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転生隠者と転移勇者 -ヴァラカスの黒き闘犬-  作者: 拉田九郎
第6章 力を求める者達は
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鍛練と鍛錬

「とあーーーーー!」


 レナが奇声を上げて重い木刀を大上段に振り上げ突進する。

 冒険者ギルド裏手の比較的に広い路地、厩付近の広場でレナはレンカに剣術の手解きを受けていた。


「メーーーーーン!!」


 俊速の一撃は、正眼に構えたレンカが木刀をわずかに左右に揺らしただけで勢いよく弾かれてレナがたたらを踏み左に抜けるように振り下ろしてしまう。

 すぐさまレンカの木刀が手首のスナップを効かせてレナの右手の小手を強かに打ち据えて、レナは木刀を取り落としてしまった。

 ほんの少し触れただけと言うのに前腕がビリビリと痺れて力が入らない。


「うひいいいいっ、び、ビリビリするううう!?」

「拾いなさい!!」


 すぐさまレンカの喝が入って涙目なレナ・アリーントーン。


「ちょ、まっ、めちゃくちゃ手が痺れてるから!?」


「拾いなさい。まだ稽古は始まったばかりですよ?」


 うへぇ、と毒付きながらも有無を言わせない雰囲気でゆるりと屈み込み木刀を拾い上げるレナ。

 涙目のままどうにか正眼に構え直すとレンカの喝が再び飛んだ。


「奇声を上げるのは止めなさい。剣道ではないのです。あなたの奇声は次の行動に現れやすい、準備動作のための気合は相手に気取らせるだけです。上げるなら乾坤一擲、必殺の一撃、それを叩き込む一瞬に込めるものです」


「そうしてるんだけど!?」


「なっていないから落とすのです。刀は武士の命。それを取り落とすと言うことはすなわち死に直結すると知りなさい」


 言うが早いか、摺り足一歩で間合いを詰めるやレンカの木刀の一太刀が一文字に閃き、レナの木刀に触れる一瞬。


「喝っ!!」


 凄まじく重い、それでいて重さを感じない一撃にレナの手首が震えて、さりとて木刀は叩き落とされず、ただ真ん中から綺麗に切断されて半分が地面に転がった。


「ひえええええ!? 木刀だよ!? コレ木刀だよね真剣じゃ無いよねえ!?」


「必殺の一撃というのはこうするのです。ただ奇声をあげているだけで威嚇出来るのは格下のみ。そのような戦い、決闘ならいざ知らず実戦では何の役にも立たぬと知りなさいっ」


「鬼教官ーーーーー!?」


 キョウ・レンカのスパルタ修行は、始まったばかりだった。





 冒険者ギルドキッチンの隣の倉庫、そのもう一つ隣の狭すぎない、しかし広くも無いやや暗い土間の部屋がギルドの鍛治工房だった。

 出先から帰って来たセージに紹介されて知り合ったドワーフのミミチャラと東洋人イズルヒビトのゴンゾン・ウガルは、早速保管されていた鉄鉱石と炭を手に取って見たが、ウガルがすぐに土間に直接腰を下ろして準備をやめてしまう。


