突っ伏して見える。
「どうなさいましたか?」
普段は見せない機械的な声色で冷たく寄り添うジェリスニーア。
レナは不気味なほど人間味を感じさせないジェリスニーアに身震いして振り向き適当に誤魔化す。
「べっ!? べっつにい? うはーはんどるにぎりしめたまま死んでるー。こわーーーーー」
棒読みにその場を離れようとしたレナの右隣に寄り添って、ジェリスニーアはポツリと言った。
「ここは最前線の補給基地でしたから。私のような戦闘用生人形を生産・修理する最前線の工場要塞。魔族の軍勢を押しとどめる基地として戦い抜き、そしてこの工場要塞を破壊するのが困難と判断した魔神軍による魔法の毒霧を用いた大規模魔法によるテロ攻撃によって内部の人間だけが殺されました」
「へぇ・・・。あるよね、戦争って、そういう理不尽な攻撃しようとする奴。独裁者っていうの?」
「独裁者・・・。そうですね。魔神にふさわしい呼び方ですね」
一人納得したように頷き、ジェリスニーアは広い空間の壁に見つけた取手の無い観音扉を調べ始めたフラニー、ベルナン、それを後ろで見守るアミナとネジン少年の方に向かって姿勢正しく歩き出す。
「え、いやっ、それで終わり!? なんか他に言うことないの!?」
取り残されてレナは、運転席に眠る無惨な遺体をチラリと見て身震いしてその後を追いかけた。
暗い四角い部屋の一室。
研究者の亡霊はもはや灯ることの無い蛍光灯に向かって宙を仰向けに漂い、窪んだ目で経年劣化でカバーが落ちて剥き出しの蛍光灯をぼうっと見つめていた。
室内に青白い人魂がふぅわりと現れて規則的に明滅する。
亡霊は面倒臭そうに天井近くをたゆたいながら言った。
「そうか、骸骨人形を退けたか。会ってみる価値はありそうだな。所でヒアキンスの者は誰も居らぬのか?」
チカチカと矢継ぎ早に明滅する人魂。
亡霊はクスリと苦笑する。
「なるほど思ったよりも時間が経っていると言うことだな。アテにならぬものだな新人類というやつは。もう少し戦闘サンプルが欲しい、別の兵器をあてがって見てくれ」




