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9.イベント:【ドキドキ♡東京デイズ・ニュイランド!】 Q章

 前回までのあらすじ。

 緩木に、僕と綺羅星が手を組んでいたことがバレて、観覧車にへと監禁されました。

 以上説明終わり。

 ついでに僕もオワリ。


「まさか気づいてないとでも思ってた? バレバレだったよ? 七芽くんが片耳にイヤホンをはめてたことも」


 右ポケットの上に置いた手が強張る。

 どうやら、なにもかもがお見通しのようだ。

 不味いぞ……もう適当なことを言っても誤魔化せないぞ……?

 緩木のことチョロいと思っていたが、どうやらそれは僕の勘違いだったようだ。


「本当にアドバイスを受けてただけなんだよ」

「本当に?」

「ああもちろん」


 緩木に幻滅してもらうためのアドバイスをもらってたんだ。

 嘘は言っていない。


「分かったよ! それなら、私がここで七芽くんにキスしても、何も問題はないんだよね? だってこれは《デート》なんだから♡」

「すいませんでした。話します」


 即落ちニコマさながらに、僕は折れた。

 キス(それ)をされれば、もう恋人確定だ。後戻りは出来ない。

 僕はなるべく、綺羅星との関係を緩木に誤解されないように説明し、緩木はそれを僕を見つめながら聞いていた。

 浮かべている表情は怒っているようにも見えるが、同時に悲しげに感じた。


「……ふぅー、そっかー。やっぱりそういうことか」


 その言葉には、理解はしたが、納得の感情は籠もってなかった。


「でも正直にいえば、綺羅星さんの気持ちは僕にも分かる。それぐらい僕らの関係はおかしいって、流石に緩木も分かってるはずだろ? 僕みたいな冴えない変人と、転校してきた緩木みたいな美少女が一緒にいれば、誰だって心配するさ」

「えへへ~♡ そんなに褒めないでよ~七芽くん、ますます好きになっちゃうじゃん~♡」


 よし、とりあえずこのままご機嫌を取りつつ、話を進めるとしよう。

 頑張れば、会話の主導権を握れるかも知れない。


「でもそれはそれ、これはこれだよ! 私が誰と付き合ったって、私の勝手じゃない! 例え刹那ちゃんでも、これだけは譲れないの!」

「だったらせめて、なんで僕が好きなのか、理由だけでも教えてくれよ。そうじゃないと、綺羅星さんも納得しないと思うぞ?」


 そう、問題はそこだ。

 いくらいちゃラブ展開が続こうが、この話題だけは避けることができない。

 緩木結香、最大の謎。


 『どうして、緩木結香は無生七芽の事が好きなのか?』


 この最大のクエスチョンを、まだ答えてもらっていない。

 理由もなく美少女(ヒロイン)に好かれるなど、今時二次元ですらあり得ないものだ。

 現実でならば、尚更である。

 緩木結香には必ず、僕の事を好きになった理由(バックログ)があるはずなのだ。


「だから言ったじゃん。一目惚れだよ」

「それは嘘の理由だろ」

「案外、嘘じゃないかもよ?」

「どういうことだ……? もしかして、僕らは昔、どこかで会ったことがあるのか?」

「どうだろうね?」


 笑いながらはぐらかす緩木の表情を見つめるが、別に僕はメンタリストでもないため、彼女の感情を読み取ることは出来ない。

 だが、これだけ分かる。

 緩木は確実に、僕に何かを隠している、と。


「教えろよ。そうしないと、僕らの関係はいつまでたっても曖昧なままなんだぞ」

「曖昧じゃないよ? 私が七芽くんに課金する関係だよ」

「当たり前みたいな顔で答えるな。世間ではそれをヒモっていうんだよ。僕はそんな関係ごめんだ」

 

