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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第1章 転生隠者と転移勇者
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夢覚めて見つめる現実(いま)

 ロッジに戻ると、ラーラはレナをベッドに寝かせて添い寝して、暖かな翼で包み込んだ。

 子供達もレナの事が気になったのか、折り重なるようにレナの周りで丸くなる。

 母娘が再び眠りについたのを確認すると、セージはそっと扉を閉めて外に出て黒い毛皮の鎧を纏い、両刃斧バトルアックスを背負って矢筒を左肩から右腰に下げて短弓を左手に持つとロッジを後にした。

 まだ日も登らない深夜。

 ランタンを右手に門を開けて外に出ると、周囲をじっと静かに確認する。

 何者の動きもない事を確認して、セージは小動物を捕らえる罠群に向かって慎重に歩いて行った。

 もしかかっていれば、貴重な栄養源だ。

 細かく切り分ければ、衰弱した身体でも食べられるだろう。

 それに、ハーピーのラーラや子供達もしばらく野菜しか食べていない。

 はたして、野鼠を獲るために野菜を中に入れた金網で作られたカゴに二匹の大きめな兎が入っているのを目に留めて矢筒から一本の矢を引き抜き、逆手に持ってカゴに近付くと網目の間から狙いを定めて一匹ずつ刺し貫いて言った。


「すまんな。食べて行く為だ」


 儀式的な、感情の篭っていない言葉。

 目の奥には遣る瀬無い光が宿ったが、それも一瞬の事だった。

 セージは絶命した兎の入ったカゴを固定用の縄から外すと、短弓を矢筒に吊るして左手でカゴを持ち、右手のランタンを目線の高さまで掲げると暗い夜の森を帰路に着いた。





 簡易砦化した山小屋に戻ると、セージはバルコニーに置かれた風雨にさらされてささくれ立ったテーブルで早速兎を血抜きして捌いてその肉を小さく切り分けていった。

 骨からこそぎ落として、しばし小さな兎の骨を見つめる。

 兎の骨からダシを取るのはどうなのだろうかと思案して、考えることはやめていつものように砕いて森に撒くための骨壷に投入した。

 小さく切り分けた肉を大きめの皿に移す。

 リビングに入ると一旦テーブルの上に皿を置き、暖炉に火を入れた。

 十分に火が回った事を確認すると鉄鍋を持って外の井戸に向かい、必要な分だけ水を汲んで戻り、暖炉の上のコンロにかける。

 煮立ってきた所で兎の肉を投入して十分に火が通ったのを確認すると、一度皿に戻してテーブルへ。

 次にキッチンの上の棚から、香草をブレンドして作った調味料を入れた箱を取り出して、大胆に、適量を鍋に投入してブツ切りに切り分けた拳芋(見た目も味もジャガイモ)と丸ごとのトマトを放り込む。

 適当にしか見えない調理を、滞りなく進めて人間用のスープ皿と、ハーピー用の生野菜の皿に兎の肉を取り分けてからバルコニー側の窓から外を見て、朝日が差し込み始めた庭に視線を向けてコップに注いだスープを一足先に飲んでため息を吐いた。


