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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第6章 力を求める者達は
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廃墟の地下遺跡、その2

 草の生え放題な廃墟の館の庭を、魔法で除草しながら先頭を歩くのは結局フラニーの役割になった。

 レナではやり過ぎるし、ジェリスニーアの魔力は普通に休憩しただけでは回復しないため温存しておきたかったからなのだが・・・。


「ねえねえ、フラニー。やっぱりあたしがやった方が早くない?」


「アンタは・・・。私だって出来ることならやりたかないわよ! 全く、本当にこのは経験を積ませないとダメだわね」


 男達は左右に分かれて草むらの陰から何かが飛び出してきても対処できるよう警戒し、ジェリスニーアが殿を務め、レナとアミナが前後でネジン少年を挟むようにしてフラニーが先頭で草を刈りつつ館の敷地を北へと進んで行く。

 館の西側を、ミスリルグラスレイピアの切先を地面に斜め四十五度に向けて扇状に風魔法を発動させ幅3メートル程度の道を切り開いて進むフラニー。

 敷地は思っていた以上に広く、流石は広大な森を庭のようにコラキア一帯を支配していた伯爵家の家なのだと否応なく意識させられる。

 しばらく進むと、植樹された広葉樹の木々の間から北西の角の方に小屋が見えてきた。

 屋根の造りは傾斜の付いた元は青かったと思われる半円筒形の瓦が並べられた手の込んだもので、窓も枠だけに止まらず植物を模した模様のように金属のフレームで描かれた豪勢なものだと遠目にも判る。

 隊列の左を歩くベルナンがため息交じりに言った。


「流石は伯爵様だ。だった者の館だ。あんな離れでも手の込んだ造りをしている」


 ゆるりゆるりとミスリルグラスレイピアを左右に振りながら風魔法で除草しつつフラニーが顔だけ左にやや振り向いてベルナンを見る。


「人間のお貴族様の館っていえば、それが普通なのではなくて?」


「そんな訳はないだろう。財と権力を誇示したい貴族ならそうだろうが、コラキア一帯を治めるノアキア・エッソス男爵のやかたはもっと武骨な感じで窓も一般的な四角いフレームしか使っちゃいない。かつてはコラキアといえばベイルン伯爵を始め、コラキア南部一帯も含まれるほど広かったと云われている。ヒアキンス家というのはジョスファンの代で没落するまでは次期公爵家に数えられるほど力を持っていた家系だ」


「それは、かつてのヒアキンス家が古代遺跡を所有し、それらの技術を研究していたからに他なりません」


 ネジン少年が、成人手前の少年がベルナンの方に首を傾ける。


「しかし、ジョスファンの先代、ノールドス伯爵が生人形リビングドールを再生に成功してから、僕の先祖であるジョスファンが生人形だけに執着したため研究が遅れて結局公爵家に陞爵する事はなく一族は潰えたと云われているのです」


「しかし、なんだってその末裔の王子様はこうして生きてここにいるんです?」


 大仰に両手を広げて眉根を寄せて疑問の目を向けた。

 ネジン少年は大切な古文書の入ったカバンを襷掛けにした紐を両手で握りしめて前に向き直る。


「ヒアキンス家唯一の生き残り、当時コラキア南部の村を治めていた、ああ、今でいうミスレ村辺りだと思われますが、そこを治めていた弟のラスティン男爵の血筋だからです」


「ふむふむ、つまり、ネジン君は高貴な人ってことだね!」


 また何やら脳内設定を楽しむレナがネジン少年を振り向いて背中で歩きながら見下ろすと、彼は恥ずかしそうに右に顔を背けてしまった。


「高貴、とは言えませんよ。何しろ一族郎党を殺害してその魂を捧げて自らを高位不死者(ハイアンデッド)に転生させてこの森に引き籠った人物ですからね」


「解らないんだが、」


 それまで聞く専門だったキルトスが重たそうに右手に持った大盾タワーシールドを上下に揺らして首を傾げる。


「なんだって王国はヒアキンス家を取り潰すだけじゃなく、ジョスファンを討伐しなかったんだ?」


「さあ? 死貴族ワイトを単純に倒せる人がいなかったとか?」


「単に利用価値が無くなったからでしょ、遺跡の」


 つまらなそうにフラニーが言うと、アミナも同意して頷いた。


「そう思います。ジョスファン・ヒアキンスはただ生人形という存在を永遠に独占したいだけの存在になれ果てて、研究こそとん挫したものの放っておけば半永久的に勝手に遺跡を守ってくれるのですから、新たに研究者を立てるよりは封印に使ってしまおうと思ったのではないでしょうか?」


