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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第6章 力を求める者達は
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集う者達、その1

 レナの剣術の特訓は、毎日続いていた。

 レンカも驚くほどの速さで上達し、始めは立ち合いも瞬殺で負けていたレナも五合は打ち合えるほどになっている。


「せやっ!」


 正面からレナがレンカに木刀で斬りかかり、レンカが正眼に構えたままこれを打ち払うと一撃で軌道を逸らされていたレナも木刀を落とすことなく耐えて二合、三合と立て続けに木刀を振り下ろし、構えを解かずにわずかに後退るだけで軽く受け止めるレンカ。

 目にも止まらぬ速さで大上段に振りかぶったレナが大きく一歩踏み込んで込んで打ち下ろした一撃をレンカが動きを合わせて前に踏み込んで正面から受け止め鍔迫り合う。


「ぐぎっ、んぎぎぎぎ」


「腕力は確かに必要ですが、まだまだ腕力に頼りすぎですね」


 一瞬力を入れたと思ったらすっとそれを逃し軌道を右に逸らすレンカ。

 誘われるように重心が前にずらされて、レナがたたらを踏んで左前に、レンカの右脇にバランスを崩して前に出るが、レナもすかさず左脚を前に踏み込んで耐え一文字に木刀を一閃するが、すでにレンカの姿は無く、レナの後方に受け流しながら回り込みながら上段に構えたレンカが木刀を真向から振り下ろすと、「スカーン」と小気味良い音を立てて脳天が打ち据えられ、次の瞬間レナが木刀を取りこぼしてその場に蹲ってしまった。


「ーーーーーっ、んひい! んんっいったーーーーーい!!」


「精進が足りませんね」


「なんの、今度こそ!!」


 冒険者ギルド裏で続けられる立ち合いの光景を眺めて、フラニーとアミナがため息を吐いた。


「意外と続いてるじゃない、あの子」


「そうですね。以前より迷いが無くなったように思います」


「戦闘素人のアミナの目にもそう映るんなら、上達もしてるってモノね」


 立ち合いを終えて、互いに礼をするレナとレンカ。

 アミナがタオルを手に二人に近付こうとした時、厩の向こう、表通りへと通じる脇道から三人組のガラの悪そうな男が姿を現して嘲るように笑った。

 神経質そうな顔の痩せ型長身の男が腕組みをして仁王立ちで立ち、丸太のような二の腕の横幅の広い筋肉の塊のような四角顔の大男が鞘ごとの馬も一撃で叩き斬れそうな大剣を右肩に担ぎ、左目の下と右頬に戦傷が痛々しい人相の悪い男が壁に背を預けて傾けるように顔を向けにんまりと笑う。

