硝子ライフ
かなり遅れて申し訳ない(汗)
アフターストーリーももう少し掛かるので、質問募集の期間もアフターストーリー更新中の間にしますね。
結香、刹那、硝子さん。
数々の事件を通して、僕は高校時代に三人の女性に好意を寄せられることとなった。
三者三様に魅力的な星5SSR美少女である彼女たちの中から、僕が選んだのは――硝子さん。
彼女に告白したとき、硝子さんは泣いて喜んでくれて、そのことが僕も嬉しかった。
それから数年後。
高校もとうの昔卒業し、就職して二年が経った頃、僕は――、
「またですか硝子さん!?」
その選択を無性に後悔していた……。
「で……できるって思ったんだよ……ただちょっと軽く料理をするつもりで……」
「だからってなんで台所が爆発してるんですか!?」
僕が目を落とす先にあるのは、黒焦げとなった鍋、散乱した食材の数々、びしゃびしゃな床、さらにはそれを拭こうとしたタオルなどが散乱していた。
事の発端は、さっきほど僕が帰ってきた時のこと。
仕事を終えて、現在同棲している硝子さんのアパートまで帰ってきて扉を開けると、飛び込んできたのは先ほどの惨状だった。
その中心に、床を拭いていた硝子さんが、帰ってきて固まり思わず声を上げてしまったというわけだ……。
ただでさえ仕事で疲労感が貯まっている身体が、更に重たくなったように感じ、肩が落ちる。
「一体どうやったら、こんな漫画にでも出てきそうな状況が作れるんですか……?」
「ううぅ……ごめんなさいっ……」
嘆く硝子さんに、頭を抱える僕。
硝子さんと付き合いだして、同棲しだし、僕は硝子さんの新たな一面を垣間見ることとなった。。
それは、彼女が漫画の取材と称して、様々ことにチャレンジしようとすることだった。
それ自体は別にいいことだ。
何処かの漫画家も、『面白さはリアリティの高さから決まる』と言ってたし、僕のその意見には納得できる。
だから最初こそは、そんな彼女のチャレンジも微笑ましく見ていられたんだ……最初こそは。
だが先ほどのように、硝子さんが慣れないことをすると、総じて酷い結果となり、またその後片付けは僕がすることになった。
何故かといえば、硝子さんが後片付けをすると更なる悲惨な状況になるからである……。
その結果、僕のストレスは貯まるばかりであり、こないだ結香と刹那に会った時は、若白髪を見つけられた時は本気でショックだった……。
僕は持っていた会社用の鞄を玄関の隅に置いてから、硝子さんの持っていたタオルを取って、いつもの流れで後片付けをすることにした。
「とにかく片付けるんで、硝子さんはそこら辺で座っててください……。てこれ、手を拭くようのタオルじゃないですか、はぁ……もう雑巾いき決定ですね……」
「ううぅ……そ、そんなのこと知らなかったんだもん……」
「それくらい何となく分かるでし……いえ、何でもありません」
これ以上言うと今にも硝子さんが泣き出しそうだったので、僕は言いかけた言葉を飲み込み、雑巾と化したタオルで水浸しの床を拭いていく。
硝子さんだって、手拭き用のタオルで地面を拭いたらいけないことくらい理解しているはずだ。
だが、突然のトラブルに陥ると彼女はパニックになってしまい、対処方法が分からなくなってしまう。これもその一つなんだ。
これは最早体質としかいいようがないので、どうにかしようとしても限界がある。
人間、向き不向きがあるのは知ってるし、僕だってもちろん万能なんかじゃないから、それくらい理解できる。
できるのだが……それならせめて何もしないでいてほしかった。
そんな本音を思いつつ、また溜息が漏れ出た。
こういう時についつい考えてしまう。
もしも結香や刹那を選んでいたら、こんな苦労はしなかったんだろうな、と。
結香は、全ての男子を魅了するために備え付けた女子力を持ち。
刹那は、一度見たり聞いたりしたことは完全にコピー出来てしまう万能性を持っていた。
あの二人を選んでいたら、僕は今よりも幸せになれたのだろうか?
