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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第1章 転生隠者と転移勇者
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転移者は森を彷徨いて

 小坂部麗奈、レナ・アリーントーンはメニュー画面である光る本を呼び出したまま森の中を彷徨っていた。

 小坂部麗奈にして、腑に落ちない所が多分にあって正直に言って困惑している。

 本来なら視界に映っているはずのUIが表示されていないし、メニュー画面のマップ表示ページを呼び出しても視界に収まる周囲50メートル程度しか表示されないのだ。

 何度メニューを開き直しても表示は周辺の一部だけだし、ヴァラカス地方の全景マップを開いても自分のいる大まかな位置に現在地を示すポイントが白い矢印で示されるだけで地図を正しく見る知識のない麗奈にはピンと来ない。どれほど歩いても自分のいる位置が動いているように見えないのだ。

 しかも、馴染み深いコラキア周辺の森にしては山のように起伏が大きく、木々が密林のように鬱蒼と生い茂っており、目印になるキラーナマズが生息する小川すら発見出来ない。

 それに、先程からお腹が鳴っている事にも首を傾げていた。


「なんて不親切なシステムかしら・・・。夢の中のゲームにしては妙にリアルだし。リアル志向なゲームを内心求めてるのかな私」


 メニューのページを戻してステータスを確認してみる。


【名前:レナ・アリーントーン、真名:レナ・オサカベ、レベル:戦士8、勇者力:12、状態異常:空腹】


「状態異常って、どうすれば治るのかな。兎に角食料系アイテム見つけないとだろうけど」


 森の草木を見て、ターゲットして調べようと右手をかざしてみるが、やはり視界にメッセージの類やターゲットマーカーは表示されない。


「ほんっと、面倒くさいシステムね!」


 仕方なくメニューのページをめくって、物品鑑定というページにして光る本、メニューを対象に向けてみるが、何の反応も示さない。

 人物鑑定というページでは、眺めた相手の簡易ステータスが表示されたのに対し、物品鑑定は眺めるだけでは駄目だということだろうか。

 仕方なく左手でメニューをなぞり、右手で草に触れてみる。


【鑑定結果:雑草、属性:無属性、効果:毒性(痺れ、腹痛を伴う弱性の毒草。練成不可)、価値:0】


「なるほど、こうやって調べるのね!」


 それから、片っ端に鑑定して回るが、食用に適した物も換金に適した物も見つけられずに時間だけが過ぎて行く。

 いくらなんでも、何も見つけられないのはおかしい。

 やがて、ようやく食べられそうな拳大の丸いキノコを見つけて小躍りして鑑定を試みた。


「毒キノコならカラフルなはず! 地味な茶色でボールみたいにまん丸なコレなら、きっと食べられるはず!」


【鑑定結果:毒キノコ、属性:闇、効果:毒性(猛毒。吐き気、腹痛を誘発する極めて強い毒キノコ。致死性の毒を練成可能)、価値:1】


「ゴミだったー!?」


 ガクッとその場に崩折れる。

 その時になって、レナは初めて気が付いた。

 立ち上がれないのだ。


「あ、あれ、空腹のバッドステータスって行動不能になる系?」


 空腹にお腹が鳴らなくなってどの位時間が経っていただろうか。

 いつのまにか日は落ち、森は暗闇に支配されている。

 メニューである光る本の淡い光のお陰で周りが見えなくはないが、とてもではないが探索を続けられる状態ではない。


(落ち着け、落ち着くのよレナ。ゲームのこんな初期段階で脱落とか恥ずかしすぎるでしょ。第一、ギルドの窓口でも英雄級の高レベルってお墨付きもらってて森でぶっ倒れてホームポイント戻るとか、恥ずかしすぎだから!)