 キョウ・レンカが不愉快そうに切れ長の目で冷たく見つめ返して言った。


「何か、御用ですか?」


 顔に傷の男が鼻で笑う。


「きっひっ、いやあ何。毎日、毎日、精が出るなあってね?」


 ゲラゲラと二人の男が釣られて笑い、レナが身構えるが、レンカが左手を上げて制して続ける。


「人の鍛練を笑う暇があるのですね」


「フフーン。別にい?」


「それで、何用で御座いますか?」


「何用で御座いますか!? キヒヒッ、まるでお貴族様みてえなご丁寧ぶりだなおい」


「相手にしない方が良いわよ!」


 フラニーが双方の間に割って入り、レンカの手を取ろうとした。

 大男が鞘ごとの大剣を振り回しながら突撃してフラニー目掛けて右から左にフルスイングする。


「ちょ、お!?」


 間一髪、フラニーが細剣レイピアを抜刀して大剣の一撃を受け止めながら力に乗って飛翔して防ぎ切るが、彼女の細剣は真ん中からくの字にひしゃげてしまった。


「ぐふぇふぇふぇふぇっ。すまねえだなあ、ちょっちょいと力ぁ入れすぎちまった。ぐふぇ」


「こんの・・・!」


 怒ったフラニーが左手を振るって魔法を発動しようとするのもレンカが木刀を水平に持ち上げて静止する。

 キッと男達を見渡して言った。


「どうやら礼儀というものを知らないようですね。わたくしの友人に刃を向けるとは。身の程を知りなさい」


「身の程だあ!? キヒヒッ。いいね見せてもらいたいねえ。ガルガス、軽く遊んでやれ!!」


「がっ合点だアニキい!」


 大男が大剣を振り上げるより先に、レンカが右足一歩踏み出して木刀を踊るように手首のスナップを効かせて前にくるりと回転させて大男の右肘を打ち抜く。

 ビクンと身を震わせて、大男が大剣を地面に落として肘を抱えて後退った。


「ういいっいでえ! いっいでーーーーー!!」


「チッ。ヘルデン」


「了解だ」


 するりと流れるように前に出る神経質そうな長身の男。

 レンカに突進しながら腰の後ろにバツの字に下げた二刀の短剣を抜刀して突き掛かったが、レナが側面から逆袈裟に切り上げて男の右手の短剣を弾き弾かれた短剣が宙を舞った。

 レナの視線が「それ」に付いていくのを見て左手の短剣が彼女の胸元を狙うが、返す手で左袈裟斬りに木刀が翻り左手首を撃ち抜いて激痛に男が短剣を取りこぼしてしまう。


「ぐう!?」


「あっはっはー、ほーんとうだあ。視線だけで誘導出来るもんだねえ」


「レナさん、油断大敵ですよ。貴女には目を使わずに敵の動きを捉えるのはまだ早い」


「今出来たし!」


「偶然成功したにすぎません。相手の太刀筋が予測通りでなかったら、刺されていますよ?」


「うぐっ」


「チッ、使えねえ奴らだ。俺自ら出るしかねェとはなあ」


 顔に傷の男が素剣を抜刀して一歩踏み出す。

 レンカが一呼吸置いて木刀を正眼に構え、男が素剣を右腰に両手で水平に構えて双方が激突しようかという時、ギルドの裏口の扉が開き禿頭の大男ベインが何事か呟きながら姿を現し一瞬で場が凍りついた。


「しかしよう、急な話だよなギルドマスター


「領主の命令ならば仕方あるまいよ。称号を得るということは、それだけ束縛もされるという事だ」


 ベインの後から、この場の誰よりも大きな体躯の巨漢の男が、上質な黒っぽい茶色のズボンにオリーブ色の飾り襟のチュニックに身を包んだセージ・ニコラーエフが姿を見せて、顔に傷の男が、いや、レナ達を襲撃したならず者達が一斉に顔面蒼白になって冷たい汗をツツと頬に伝う。


(なっ、なんだっ、この悪寒は!!)

(このプレッシャー・・・。人間じゃあない!)

(こここ、こわくて、一歩も動けねえだあ・・・)


 ジロリとセージが三人のならず者を睨み下ろし、蛇に睨まれたカエルのように無様に佇むしか出来ない。

 セージは興味なさそうにレンカに問うた。


「喧嘩か?」


 レンカはすっと左手を下腹部に折り畳み軽くお辞儀をしてみせる。


「申し訳ございませぬセージ殿。いきなり襲い掛かってきました故」


「別に責めているわけじゃない」


「はっ」


「時にレナ」


 セージに声をかけられて満面の笑みを浮かべる少女。


「少しは腕を上げたか」


「ふっふーん! 褒めてくれても良いのよっ!? 褒めて褒めてっ」


「その調子で精進しろ」


「ちょーっ!? ちょっとくらい褒めてくれてもいいじゃん!?」


「たかが喧嘩に勝ったくらいで調子に乗るな」


「ちぇー・・・」


 顔に傷の男が青い顔のままギリギリと剣の柄を苛立たしげに握りしめる。


(喧嘩!? たかが喧嘩だとお! 蹴散らすつもりで戦ったのに、たかが、喧嘩!? 俺達など歯牙にかけるほどもねえってか!?)


 何事も無かったかのようにその場を通り抜けていくセージ・ニコラーエフ。

 厩の方からエッソス家の鎧に身を包んだ兵士が姿を現し彼に頭を垂れる。


「サー・セージ・ニコラーエフ。お迎えにあがりました」


 ならず者達が一層顔面を青くする。


(((サー・セージっ!? こ、こ、こ、この方があ!?)))


 彼らの目的は、ギルドの腕に覚えある者を倒して名を上げ、新たに準騎士の称号を貰い受けたとされる者の配下に加えてもらう事。

 そして、それが目の前のセージと呼ばれた男と悟り、一斉に平伏した。


「と、と、と、とんだっ、御無礼を!」


 セージが苛立たしげに顔に傷の男を視線だけで殺せそうな勢いで睨みつける。


「何だ?」


「ひっ・・・。お、俺、いや、自分はっ、南西のオルザイル伯爵領から旅して来た、戦士ゴーバル・ラッセル! こ、コイツらは自分の弟分の、ヘルデン・ズノーンと、ガルガス・ベガ!」