そんな良くない考えが、頭をよぎってしまう。
だがそんなモヤモヤする思いは、頭を振ってすぐ消し去った。
既に決着のついてしまった過去など、もうどうしようもないのだ。
これ以上黙ってもまた先ほどのような暗い気持ちになってしまうため、僕は掃除の気晴らしついでに、台所の隅でしょぼくれている硝子さんに対して話題をふった。
「それで? 今度の篭守さんは料理回でもするつもりなんですか?」
すると体育座りをしている硝子さんは目元だけを出して、何かを迷ったように間を置いてから、小さく答えた。
「ううん……次は誕生日回なんだよ」
「篭守さんのですか?」
「ううん、切札くんの……誕生日を、篭守が祝うの……」
「それって……」
切札くんとは、硝子さんが描く『篭守さんは吐き出したい』に出てくるキャラクターの一人であり、主人公の一人だ。
彼は篭守さんの幼馴染であり、引きこもりな篭守さんの家に来てはお世話をする役割を担う……どこからどう見ても、僕をモデルにしたとしか思えないキャラクターだった。
そんな彼の誕生日を、篭守さんが祝う。
それを聞いて、僕は全てを察した。
「僕の誕生日を祝おうとしてくれてたんですか……?」
そうだ。すっかり忘れていた。
今になってようやく、今日が僕の誕生日であることを思い出したのだ。
「うん……ジョーカーくんにはいつも迷惑をかけてばっかりだったから、誕生日くらいはちゃんとわたしが準備して祝おうって……感謝しようって思ったの……」
硝子さんは後ろの部屋の扉を開けると、朝出かけた時にはなかった飾り付けが、壁一面に貼られていた。
「こっそりとお料理とかも用意して、ジョーカーくん驚かせようって……おめでとうて言って、笑ってほしかった……。でも、結局駄目だった……大失敗しちゃった……」
硝子さんは再び俯き、自分の膝に顔を埋めた。
僕は頭を無造作にかいた後、深く息を吐き出す。
「どうしてそのことを先に言わなかったんですか……」
「だって言ったら……ジョーカーくんは、またわたしを許しちゃうでしょ?」
「許すもなにも……」
僕は別に最初から怒ってなんか……。
「それじゃあ駄目なんだよ……。そうやってジョーカーくんにばかり甘えてたら、わたしのことを選んでくれたジョーカーくんが報われないよ……。だから一つでもいいから変わらなくちゃいけないの……! ジョーカーくんが『わたしを選んでくれてよかった』って。そう思ってくれるようにならないといけないのに……それなのにわたしは……料理の一つすら、まともにできやしない……っ」
硝子さんは顔を埋めて、縮こまる。
「もういやぁ……なんでわたしっていつもこうなの……っ」
自己嫌悪に苛まれた小さな悲痛な声が沈む。
僕はそんな小さな硝子さんの隣に腰を下ろし、同じく体育座りをして、頭を彼女の肩につけた。
「確かにあの二人なら、こんな苦労はしなかったと思います。結香は女子力全振りで、刹那は力をセーブしてますけど万能少女な、星5SSR美少女たちですから」
「そうだね……だけどわたしはただの星1Nのゴミカード。全く何の役に立たない。誰も好きになんてならない」
「確かにそうかもしれませんね」
「やっぱりそうなんだぁ!! ああぁ~あああっ!!! やっぱりわたし捨てられちゃうんだぁ~っ!!!!」
「ちょっ!? まだ泣くなっ! まだ話の途中だからっ!!」
「ほ……ほんとぉ……? すてない……?」
「捨てない捨てない」
涙目で上目遣いする硝子さんに、僕は手を振って先ほどの言葉を否定する。
たく……もう二十代後半になろうとしているのに、この人のこういう子供っぽいところは相変わらずだな、全く……。
僕は気を取り直して、先ほど言いかけたことを話出す。
「……硝子さん。『スターダスト☆クライシス』の、シューティングスターステラを覚えてますか?」
「え……え? なに……? いきなり何の話……?」
突然話題が数年前に終わったソーシャルゲームの話に変わったため、硝子さんも驚いて顔を上げた。
だが、僕は話をとめず、喋り続ける。
「いいから。彼が一体どんなキャラクターでしたか?」
