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新生活

 冒険者ギルド地下の執務室に、アニアスが当たり前のように顔を出し始めて一週間が経過していた。

 セージがデスクに向かって依頼に目を通すのを左隣に立って覗き込み、セージの座るソファの背もたれに肩肘ついて微笑みながら口を挟む。


「セージ、その依頼は優先度は低いね。低レベル冒険者向けだから弾いてしまって構わないわ」


 戦傷の目立つ顔を顰めてじろりとアニアスを見上げ眉を顰める大男。


「アニアス、とりあえず依頼を張り出さんとならんのだ。選り好みするのは違うんじゃないか?」


「そんなとこはないさ! 優先度の高い依頼を先に掲示して低い依頼は後に回す! 仕事は回転率を考えないとね」


「しかしだ、な」


「セージ!」


「う? うむ」


「期間が長く見積もられてて簡易な依頼は言ってしまえば誰でも出来るんだ! 冒険者達にしたってレベルに見合った依頼をこなしてもらわないと奴らのレベル上げにもならないし、仕事だって増えないだろ!」


「人が足りなくなるよりはいいんじゃあないのか?」


「そういう弱気な仕事は認められないよ! 冒険者だって信頼第一なんだ。信頼を得るには依頼を成功させないといけない。質もそうだけど数も大切なんだ!」


「それはそうかもしれんが、ー」

「だいたい、優先度の高い依頼をギルドマスターのアンタがこなしてたらほかの奴らのレベルはいつまでたっても変わらないじゃないか!」


「犠牲は少なくしなくてはならんし・・・」

「過保護すぎ!!」


 ぴしゃりと小柄な金髪褐色肌の少女に叱られてつまらなそうに口をへの字に曲げるセージ・ニコラーエフ。

 叱った金髪褐色肌のボディスーツのような赤い全身革鎧(レザーアーマー)に身を包んだアニアスは彼の頭をしたたかに叩いて両手を腰に当てて胸を強調するように威張って見せた。


「いいかいセージ! アンタもうアタシの夫なんだからしっかり仕事しておくれよ!」


「結婚は早まっただろうか・・・」


「なんか言ったかい!?」


「いや、べつに・・・」


「ほらほら手が止まってる! 昼一の依頼張り出しに間に合わないよ!?」


「わかったわかった・・・」


 新たな依頼書をめくった左手の手首がアニアスの右手で掴まれる。


「それ! それは優先度高い方だからしっかり目を通してレベル分けして!」


「そうか? 森の獣道のパトロール・・・。優先度は高いか?」


「ガランジャほどじゃないが図体のでかい熊が目撃されてるんだっ」


「そんな話は聞かないが?」


「あ、ごめん。盗賊ギルド情報だった」


「そんなもの俺に解るわけがないだろう」


「優先度あげといて! レベルは4でいいわ!」


「もうお前が書類やってくれないか・・・?」


「つべこべ言わずに手を動かす!!」


 たじたじになりながら書類作業を続けるセージと監督する少女アニアスの図式を壁際から眺めながら、セージの所有物を自称する生人形(リビングドール)のジェリスニーアが嘆息を吐いてポツリと口走った。


「奥方様のお怒りはごもっともです。式を挙げたにもかかわらず一度もお抱きになっていないのは問題を通り越してお話になりません」


「おいジェリスニーア無駄なことを口走るんじゃない」


「ラーラ様もお怒りです。アニアス様をお抱きにならないという事はラーラ様にも手をつけられないという事。我が主ながらなんてヘタレなんでしょう」


「ジェリ!」


 あまりの言われように迷いを咎められた気がしてセージが怒鳴りつけると代わりにアニアスの拳骨が脳天に落ちてきた。


「セージ? アンタ、アタシの事好きなの? 嫌いなの?」


「い、いや、好きじゃなきゃ結婚なんかしないだろ・・・」


「じゃあさっさと手を動かす! きっちり仕事する!」


「お、おう・・・」


「そんで今晩はアタシとラーラ二人を抱く!!」


「いや、なんでそういう方向に、」


「ア・タ・シ・はっ! あんたの嫁なんだぞ!?」


「う、うむ・・・?」


 結婚したと言っても、それはアニアスを間近に置いて守る為であって肉体関係を求めての事ではない。そう納得していたのだが、アニアスにとっては男と女の関係以外のなにものでもないと改めて痛感させられてため息を吐くしかないセージの立場は可哀そうと言えなくもない。


(一国の姫かも知れない、というか姫だというのが正体で、しかも天神サーラーナの巫女だなどと言われて抱けるはずがないだろうが!? クソっ、ジジいどもめ・・・。やっぱり引き受けたのは失敗だった!)


「手! が! 止まってる!!」


「わかったわかった・・・! 勘弁してくれ・・・」


 闇雲に力を振るっているだけだった少し前が懐かしい。

 とんでもない人物に転生してしまったものだと、セージ・ニコラーエフは、大槻誠司は涙目になりながらパワハラに耐えて書類整理を続けていくのであった。






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