 改めて言葉にすると、まあ酷い。

 これは、綺羅星が心配するはずだ。


「肩書きなんてどうでもいいじゃん。大事なのは、気持ちなんだからさー♡ はい七芽くん、ハーグ♡」

「抱きついて誤魔化そうとするな。本当に僕らは会って数日の関係なのか? 僕を好きになった経緯は、そんなに言えないことなのかよ」


 僕の追求に、緩木は目を少しだけ細めて黙り込む。

 数秒後、また余裕そうな笑みを浮かべて、指を一本立てた。


「なら一つだけヒントを教えてあげるね?」

「ヒントだって? まどろっこしい、とっとと答えを教えろ。時間の無駄だ」

「七芽くんはもう人生に余裕を持って生きた方がいいと思うよ?」

「そんな人生時間の消費が激しい生き方、僕には出来ないな」 

「それじゃあいくよ? ヒントは『美女と野獣』だよ」

「『美女と野獣』? あの人型の獣が町娘と恋に落ちて、最後は人間となって結ばれる。あの童話のか?」

「そうだよー」

「訳が分からん……」


 この場合、単純に考えれば、僕が獣で、緩木がその町娘という配役になる。

 だが、僕が獣になった過去などもちろん存在はしない。

 それはあまりにも作風が違い過ぎる。


 それなら単語とかか? 

 でも『獣』で思い浮かぶ記憶なんて、小学生の頃、通学路に捨てられていた『路地裏のケルベロス』(後に、僕が家が引き取った)や、僕も探しに行ったことがある、噂話の深夜に徘徊する謎のモンスター『無銘の怪物』。後は『東小学校の勇者』や他の友達と一緒に、『南小学校の黒台風』に挑んでボコられた記憶くらいしかない。


 または何かの比喩か?

 美女と野獣の内容そのものは関係ない?


 うーん駄目だ。

 全然分からない。


「これが私の出せる最大限のヒントだよ」

「その様子だと、どうしても言うつもりはないようだな」

「それもどうかなぁー? ふふふ♡」


 含み笑いをする緩木の表情を読むことはやっぱりできない。

 謎を解くどころか、益々深まり、僕はより頭を悩ませることなってしまったのだった。


「でもこれだけは言えるよ。

 誰がなんと言おうと、例え七芽くんが私のことを嫌いになったとしても、私は絶対に七芽くんのことが好き。

 七芽くんが例え私を選ばない人生を送ろうと、私は死ぬまで七芽くんのことを愛し続けてる。

 何もかもを失ったとしても、私はどうしてもあなただけが欲しい。

 だからこの気持ちだけは、誰にも譲れない」

「……そうかよ」


 その言葉に、嘘は感じられない。

 これはきっと、緩木結香の直球100%の本音だ。

 そんなことは聞かされてしまえば、僕はもうなにも言えなかった。


 その後、何となく気まずい空気となってしまい僕らは、結局地上にへと降りるまでの間、何も話すことはできなかった。

 観覧車を降りてからもその空気が無くなる事はなく、短い挨拶を終えた後、僕らは駅で別れた。

 帰りの電車の中で、最後に恥ずかしげに手を振って駅の中にへと入っていった緩木の姿と、観覧車の中で聞いた話や本音が忘れられず、ずっとそのことばかりが頭の中を回り、思考が切り替わってくれることはなかった。


「何を失ってもか……たく、一体僕のどこにそんな価値があるっていうんだよ……」


 人の価値は十人十色だ。

 僕の生き方が他人から理解されないのと同じく、緩木の価値観を僕は理解することができなかった。



◇◇◇



 余談だが、僕が自宅にへと帰った後、綺羅星から怒濤のメッセージが飛んできた。

 最初は、今日の文句でも書いてあるのかと思ったが、文面を読むと明らかに違う。


『ね、ねぇ……結香、怒ってた?』

 

 から始まり、


『さっきから家で物音がするんだけど……

 もしかしてもう結香と別れた?

 お願いだから教えて』

『チャイムが鳴ったから出たんだけど、誰もいなかったの……

 ねぇ、もしかして結香はもう帰った……?

 何でもいいから返事して』

『窓から音がするんだけど……!

 私を呼ぶ声も聞こえるの……これカーテンを開かない方がいいのかな……?

 でもなんか開けなかったら、開けなかったで怖いの!

 ねぇどう思う!? 一言でいいから返事して、お願いだから!!』


 そして、『ああ! 窓に! 窓に!』というコメントを最後に、綺羅星からの連絡は途絶えた。


 僕は心の中で手を合わせて、綺羅星の無事を静かに祈ってやった。

 これからは僕も、緩木を怒らせるようなことは出来ないな。気をつけようっと。

 その教訓を胸にへと刻み、僕は眠りにへと就いたのだった。

 綺羅星の犠牲の元に。

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