「やっぱり微妙だな・・・。そもそもこっちでも、あっちの世界でも、ちゃんとした料理なんて学んでいないしな・・・」


 味付けしただけ無駄かもしれないと、セージは眉根をひそめて庭を見渡した。

 コップのスープが空になると、キッチンに銀のポットを取りに向かい、そして井戸へ。

 井戸水を汲み上げた桶にポットを投入して水を満たすと井戸の脇の平らな石の上に一度置き、水の余った桶を持って畑の方へ。

 野菜に水をかけて回ってから桶を井戸に戻して銀のポットを掴み上げてロッジへと戻り、そして、テーブルの中央にポットを置くと寝室の扉を少し開けて中を確認する。

 ベッドで所狭しと眠る女性陣をしばらく眺めて、彼はロッジから外に出てバルコニーから庭に下りる階段に腰掛けて空を仰いだ。





『麗奈ー。・・・麗奈、起きなさい』


 くぐもった、フィルターのかかったように感じる母の声。


『起きなサイ麗奈! また遅くまでゲームしテタのね?』


 だるい。

 頭が重い。

 鬱陶しそうに右手で宙を掻く。


「うー・・・うるさい・・・なぁ・・・。勉強は・・・ちゃんとしてる、でしょ・・・?」


『またそんなンで。大学受かRの? 成績だっTそンナにいい方じゃNAいンだかラ』


「大丈夫、だよ・・・。してる・・・してる・・・」


『お父さんモ、ナNも言わなイケRD、SN配SテるんでスKAラNE』


「もー、うるさい・・・ちゃんと、やってる・・・って・・・」


『イイカら、起きなSAI。お礼M、MだいっTEナいNでSHOW?』


「・・・お礼・・・?」


『MORI、DE、TASU、KETE、ITA、DAI、TE・・・』


 母の声がビニールのフィルターを通しているように音割れして聞こえる。


「何言ってるの、お母さん・・・。音割れして・・・わかんない・・・」


 目の前に差し出される母の手。

 それを掴もうとして右手を伸ばして、よく見ると、母の姿は無く母の手だけが宙に浮いている。


「んん・・・?」


 理解が追いつかないまま、宙に浮く母の手を掴もうと右手を伸ばした所で、レナの意識は覚醒した。


「・・・え、ナニコレ・・・。夢・・・?」


 気がつくと、何処か見知らぬ部屋でベッドに寝かされているのがわかった。

 布団を被っているわけでもないのに身体がポカポカと暖かい。

 体を起こそうとして、理由が判明した。

 左にレナと同じくらいの背格好のハーピーが、横になって大きな翼でレナを包み込んでくれている。

 翼からはみ出た下半身を見ると、子ハーピーに見える三匹が心地よさそうにレナの足を枕にして寝息を立てていた。


(そうか・・・。ハーピーの羽毛であったかいんだ・・・)


 首を巡らせると、ハーピーも目を覚ましたのかレナの横顔を見て口を開いて言った。


「起きたのね」


 優しげな声に、どきりとして彼女と視線を合わせる。


「肌の色はまだ悪いけれど、食事を取れば元気も出るわ。どう、まだ横になってる?」


「あー・・・、いえ・・・」


「そう? 私はまだ眠いから、横になってるわね。セージにも、そう言っておいて?」


 ハーピーは大きな翼を開いてレナを自由にしてくれる。

 森を歩き回って薄汚れてしまったブラウスとジーンズのままの体を起こすと、彼女の足に集っていた子ハーピー達も眠たそうにモゾモゾと動き出し、レナがベッドから降りて扉に向かうのを感知すると恐ろしく素早く飛び起きて彼女の後ろに集まってきた。

 目を輝かせて興味深げにレナを見上げてくる。

 ベッドに横になったままのハーピーを見ると、動じることもなく無防備に眠り続けていた。

 どうしたらいいか分からず扉を開けると、子ハーピー達はこぞってリビングに飛び出し、更に開け放たれたままの玄関口から外に元気に飛び出して行く。

 太い男の声が聞こえた。


『おい、お前ら。朝から元気なのはいいが柵の外に出るんじゃないぞ』


『おとうちゃー、はよー』

『とうちゃー、おはーよお〜』

『おはお〜』


『おう、おはよう』


『おにわー』

『おっかけっこー』

『おにわいい?』


『畑には入るなよ。滅茶苦茶にされては叶わんからな』


『めちゃめちゃー』

『くちゃくちゃー』

『くーちゃ?』


『やったらご飯抜くからな?』


『『『あーい』』』


 他愛のないやり取り。

 テーブルの上には、重ねられた木の皿にナイフとフォーク。

 暖炉にかけられた鉄鍋と、そこから香ってくるスープの匂い。

 テーブルと暖炉の間に敷かれた毛布は何のためだろうか。

 外から子ハーピー達がじゃれ合う賑やかな声が聞こえて来た。

 レナは、恐る恐る玄関口に向かってバルコニーを覗いてみると、階段に大柄な男が腰掛けているのを見て急に不安になる。

 ひょっとして、昨日のレベル15戦士だろうか。

 装備無しで絡まれたら、一撃で終わる、などと考えていると、男が振り向いて見上げて来て言った。


「なんだ、起きたのか。身体の具合はどうだ?」


「へ!? ああ、いや・・・」


「どうでもいいがな」


 庭に視線を戻して、取っ組み合いをして遊ぶ子ハーピー達を眺める。

 レナは、どうしていいか分からずにメニューを開いて大男を見た。


【名前:セージ・ニコラーエフ、真名:********、レベル:戦士15、勇者力:5】


(真名の項目がある・・・。勇者力も・・・? キーパーソンなのかな・・・?)


「またそれか。飽きんな」


 どきりとして見ると、大男が不機嫌そうに見上げて来ていた。

 顎で隣に座るよう促してくるが、どうすべきか分からずに立ち尽くすレナ。

 大男はため息を吐いて子ハーピー達に視線を戻して言った。


「お前、何処から来た?」


「え・・・。どこ、って?」


「東京か? 別の所か?」


「え・・・・・・どうして?」


「日本人なのか?」


「え、なんで?」


 大男はすっと立ち上がると、何も言わずに庭へと下りて井戸へと歩いて行く。

 相変わらず騒ぐ子ハーピー達。

 大男は井戸で桶に水を汲み上げて腰から下げた布を濡らして子ハーピー達に向かって言った。


『おい、お前ら、そろそろ飯にするぞ。こっちに来い身体拭いてやるから』


『『『あーい』』』


 大人しく大男の命令を聞く子ハーピー達。

 レナは、右手でブラウスの胸元を握りしめて大男から目が離せないでいた。


「日本人って・・・。東京って知ってる・・・? なんで? でも、どう見たって日本人じゃないよね・・・。何なの、あの人・・・?」


 子供の面倒を見る父親、もしくは小動物の飼い主のような光景に目を奪われながら、レナはここが一体何処なのか、自分は本当はどうなってしまったのか、改めて分からなくなって来ていた。






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