「ヘルデン・ズノーンであります!」

「が、ガルガスって言うだ!」

「「「三人揃って、赤い三剣士!!」」」一斉に左手の拳の甲を見せて同じ意匠の赤いグローブを見せる。


「「「我ら赤い三剣士を、何卒サーの配下にっ!」」」


「くだらん」


「「「なあ!?」」」


「喧嘩しか脳の無い野犬に用は無い。失せろ」


 セージは迎えの兵士の元に行くと、あらかじめ用意されていた漆黒の大馬に跨ってベインを見下ろし、三人を無視して言った。


「ギルドの仕事は今日は貴様が代行しておいてくれ。判らない案件はアンデルスのジジイに、」


 言っている側から裏口からアンデルス・ヴァシューズが姿を見せて両手を腰の後ろに組み姿勢正しく言う。


「ほう、セージ・ニコラーエフ。貴様も御領主に呼ばれたか」


「チッ・・・。俺の妻に、」


 脇道から、壁から顔を覗かせ眩い金髪を靡かせて健康的な褐色の肌にうっすら汗を浮かべ楽しげにセージを見上げてくる彼の正妻アニアス。


「セージ! 小父様に呼ばれたんだって!?」

「おい、どこからその話を、」

「盗賊ギルドの情報網を甘く見ないことだね! あたしも行くよ!」

「バカを言うんじゃない。冒険者ギルドの仕事はどうするんだ」

「ジェリスニーアに任せればいい!」

「ふざけるな。お前は留守番していろ」

「あたしも行くぞ!」

「おい、話を聞けアニアス」

「あたしもっ! 行くんだぞっ!?」


 全く言うことを聞いてくれる雰囲気ではない。

 アンデルスが悪い笑みを浮かべて言った。


「仮にも盗賊ギルドの幹部でもあるのだ。妻の一人連れて行っても問題はあるまいよ」


「おい、いい加減な事を言うんじゃないジジイ」


「あたしも行くぞっ!?」


 右手で頭を抱えるセージ・ニコラーエフ。

 エッソス家の兵士が苦笑して言った。


「御領主様は、サー・セージの奥方様も、機会が在れば共にと仰っておりましたので。問題はないものと思われますが」


「ええい、クソ・・・」


 諦めて右手を差し出すセージ。

 両手でそれを掴み、セージの馬に、彼の股の前に華麗に跨るアニアス。

 セージはレンカに視線を移してからベインに再び命令した。


「業務自体はジェリスニーアが把握している。そこの、キョウ・レンカは東国の貴族出身だ。色々と判断は出来るだろう。二人に協力してもらって業務を代行しておいてくれ」


「おい、ちょっと待ってくれギルド長! 流石に無理あるだろう!?」


「それでも判断つかなければはみいておいて構わん。戻ったら俺が見る」


「はぁ・・・。たく。わかったよ、気をつけて行ってきてくれ」


「すまんな。あとは頼む」


 そしてレナに視線を移し、フラニーに向けて言う。


「サボらせるなよ」


「わかってるわよ稼がないといけないのだし」


 肩をすくませ、折れ曲がってしまった細剣を目立つように掲げて見せるフラニー。

 ため息を吐いてセージが言った。


「ミミチャラに治させろ。アイツはまだ試用期間だからな。鉄鉱石のストックもまだあるからな」


「お言葉に甘えさせていただくわ」


「それとベイン」


「へい、ギルドマスター


「その三匹の野犬は追い出しておけよ」


「「「そ、そんな待ってくだせえ!?」」」


「喧嘩っ早いだけの野犬に用は無いからな」


 一通り会話が終わったと判断して、アンデルス・ヴァシューズが一同の前を通り過ぎエッソス家の兵士が用意したらしい馬車へ乗車し、エッソス家の兵士は馬車の御者台に。

 セージは無意識にではあったが意味深な視線をレンカに向け、手綱を捌いて馬車に並走すると一同を残して去って行った。

 視線に気付いたらしいアニアスに右太腿を拳で叩かれている。

 そして顔面蒼白なまま項垂れる赤い三剣士。

 ベインが気の毒そうにその小さく見える背中に声をかけた。


「間が悪かったなオメェら。ギルド長の義理とはいえ娘に剣を向けたんだ。当分許しちゃもらえねえだろうよ」


「そ、そんなの知るわけがねえだろう!」


「ゴーバルって言ったっけ? どうしてもってんなら、うちのギルドに冒険者登録しな。セージは野犬にゃあ用は無えって言ったんだぜ」


「なん、だと?」


「実績積みな。腕っ節だけで認めてくれるほど安直じゃねえよセージ・ニコラーエフって男は。まあ話はそっからだな」


 キョウ・レンカが一歩前に出て木刀を左腰に収める。


「ベイン殿。それで仕事というのは」

「ああ、そうだそうだ。ったく、忙しくなったもんだぜ」


 二人並んで裏口からギルドへ戻って行く。

 フラニーはレナとアミナを促して工房の方へ。


「たく、えらい目にあったわね」

「災難だったねえフラニー!」

「あんたもあんな奴らに絡まれてんじゃないわよ!」

「まぁまぁ、お二人とも。まずはフラニーお姉様の剣を直さないとですしね」

「あーもー! 依頼こなさないといけないってのにモー!!」

「どーどー、フラニー。どーどー」

「私は馬じゃないわよ!?」


 取り残された三人の男が力なく立ち上がる。

 大きく肩を落としてため息を吐いた。


「兄者・・・」


「言うなヘルデン」


「けっけどっ、よう。アニキぃ」


「情けねえ声出すんじゃねえガルガス。出直しだ」


 男達は寂しげに肩を落としたまま、何処かへと力なく歩み去って行くのだった。






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