「あ、あれ!? えっと!? ど、どうしたんですか師匠!?」


「ガッハッハッハ! 師匠というのはこそばゆいですな!! なに、鍛冶師としては其方の方が腕は上であろうから某の事は気兼ねなくウガルと呼んでくれて結構!」


「いやっ、それよりもいきなり匙を投げるように座り込んでしまっては・・・」


「ふむ」


 ゴンゾン・ウガルは樹皮の網カゴに山と入れられた炭の一つを取って視線の高さにつまみ上げて見つめて見せて言った。


「この炭を見て、どう思うかな」


「どうって、ただの炭ですが」


 別の炭を左手に持って同じように持ち上げて見せる。


「では、こちらはどうか」


「ただの炭・・・あっ」


「ガッハハハ! 気が付いたようですな!?」


 ミミチャラもウガルに習って炭を両手で一つずつ摘み上げて比べて言った。


「サイズがマチマチ・・・」


「左様。これでは熱にムラが出る。良い鉄は打てませぬな。何より」炭をカゴに戻して鉄鉱石を手に取る「この鉄鉱石を鍛えるのに十分な火力は得られませんな」


「つ、つまり?」


「これでは刀は打てませぬ」


「それでは困ります!! ど、どうにかしないと・・・!」


 ドワーフのオーバーオール娘がオロオロし出すのを子供を見守るように楽しげに見つめるウガル。


「そうですなあ、まずは均等な大きさの炭を選別しましょう。その上で、新しい木炭を西区で買って同じ大きさに切り揃えましょうぞ」


「でも、それじゃあ納品期日に間に合いません!!」


「現実的に話せばセージ殿はわかってくれましょう! 打てぬものは打てぬ、仕方がありませぬガハハ!」


「そんな悠長な!?」


「では! 某は木炭の買い出しに行きます故、セージ殿に相談してきてくだされ!」


「ちょ、まっ!?」


「それもギルド専属鍛冶師としての役目ですぞ!?」


 言うが早いかすっくと立ち上がり、大股で工房を出て行ってしまう。

 取り残されてミミチャラは両手を戦慄かせて涙目で扉の無い戸口を見つめるしかなかった。


「ううう・・・なんでしょうなんでしょう。まさか見掛け倒しの東洋人なんじゃあ? アレ、絶対刀打つ気ないよねぇ・・・」





「素材が悪いか」


「左様」


 ギルド酒場、階段側のいつものカウンター席で軽食を取っていたセージにウガルは直に話を付けに来ていた。

 セージのやや左後ろに立ち、いつもの大声ではなく落ち着いた声で淡々と語るゴンゾン・ウガル。


「適当な鉄は鍛えられましょうが、良い刀は打てませぬな」


「材料の仕入れに幾ら必要なんだ」


「木炭の量にもよりまするが、財布を持てる者にご同道いただければ助かり申す」


「サマエラに同行させよう。他には、何かあるのか?」


「ドワーフには鍛冶師として金属を鍛える魔法を固有スキルとして持っておる筈ですが、ミミチャラはどうも落ち着きが無さそうでしてな。直接セージ殿に期限について相談するよう申し付けてあるのですが、彼女が落ち着いて仕事に取り組めるよう取りなしてもらいたいのです」


 セージはバーグ茶をくいと一飲みしてお椀をカウンターに置いてため息を吐く。


「あの娘自体の問題だろうが」


「あの歳で自分の工房が持てないドワーフは自身の技に自信を持てておらんのです。某の見立て通りなら、やる気と落ち着いて打てる環境さえ与えてやれば刀は打てるはずですから、後押ししてやってもらえませぬか」


「貴様だけでも打てるのだろう?」


「ガハハ! いかにも!! しかし、ドワーフの技には敵いますまい。あの娘に自信を持たせてやる気を起こさせれば、一級品も打てましょうから。一級の刀が打てれば他の武具も作れましょうし」


「言うことはわかった。考えておこう」


「よろしくお頼み申す!」


 一通り話が終わると、セージはカウンターの中で仕事に励む化粧の濃いギャル系の受付嬢に顎を向けて呼びつけた。


「サマエラ!」


 すぐに手にしていた書類をケースに戻しカウンターの下にしまってセージの元に小走りで駆けてくる。


「はーっい、お呼ばれしまっしたかあ?」


「鍛冶に必要な材料の買い出しに、このゴンゾン・ウガルと出かけて来てくれ」


「賜りまーっした。それっじゃあ〜、よろしっくお願いしまっすぅねゴンゾーさん!」


「ゴンゾン・ウガルでござる」


「ゴンゾー・ガルさっんっ?」


「ガッハハハ!! よろしくお頼み申す!!」






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