呆れる隠者と困ったエルフ
門を修繕し終わった時は既に日は登りきっていた。
相変わらず本を見つめ続ける冒険者の女?を睨みつけて、セージはフラニーに不機嫌そうな視線を向ける。
「おい、エルフ娘。説明しろ。何であんな奴を連れてきた。そもそも、二度と来るなと言っておいたはずだが」
申し訳なさそうに肩をすくめるフラニーは、膝の埃を払って立ち上がって言う。
「ギルドからゴブリン退治の依頼が出て、ここを前哨基地にするから山小屋を占拠する者を排除するように御触れが出たのよ。相手が貴方だって知らない人も多いし、そもそもこの間のハリヤとの戦いだって半信半疑で信じていない冒険者の方が圧倒的に多いのよ。馬鹿ばかりで本当にウンザリ」
「うんざりなのはこっちの方だ。アレもどうにかしろ」
そう言って件の本と格闘し続ける女、レナアリーントーンを顎で指すセージ。
フラニーもまた、レナの有り様を見てため息を吐いた。
「貴方に負ければ目がさめると思ったんだけど・・・。何の効果もなかったわね・・・」
「勝手な事を」
「それで、ここをゴブリン退治の前哨基地にしたいんだけど」
「ふざけるなよ。他にも冒険者を呼び込むつもりか」
セージはフラニーの胸元に右手の人差し指を突きつけて睨み付けた。
人の家を勝手に使おうなど、都合が良すぎるだろう。
しかし、そんなセージの態度に、レナが立ち上がって抗議の声を上げた。
「NPCのくせになんて生意気な態度!? 信じらんない! どの家だってオブジェクトだって、プレイヤーである勇者の私には使う権利があるわ!」
「黙れゲーム脳。その妙ちくりんな魔法の本をさっさと閉じろ」
「メニュー画面はプレイヤーの特権ですぅー! あとマップに表示された施設だって好きに調べる権利があるんだすからね!」
「勝手に俺の家を使わせるわけないだろう。大概にしないとブチ殺すぞ」
「ふんっ。やれるものならやってみなさいよ、このオタンコナス。NPCがプレイヤーに不埒を働こうなんざ、」
「全くやかましい奴だ・・・」
セージはレナの淡く輝く本に左手を触れると勢いよく閉じる。
「ちょ! 何勝手に閉じてるのよ! てか、何でNPCが触れるわけ!?」
セージは何も言わずに彼女の右腕を右手で掴むと強引に引きずって門へと向かう。
「い、痛い! ちょっと! 何すんのよ離しなさいよ!」
そして、何も言わずに左手で門を押し開けると彼女を力づくで外に放り出した。
たまらずたたらを踏んで枯れた葉っぱの積もる森の地面に四つん這いに倒れ込むレナ。
彼女が立ち上がる隙も与えずに、セージは門を引いて素早く閉じてしまった。
門の向こうから抗議の声が上がる。
『ちょっと、どう言うつもりよ!? また門ぶち壊すわよ!?』
「やれるものならやってみろ、だが次はただで済むと思うなよ!」
『許さないんだからね! 絶対許さないんだからね!』
「知った事か! コレがゲームの中なら空腹にもならんのだろうしマップも見えるのだろう! さっさと町にでも戻って新しい仲間でも連れてきたらどうだ!?」
『絶対討伐してやる! このクソ野郎!!』
そして駆けて離れて行く足音。
呆れたようにセージが振り向いて門を離れると、エルフ娘のフラニーが申し訳なさそうにモジモジして言った。
「あの、ごめんなさい・・・。こう言う事になるとは・・・」
セージはしかし、怒ることはせず、さりとて歓迎もせずに淡々として言った。
「順を追って話せ。気は進まんが、力にならないこともない」
「正直、その言葉が聞けるとは思わなかったからちょっと安心したけど。私も彼女についてはよくわかってないの。話せば長くなるのだけれど・・・」
「はぁ・・・。立ち話も何だ、うちに来い」
セージはフラニーを促すとロッジへと戻って行った。
リビングに入ると、暖炉の前に座り込んで子供達を翼で抱えるラーラが不思議そうに見上げてくる。
「セージ、どうなったの?」
「どうもこうもない。今から話を聞く所だ」
ラーラの翼の中から顔だけ出して、子供達がフラニーを見上げて首を小刻みに傾げたり周りを見回したりして言った。
「耳長ー」
「耳長?」
「お腹すいたー」
「はいはい、ちょっと待ってね」
子供をあやすラーラ。
セージはため息を吐いて武器を壁に立て掛けると、外に出て言った。
「何か取ってくる」
「待ってセージ、私も行くわ。このエルフなら、子供達を傷つけたりしないわよね?」
と、ラーラが子供達を離すと、子供達は興味津々でエルフ娘のフラニーに近寄って行って首を上下に振りながら遠巻きに観察し始めた。
困った様子で苦笑するフラニー。
「子守は苦手なんだけど・・・」
「別に、ただ一緒にいてくれるだけでいいわ」
「あ、そう・・・」
セージを追って外に出て行くラーラ。
緊張した面持ちでフラニーが椅子に座ると、子供達はぴょこんと跳んでテーブルの上に乗ると寄り添って固まり、周囲を見回したりフラニーの事を観察したりする。
困り果てた様子で微笑みかけてみるフラニー。
「こ、こんにちはー。私、フランチェスカよ。貴方達はー?」
「チチッ!」
「キョロキョロ・・・」
「ヂーヂー」
鳥の鳴き声で反応して、子供達はその場に寄り添うようにうずくまると安心したようにうつらうつらし始めて、ややもしないでお互いの肩に首を預けて眠り始めてしまった。
笑うしかないフラニー。
「これ、どうすればいいのかしら。私・・・」
大人しく待つことしか出来ずに、開かれたままの玄関口に視線を向けると、諦めたように深々とため息を吐いた。