「そうですね・・・。その推理が一番しっくりきます」


 ネジン少年がアミナに同意した時、一匹の拳ほども大きな蜂が左の草むらから飛び出してベルナンの頭上を通り越し、ネジン少年の鼻先を掠めるようにホバリングしてから上昇をかけ一行を観測するように左右に首を傾げるように回しているとレナが反応して刀を抜刀し、


「わ! バカ! やめなさい!!」

「でたなモンスター!!」


 フラニーの静止も聞かず弧を描くように天を斬り、大きな蜂は胸と腹を分けるように切断されて息絶えた。

 すぐに左の茂みの奥から無数の羽音が聞こえ始める。


「おいおいおい・・・、やってくれたぞウチの姫さんが・・・! ジャイアントビーがくるぞ!!」


 長剣ロングソードを抜刀して左手の円形盾ラウンドシールドを構えるベルナン。

 嬉々として左に躍り出るレナ。

 フラニーもミスリルグラスレイピアを右半身前に出て構えると、キルトスが大盾タワーシールドを左に持ち直して小剣ショートソードを抜刀して正面のネジン少年を前に出遅れる。

 しかしアミナはため息を吐いてやや俯くだけで、ジェリスニーアに至っては残念そうに眼を閉じてやはりやや俯き首を小さく左右に振るのだった。

 理由はいたって簡単。


「スキル!!」

「ば!ちょ! お前!?」


 徐に構えるレナと慌ててジェリスニーアの方に駆け出すベルナン。


「ハイ! トリプル!」

「ば、ばっかやめなさい!?」


「カッターーーーー!!」


 フラニーの静止も間に合わず、一文字切りからの袈裟斬り、止めの刺突を繰り出し二連の斬撃と衝撃波が草を、木を吹き飛ばしながら突き進んで今まさに巣から迎撃に発進してきたジャイアントビー達を巻き込んで外壁まで到達し、豪快な破壊音を響かせて破壊してしまう。

 百数十匹いたであろうジャイアントビーも巣ごと粉微塵に粉砕されて、後には綺麗に除草された地面だけが残されていた。


「ぃよっしっ!」

「いいわけあるか!!」


 すかさずフラニーの左手がレナの頭をひっぱたく。


「ちょっ! なにすんのさあ!?」


「まったく、学ばないね! 館が崩壊するでしょうが!!」


「それだけならいいのですが」


 流石にジェリスニーアがため息を吐いた。


「レナお嬢様のスキルの威力は大したものですが、兵器工場のセキュリティが生きていれば外部からの攻撃と判断して防衛体制に入りかねません」


「うぇっ!?」


 どきりと後退るレナ。

 チラと顔を上げて半目でジェリスニーアが睨みつけてその瞳が怪しく緑色に輝いた。


「万が一セキュリティが発動していたら、わたくし敵味方識別(IFFコード)だけでは機構像リビングスタテュー姉妹達リビングドールも警戒を解かないでしょう。帰ったらセージ様に報告させていただきます」


「ふぇっ!?」


 さらに後退るレナ・アリーントーン。

 ネジン少年が泣きそうになって訴えた。


「あの、あの、大丈夫なんですか? 遺跡の調査が出来ないなんてことは・・・?」

「お約束致しかねます。私達わたくしたち対魔兵器はとてもとても優秀ですので」

「そ、そんなあ・・・」


「レーナー?」


 にじり寄るフラニー。

 後退るレナ。


「ちょ、ちょっと待とうかフランチェスカさん・・・? だってモンスターが出てですね?」


「ジャイアントビーはただのおっきいだけの虫よ! 手を出したり不用意に巣に近付かなきゃあどうってことないわ! それを、ア・ン・タ・はー・・・!」


 ばしばしとレナの頭をひっぱたくフラニー。

 これから探索開始といった所で、一行は頭を抱えるばかりだった。


「わー、ごーめーんー! 今度から気を付けるからあ!?」

「今更遅いわ! レベルだけ高いだけの初心者がー!!」





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