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結香ウエディング

 暖かい春風が桜の花びらを運んで宙を舞う。

 僕はそれを眺めながら、青空が広がる空の下でベンチに座りながら待っていた。


 誰をって? そんなの、


「七芽くーん!」


 結香に決まってるだろ。


 結香は駆け足で僕の座るベンチまでやってくる。


「ごめん、待った?」

「五分程」

「むぅ……そこは今来たところって言うところだよ?」


 結香はふくれっ面になるも、腰を下ろして僕の左隣に座り、ぺったりとくっつきはにかんだ。


 今日は、薄い白色のワンピースを着て、その上からは青地のジャケットを羽織っていた。

 

「今から移動しようていうのに、どうして座る」

「いいじゃん、ちょっと休ませてよ。疲れたんだよ」

「たかが授業の一つ受けたくらいでか?」

「つまらない授業を聞くのは、結構な体力を使うでしょ?」

「まあ、それには同意するけどさ……」


 結香と高校で再会してから、もう数年が経った。

 僕と結香は高校卒業後、共に一緒の大学に進学。


 刹那に関しては、高校卒業後、本格的なモデル活動を開始して、今度ドラマにもするとこないだ聞いた。


 硝子さんも漫画家として依然活動中であり、最近だと動画サイトにてVRアバターの皮を被って実況プレイも配信しており、中々に人気を博していた。それとこっそりと聞いた話ではあるが、『篭守さんは吐き出したい』のアニメ化企画も、水面下で進んでいるとかなんとか。


 今でも二人との交友は続いているが、僕はもう、硝子さんのお世話バイトもしてなければ、刹那のことをそこまで気に掛けていない。


 彼女たちの問題を一通り解決したこともあるが、それ以上に、もうそうすることができなくなったからだ。


「いいでしょ? 私は七芽くんの彼女なんだからさ」


 そう、最終的に僕は選んだのだ――結香のことを。


 彼女と付き合うことを。

 彼女と共に生きることを。


 それを告げた時の硝子さんの泣き顔は……今でも忘れられない。忘れてはいけない。


 その後にもう一波乱はあったものの、今では僕と結香が付き合うことを喜んでくれている。

 それが例え、建前上のものであったとしても、そんな硝子さんの優しさが僕には嬉しかった。


 選んでしまった以上、決断した以上、僕は結香と一緒に幸せにならなくてはいけない。その責任がある。

 そうでなければ誰も報われないし、誰も幸せにはならない。


 だから今日、僕は前々から計画していたあることを実行するため、この公園で結香と待ち合わせをしていたのだ。


「さてと、それじゃあそろそろ行くぞ。いつまでも開いてるわけじゃないんだからな」

「そうだね、じゃあ歩きながらくっつくぅ~♡」

「おい! いきなり引っ張るなよ! 体勢が崩れるだろうが!」


 腕にぶら下がってくる結香を引きずりながら、僕らはその場所を目指し歩き出した。



◇◇◇



「わぁー、久しぶりだね。ここに来るのも」

「だな」


 僕らが着た場所。

 そこは僕らにとって最もなじみ深く、そして様々な思いでのある場所だった。


 全ての始まりにして――全てが決まった場所。

 結香が告白してきた――僕が結香を選んだ場所。

 

 僕らの母校である北南高校にある、あの例の空き教室に僕らは来ていた。


 学校側には事前に許可をもらい、鍵も先ほど借りて中に入った。


 空き教室に入ると、結香はそそくさと窓際まで行き、いつかの定位置だったその机を後ろに手を回しながら眺めた。


「そうそう、ここで三人一緒にお弁当を食べたよね。七芽くんに告白してたのもここだし……七芽くんが私を選んでくれたのもこの空き教室だった」

「それももう、大分前の話しだけどな」

「あはは! そうだったね!」


 結香は大きく笑ってから、そして笑いながらも真剣な目をしていた。

 その瞳は忘れもしない。


 結香と初めて出かけた時、観覧車で向けられた表情だ。


「あの時のこと……今でも全部覚えてるよ。一言も忘れずにね♡ 『僕は――」

「やめろマジやめろよ」


 あの時の僕は本当にどうかしてたんだ。

 あんな小っ恥ずかしい台詞を素面で聞いたら、窓から飛び降りる自信すらある。


「あはは! 冗談だってば~!」


 悪戯な笑みで結香は、赤面した僕を笑った。

 くっそ……今に見てろよ……。

 

 僕は用意しておいたある物を取り出して、息を整えて準備する。


「でも七芽くん、どうして急にここに来ようなんて言い出したの?」

「それは……ここで言いたかったからだよ」

「え?」


 結香が振り向くと同時に、僕は彼女の前に膝を付いて、手に持ったある物を突き出した。

 それは小さな箱に収まった、宝石の埋め込まれた銀色に輝くリング。


「っ!」


 結香はそれを見た瞬間、瞳孔が開いたのが見えた。

 息を殺し、両手で口元を覆う。


「な……七芽くん、これって……」

「ああ、そうだ。婚約指輪だ」

「じゃ……じゃあ……!」

「結香、僕と結婚してほしい」

「っ!!」


 僕がそう言うと、結香の目の端からは涙の粒が零れだし、それを手で何度も何度も拭いては、また涙を流す。


 このことは、結香と付き合うことになって最初に決めていたことだった。

 もしも結香に婚約することになったらのなら、この場所がいい。

 僕らにとってここ以外、考えられなかったから。


「いい……のぉ? 私で……私なんかでぇ……?」

「僕は結香と結婚したい。結香と一緒に人生を歩みたい。だから、受け取ってくれるか?」

「は……い……喜んで……っ!」


 結香の細く小さな右手の薬指に、その指輪をはめていく。

 はめた後、結香は涙を潤ませたその目で、手を上にやり眺めた。


「ありがとう……七芽くん。私を選んでくれて。私を好きになってくれて」


 僕らは重なり合う。

 誰もいない教室で、二人だけで。

 誰にもはばかれず。


 この後、二人はどうなったのかって?

 そんなことは決まっている。


 主人公とメインヒロインがくっついたんだ。

 ハッピーエンド以外、あり得ない。

少々、短いかもしれませんが、結香に関しては本編の出番が多めだったので、勘弁してください(汗)。


そのため次回の刹那ルートは、少し長めとなっています。


更新日は、五月十二日の夜七時を予定しています。


【追記】

すいません。文章量多くなったので、明日(今日)投稿します。

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