「えっと……星1Nの銃使いだったよね」
硝子さんの言うとおり、シューティングスターステラは星1Nの至って普通のキャラクターである。
そのまま使えば、特別な能力もないザコカードの一つだった。
だが、
「彼は確かにレアリィティは低かった。でも、彼を育てきれば?」
「……一殺必中とはいえ、高火力の必殺技で星5SSRに匹敵する火力を放てた」
「そうです。そして同時に、ファンからも愛された」
シューティングスターステラのその性能が知られみんなが使いだすと、同時に彼女のその心優しいキャラクターも深く愛されるようになった。
その人気は今も尚続いており、時にはメインを張るスターダストブラスターともに最初に商品展開にラインナップされるほどまでになった。
「例え他人がゴミカードだと思ってても、魅力がないわけじゃないんですよ。どんなものにだって、何かしらの価値はある。少なくとも僕はそう思いたい、硝子さんのことも」
硝子さんの駄目さ加減に、人によっては彼女が役立たずだと思うかもしれない。そう感じてしまう人がいても仕方が無いと思う。
硝子さんと付き合うことを選んだ僕ですら、時に呆れかえってしまうのだから。
だがそれでも、認めるわけにはいかないんだ。
どれだけ硝子さんが失敗しようとも、僕はちゃんと彼女の魅力を知っている。価値を見いだしている。
他人にとっては無価値でも、僕にとっては何物にも代えがたい大切な人なんだ。
だからそんな否定は、僕が許さない。
例え、それが本人の言葉だったとしても。
「確かに硝子さんを選んで後悔するときもありますよ。それは否定しません」
「うぅ……っ」
「でも今日改めて、硝子さんを選んで正解だったと思ってますよ」
「っ!? な、なんで……どうして……こんなに大失敗しちゃったのに……っ!?」
硝子さんが手を広げる大きな失敗は、確かに悲惨なものだ。
片付けをすることを考えると、本当に気が滅入ってしまう。
でもこれは――、
「挑戦に失敗は付きものじゃないですか」
「っ!」
「硝子さんは確かに駄目駄目です。でも腐ってなんかいない。ただ人一倍不器用なだけで、ちゃんと逃げずに成長しようとし続けている。僕はあなたのそういう頑張っているところが大好きなんです」
「ジョーカーくん……七芽くん……っ」
「だから硝子さん。僕はあなたを愛してる」
どんなに駄目でも、どんなに酷くても、僕はこれからも硝子さんを愛し続けるのだろう。
硝子さんが駄目人間な理由を、僕はちゃんと知っているから。
硝子さんがそれで納得したかどうかは分からなかったけど、体育座りはもう止めていた。
「さてと、それじゃあ話も終わった事ですし、今から夕食を作ります」
僕はワイシャツの裾を腕まくりしつつ立ち上がると、足下に硝子さんが絡んできた。
「だ、だから今日はジョーカーくんの誕生日だからわたしがやるよ……っ!」
「はぁ? 何言ってるんですか?」
「へぇ……?」
僕は再びしゃがみ、地面にへたれこみながらキョトンとした表情をする硝子さんと目線を合わせる。
「手伝ってくださいよ。少しでも変わりたいんでしょ?」
そう言って手を差しのばすと、硝子さんの口はふにゃけたように笑って、元気よく僕の手を掴んだ。
「う、うん!」
硝子さんを立ち上がらせて、あらかた片づけた台所に二人で立って、僕らは調理を始めた。
おぼつかない手つきで包丁を握る硝子さんにハラハラしつつ、僕は彼女の成長を静かに見守った。
「そういえば、今日の夕食は何にするの?」
包丁を動かす手を止めて、硝子さんは隣にいた僕に顔を向けた。
余ってる材料的にも、硝子さんのスキル的にもできる物は限られている。
だから、それら二つの条件を満たした料理といえば――、
「カレーライスですよ」
それ以外なかった。
だが、料理の名を聞いた時の硝子さんの顔は、一生忘れられないくらいに、綺麗でそして魅力的だった。
質問回での質問を募集中です!
感想覧に、【質問】と明記して書いてくだされば、質問回時に七芽たちがお答えします。
次回『愛果ナイトメア』の更新は、2019年5月18日の夜7時を予定しています。




