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幕間、そのいんぼうはノーカンです

 ずしりと頭が重い。

 ベッドの上で寝がえりをうとうとするが、右からしっかりと抱き着かれているため容易には体を動かせない。

 ゆっくりと首を向ける。

 そこには、美しい娘の寝顔があった。


(ラーラ・・・)


 暗い深夜の寝室の天井を見上げると、板張りの天井の木目がひとつひとつはっきりと、数えられるほどに明確に見える。


(俺は・・・?)


 左に首を向ける。

 満足そうに静かな寝息を立てる金髪褐色肌の美女が、セージに身体を向けて抱きしめて来ていた。





「ん-・・・」


 朝食はすでに終えている時間。

 セージは頭が重いのが治らず左肘をテーブルについて右手で額を抑えて苦悶の表情を浮かべていた。

 宿の外とロビーの清掃を終えて戻ってきたシェーンが気を利かせてキッチンに歩み寄り、上の棚から金属製のコップを一つ掴むとキッチンの脇に置かれた水瓶から柄杓で水を汲み、落ち着いた足取りでセージの左に近付きテーブルにコップをそっと置いてくれる。


小父様おじさま、大丈夫ですか?」


 ウェーブがかった金髪の褐色肌の少女は、大男の頭に響かないよう努めて優し気に語りかけ、セージは気遣いを感じ取って顔を少し向けると、作り笑いを浮かべて答えた。


「ああ、すまんなシェーン・・・。何か昨日、食い合わせの悪いものでも食べたかな」


「ええと、献立、今度はもっと気を付けますね」


「いや、シェーンの出してくれた夕食じゃない。ん-・・・。しかし、」両手で額を抑えて顔を洗うように擦る「ううむ、帰り間際にギルドで飲んだ酒が悪いのかも知れん」


「どんなお酒を飲まれたんですか?」


「ん-、新しく入荷したウィスキーだと言っていたんだが。なんともな・・・?」


「でも、小父様おじさまがお酒に吞まれるなんて、初めてですよね」


「酒には強い方だと思っていたんだがな。しかも、帰ってきてからの記憶がどうやら無いみたいでな」


「えっ!?」


 なんだか酷く傷ついたような驚き方をするシェーンに、セージは何かおかしなことを言っただろうかと不安げに視線を送る。

 シェーンは頬をプルプルと震わせて、緑色のメイド服のお腹のポケットから小さな包み紙を取り出しセージの前に置いたコップの脇にそっと置いて言った。


「いちおう、お薬置いておきますね。二日酔いの薬ですけど、効くといいんですけど」


「ん? いや、多分二日酔いだろう。ありがたくもらっておく」


「ええと、本当に効くといいんですけど。呑んだら少し横になっていてくださいね?」


「うむ」


 曖昧な返事をして頭を抱えたままのセージ。

 シェーンは少し怒り気味で食堂を後にしてロビーのカウンターに続く廊下を肩を怒らせて歩いて行った。





 シェイニー・イン。ロビー。

 身体の線がはっきりと分かるほど密着した赤い革鎧に身を纏った金髪褐色肌の娘が待合所の丸テーブルに小剣の鞘を置き、背もたれのついた簡易な木製の椅子に座り手持ち無沙汰に小剣を油紙で磨いている。

 その正面には同様の椅子にハーピーの娘がピンク色の衣を纏い翼の腕を閉じて口のあたりを関節の先に備わった小さな手で覆いながらふわっと軽いあくびを漏らしていた。


「ふあ・・・あ」


「なんだラーラ。寝不足か?」


「そういうアニアスはどうなの?」


「私は快調だっ」


「あの薬、たしかに効き目はあったけど、うーん。激しすぎて・・・。本当にあの薬大丈夫なのかしら?」


「精力の落ちた老いた夫婦が時折使う薬だ。別段毒という訳じゃない」


「でもセージ、昨日は激しすぎよ」


「って、セージが本当に不能になったら困ると薬を頼んできたのはお前だろ!?」


「いつまでたっても初夜が来ないって、先に言い出したのはアニアスでしょ?」


「むっ、そうだけど・・・!」


 カウンターの奥で扉が乱暴に開かれる。

 ウェーブがかった金髪褐色肌の少女が目を吊り上げ、肩を怒らせて二人の座るテーブルにずんずんと歩み寄ってきた。


「あら?」


「やあシェーン。セージは・・・」シェーンの憤怒にこめかみがピクついている顔を見て「な、何を怒っているのかな・・・?」


「いま、薬がどうとか言ってましたね?」


 少し怖気ずくアニアスを仁王立ちで見下ろして、シェーンはじろりと目を光らせる。


「ええ? いっ、たっ、けっ、かなぁ・・・。なあラーラ!?」


「え!? い、いえ・・・そんな話は・・・?」


「お二人とも・・・!」


「「はい・・・」」


「媚薬は精力が衰えてきた殿方が無理やり元気になるために使うお薬ですっ」


「そ、そうなのかー。大変なくすりだなあー」


 わざとらしくボケるアニアスをキッと睨み据える。


「しかもお酒に混ぜたでしょう! 小父様に気取られるから!?」


「いっ!? なぜそれを!」


「やっぱり!!」


 ビシッとシェーンはアニアスを指差して言った。


「アルコールに混ぜると酷い睡眠効果が残るんです! だから小父様具合が悪くってずっと頭抱えてるんですよ!? しかも昨夜の記憶がないってっ!」


「「ええっ!?」」


 ラーラーとアニアスが酷く傷ついた驚き方をする。

 シェーンは目が座った様子で二人を見下ろして言った。


「ノーカンです」


「え?」

「の、ノーカン? だって?」


「ノーカンです! 小父様をおくすりでどうにかしてお二人で楽しんだってことですよね!? あとお薬で小父様を誘うの今後一切禁止ですっっっ!!」


「そ、そんな・・・」ガクっとくずおれるラーラ。

「昨日の事、覚えて・・・無い・・・だって・・・?」脱力して背もたれに寄りかかり、絶望的な顔で天井を見上げるアニアス。


「この事っ、ジェリスニーアに言って監視してもらいますから! 小父様の健康に悪い事今後一切禁止です!! そして今後は小父様とは別々のお部屋で寝てもらいますから!!」


「「ひええー・・・」」


 夜の営みに我慢がならず、薬に頼った妻二人は、シェイニー・インの経営者でもあるシェーンから半ば強引に部屋を分けられてしまい絶望に打ちひしがれるのであった。






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