 遠くでイヌ科の動物の遠吠えが聞こえた。

 よくアニメなどで聞く狼の類ではない。もっと湿った感じのネットリとした声質。

 コヨーテ、とでも言うのだろうか。


「そうだ、動物系のモンスターを倒せば、食材が手に入るかも! よしこーい、よしこーい、動物系・・・」


 レナはメニュー画面の光を頼りにその場で待ち伏せる。

 しかし、一向に敵は姿を現さない。

 やがて、周囲から草を踏みしめる微かな音を聞き、そちらに振り向いて素剣を抜刀して盾を構えると、メニューが光の粒と霧散して消えた。


(げっ、戦闘態勢だとメニュー使えないの!?)


 唐突に辺りが暗闇に支配される。

 星明かりがあれば、どうにかなるかとも思っていたが、深い森の中には一切の夜の光は届かず、肉眼で周囲の状況を確認するのは不可能に近い。

 おまけに空腹のせいでまともに立てず、片膝をついて武具を構えている有様だ。

 レベル補正があるから、一撃でやられる事は無いだろうと思ってどうにかなると思ったが、視界がゼロで身動きがままならないとなれば話は変わってくる。


(やばいやばいやばいやばい、どうしよう、全然見えないんだけど! どんなクソゲーよコレ!)


 音が近付いてくる。

 大きな獣の気配だ。

 この世界に落ちる前にプレイしたクエストを思い出してみる。

 そうだ、あの時、格上レベルのキラーベアが出現した。もし、もしも、この森に格上レベルの獣系モンスターがいたらどうだろう?


(それはマズイ! この状況でそれはマズイ!)


 冷や汗が頬を伝う。

 大型の獣は、レナに気付いた様子で、しかし襲いかかる事はせずにじっと伺ってきていた。

 そして、レナがじっとしているのも辛くなって右手に持つ剣が小刻みに震えると、それに警戒したのか大きく跳ねるようにその場を去って行く。

 蹄で地面をえぐる重い音が四つ。四足動物だ。

 大型の四足動物。


(鹿か何か? た、助かった・・・)


 どっと汗が吹き出して、背中を一気に濡らしてブラウスが肌に貼り付く。

 安心したからか肌にまとわりつく衣服の感触に不快感を覚える。

 兎も角、こんな視界ゼロで狩など不可能だ。メニューを呼び出して安全な場所まで、少なくとも視界を確保できる場所まで移動しなくては。

 手元を手探りで剣を鞘に収めると、右手を振ってメニューを呼び出して改めて周囲を伺う。と、チラッと遠くに光のような物を認めて目を見張った。

 しかも、僅かに動いている。

 人だ。もしかしたら人型の敵かもしれない、とは考えなかった。

 ゲームの中にしてはリアルすぎる空腹感に、オブジェクトの発する匂い。地面を踏みしめる枯葉の感触。獣の息吹。

 心のどこかに引っかかるところはあったが、レナの思考はこれはゲームの夢を見ているのだと強く想い描いている。故に、危機感は今まで感じていなかったが、流石に暗闇の中での不自由な戦闘を考えた時は心が折れそうになった。

 そうした中での、暗闇にポツリと輝く人の物と思しき光。

 危機感を感じるより先に、レナは安堵を覚えてそちらに向かって無我夢中で出来る限り急いで向かって行った。

 光は付かず離れずの距離をゆっくりと移動している。

 やがて、見覚えのある倒木が横たわった枝払いされていない獣道に出て、その途端、導としてあった光が闇の中に消えた。


「え、嘘でしょ!? ここに来て消える!?」


 しかし、よく見ると獣道には星の光が届くようでどうにか道を進む事が出来る。

 コラキアに戻れる。そう考えて道を戻ろうとして、メニューのマップに視線を落としてやめた。

 コラキアを目指すには遠すぎるし、空腹で倒れてしまいそうだ。

 それに、途中光の届かない所を通らなくてはならないかも知れない。

 レナは、一縷の望みをかけて、昼間の簡易砦目指して歩いて行った。






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